暗殺者 4
間が空くと宣言はしておりましたが……物凄く、開いてしまいました。申し訳ございません。
そしてこのタイミングで、なろうの仕様変更ですか……
下書きがどこにあるのか探したり、右往左往してしまいました。
これはもう、とぶっきゃねえ——……
追い詰められちゃったミシェル・グロリアス十五歳がそんな人類の限界への挑戦をひっそり固める、傍ら。
「くそっこの鹿どうなってんだ!?」
「ちょ、そっちには行くなってばー!」
「マティアス、回り込め!」
「う、うん……っ!」
「どうして執拗にミシェルを追うのですのー!」
必死に逃走かますミシェル嬢の意識外で、その仲間や先輩たちは鹿の進路変更を促そうとこちらもこちらでとても必死だった。
なお、そんな仲間達の声は、色々切羽詰まったミシェル嬢の耳には入っていない模様。
巨大すぎる鹿の、圧倒的質量。
おまけに何故かミシェル嬢を執拗に狙う、その執着。
謎過ぎる推定森の主に、魔法騎士候補生の皆々様は大変苦慮していた。
いっそ、子鹿を鹿質にしてやろうか……?
そんな悪党のような発想すら浮かぶものの、
「チッ……親が親なら子も子だな」
「フランツ、その発言、なんというかその……使い方間違ってる気がするよ」
「マティアスだってそう思うだろ!? なんだよ、あの大きさ。子鹿の筈なのにサイズ感が普通の鹿の成獣サイズなんだけど! 足も速ぇし!」
「そ、そういう種なんだよ。たぶん。鹿って種類によっては、凄く大きいし……?」
「大きい種っつっても、アレはどう見ても規格外だろー!?」
巨鹿の子は、子は子で巨鹿だった。
成獣サイズ感の子鹿は、親より遅いものの、それでも親の全力疾走に遅れ気味ながらついて行けるだけの脚力を持ち。
そして質量的にも中々に人の手を寄せ付けない。
下手に手を出そうものなら、弾き飛ばされそうだった。
親の方は、近寄る者を轢き殺しそうだったが。
「獣の全力疾走、ついて行くの難しいって!」
「なんでミシェルは自力で逃げられるんだ……?」
「クッソ、せめて馬がいれば」
「馬鹿、こんな木々が密集した森の中じゃ、馬がいたって。整備された森とは違うんだぞ。俺等の未熟な馬術じゃかえって事故の元ぉ!」
「それでも自前の脚力よりゃマシだろ。人間の限界がここにある」
「ミシェルは?」
「あいつ、本当に人間なのかな……」
「とうとうそこ疑惑になっちゃった!? いや待て待て、ミシェルのお師匠さんに比べたらまだ人間の範疇だろ! まだ!!」
障害物が多く、トップスピードで走り続ける事が難しい環境だ。
そのお陰で巨鹿の速度も若干落ちているとは言え、人間側にとっても同条件。
森の木々が種族平等に、全ての者の前進を阻害する。
野生の獣のスタミナと、森に適応した肉体。
鹿の足に人の足で追いすがるのは難しく、ミシェルの班員や先輩達は徐々に引き離されていく。
ミシェル嬢は現在進行形で逃げ続けていたが。(※孔雀明王様の功績。)
いま、ミシェル嬢は孔雀明王様の加護を得て、韋駄天の如く疾駆していた。
走りながらも、非常事態で上手く回らない頭を、なんとか回転させながら。
だがしかし、古来より。
考える余裕の足りない状況で無理矢理捻り出した思考は、大体の場合、突飛な方向に……行ってはいけない方向に、とんでもねえ勢いで飛躍しちゃうものでして。
例にもれず、ミシェル嬢もまた。
冷静さを欠いた状態で頑張って出した考えは、やっぱり斜めに間違っていた。
この状況で、何が正しいかなんて。
ハッキリと答えを出せるわけでもないけれど。
何度も、何度も何度も。
自分に向かって猛烈な勢いで突進し、頭から突っ込んでくる巨大な鹿。
その頭部をしっかりと視界に納めながら、逃げながらも。
ミシェル嬢は鹿が突っ込んでくる度に、脳裏で拍を取ってタイミングを計っていた。
(——やれる! いけるいける、できる! だって私は多分、やればできる子!)
それに、何より。
(できる、できない筈がない。だって私は、師父の弟子なんだから!)
ミシェル嬢は頭の中に、偉大なる師の姿を思い浮かべる。
それと同時に、師に鍛えられた修行の日々が思い出された。
「……そう、全てはこの日の為と言っても過言ではない筈!」←過言。
——思い出せ、師父の教え。
(※精神修養以外は大体無茶ぶり。)
猪のような勢いで、突進してくる巨大な鹿。
ミシェル嬢は鹿が突っ込んでくるのを正面から待ち受けるような構えで。
鹿の大きな角と頭を見ながら、タイミングを合わせて……
「うおおおおおぉぉぉ……!! 赤い配管工のオッサンよ、今こそ我に力を!」
前世の私、あのオッサンのゲーム殆どやった事ないけど。(前世の主な放課後の過ごし方:野遊び)
だけど前世のお姉ちゃんがお友達と遊ぶ時、偶にやってたみたいだし。ご利益ください!
意識の欠片でちらっとそんな事を一瞬考えながらも、ミシェル嬢の深すぎる集中力と脅威の身体能力が、ソレを可能とした。
「孔雀明王様っ」
『はいなのー!』
ミシェル嬢の呼びかけに応じた、精霊の御力。
少女の両足を中心に淡く身に纏っていた緑の燐光が力を増す。
今やその光は、人目ではっきり光っているとわかるほど。
その輝きが、彼女に更なる力を与えた。
「せーの……っ」
ぴょーいっ
そして、彼女はとんだ。
巨鹿の顔面めがけて。
「み、ミシェルぅぅうううううう!?」
「おま、何やってんだー!!」
響き渡る、少年達の絶叫。
彼らの目には、突進してくる巨大な獣へと、小柄な少女が自ら身を投げ打つように飛び出していったようにしか見えなかった。
彼らの目に映った光景は、正しい。
何ら間違いなど無い。このままでは激突必至だ。
ただし、ミシェル嬢の思考だけが読めていなかった。
そう、決してミシェル嬢は自暴自棄になった訳でも、正気を失った訳でもない。
その思考回路は少々とち狂っていたかもしれないが。
巨鹿めがけてド真ん中。
突っ込んでいった少女の身体は、頭からいった訳じゃなかった。
むしろ、逆。
接触の瞬間、それは足先から。
ミシェル嬢の足先へと、集中する光。
巨鹿はその時、確かに顔面でミシェル嬢の靴裏の感触を感じていた。
ミシェル嬢の方は鹿に触れるか触れないかの刹那、足の裏に鹿の勢いを僅かに察知するや賭けに出る。
何より重要なのは度胸とタイミング、それに運。
彼女の選んだ『空とぶ方法』。
ソレは、鹿の勢いを味方につけること。
要は突っ込んできた鹿を踏み台に、その勢いで加速力を得ること。
その結果が、どうなったか?
成功したのか、失敗したのか……それを知りたければ、ほら。空をご覧?
天高く(吹っ飛んで)行く、少女の姿が木々の向こうに見えるだろう?
「ぐ、グロリアス嬢ぉぉおおおおおおおおおぅ!?」
「えええぇぇぇぇぇえ!?」
そして驚愕に震える先輩たちの声。
「ちょ、グロリアス嬢が飛んだんだが!?」
「飛んだというより跳んだ、という感じかしら」
「蛙かな、飛蝗かな」
「飛蝗じゃないよ、ミシェルだよ」
「やだもう、何で動じてないのこの後輩たちー!?」
全く動揺する気配もなく、むしろ遠い目で飛翔(笑)していくミシェル嬢の軌跡を見送る班員たち。
諸先輩方は、後輩のそんな様子に戦慄を覚える。
え、何この反応?
——今までの、ミシェル嬢の日頃の行いのなせる業である。あと師父。
一方、ミシェル嬢に文字通り踏み台にされた大きな鹿さんは、ミシェル嬢飛翔(笑)の反動でもんどり打って倒れ込んでいた。
生半可な鹿さんであれば首の骨を折って御臨終となって然るべき事態であったが、巨鹿はただの鹿さんではないのでぱっと見、無傷だった。
その後ろについて走っていた子鹿の方が、むしろ巻き込まれて怪我しそうだったくらいである。急停止からの流れるようなサイドステップで華麗に回避して、こちらも無傷だったが。野生の本能が成せる回避能力の高さが垣間見えた。
森の王は思いっきり転がって後方の木に衝突するも、倒れ込んでから余裕の10カウント以内で立ち上がる。むしろミシェル嬢が吹っ飛んでいく前より、ある意味では元気そうだった。そう、激昂、という意味では。鼻息荒く、血走った目が、空に消えていったミシェル嬢を探すように空を睨んでいる。
襲い掛かっていたのは森の王の方なので、結果的に蹴られるような形になってしまった先程の衝突も、正当防衛と言えなくもないのだが。しかし巨体がもんどりうつ勢いで蹴り転がされたようなものなのだ。誇り高き森の王としては、そこはお怒りポイント高めだったらしい。
森の王の周囲を心配そうにうろうろする、我が子の姿が見えているのか、いないのか。
ミシェル嬢に転がされる前に比べて、一層の執念と怒りを燃やし。
距離の開いてしまった……既に姿の見えなくなってしまったミシェル嬢を、決して逃がすまいと言わんばかりに。
更に増す勢いで、森の王の形振り構わぬ追走が再開した。
さて、森の王が更なる追跡に妄念を燃やす一方。
お空に消えたミシェル嬢の方は……?
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「みょぉぉおお!? く、孔雀明王様ー!」
自分の想定以上の速度と勢いでお空を突っ切る羽目になり、私は珍妙な悲鳴を上げていた。
あわあわ、自分でも珍しいくらいに慌てていると思う。
『はいなのー』
「へ、へるぷみー! 自力で飛行している訳じゃないから仕方ないのかもしれないんだけど! 姿勢制御その他諸々、速度の調整とか! 進む方向の調整とか! 何とかならないでしょうか孔雀明王様!?」
『むりなのー!』
「速攻でお断りされたー!! え、えと、えと、それじゃあマゼンタ様は! どうにかできない物でしょうか!」
『むり!』
「可愛くスパッと一刀両断! 頼みの綱、シアン様は!?」
『逆に問うが、火や水の精霊に何とか出来るとでも? 精霊とて、万能ではなし。こういう場面では風の精霊や重力の精霊なんぞに助力を請うのが筋であろう』
「例えば進行方向に大きな水の塊とか出してもらって、それで私の身体を受け止めるとかは無理ですか!?」
『ふむ……出来ぬことではないが。しかし水であれば操れるが、そなた自身には妾の支配も及ばぬ。能力範囲外じゃからの、重力に縛られるぞ』
「……つまり?」
『水に受け止めさせた次の瞬間、推進力を失って墜ちるぞ』
「墜落必至!! しまった、今の私、防具とか装備諸々で重いんですね!? 水に浮かばないからかー! じゃ、じゃあ、水で受け止めてから、打ち返すってのは!?」
『やれというのであれば、やっても構わぬが……今が結構な勢いで進んでおるじゃろ。もう少し速度が減衰してからでなければ、この勢いを跳ね返すとなると……圧力で内臓ぐちゃぐちゃになりはせぬか? 人間の体の事はよくわからぬのじゃが、割と脆くはなかったかのう』
「あ、やっぱさっきのお願いはなしで頼みます」
いやでも、孔雀明王様のお力で身体強化して、身体の耐久力とか防御力をガチガチに固めたらイケるか……? それでも普段から無茶の多いシアン様が心配するくらいだし、マジでヤベェ可能性が。
身体の頑丈さの底上げをしたとしても、多用は危険だ。
実際にやるとしても、シアン様が心配するくらいだしな……やるとすれば、事前にやれるかどうか試す必要を感じる。何にせよ、ぶっつけ本番は止めといた方が良いだろう。シアン様が心配するくらいだし。
取れる手段が限られる中、とりあえず現状では、シアン様に水で受け止めてもらってからの自由落下が一番マシな手段になるのか……? なるのか? いや、冷静になろう、それはそれでヤベェ。
今は結構な高度にいる気がする。
ここから自由落下したとして……いや、身体強化があればなんとかなりそうだな?
師父なら身体強化すら要らないかもしれない。
保険をかけるとして、落下した先で地面と衝突する瞬間に、再度水で受け止めてもらうって手もあるか。
あ、なんだろう。
なんだかんだ、何とかなる気がしてきた。
最悪のパターンに陥ったとしても、命だけは助かる気がしてきた。
……よし、何とかなるって思えたら気が楽になった!
余裕ってヤツが戻ってきた気がする! 気のせいかもしれないけど!
何とか無事に地上へ生還する手段に目途が立ったお陰で、他の事を考える余地が出てきた。
どこかの地点でストップして、地上へ自由落下。
……となると、どこでストップするかが重要だな?
余裕を取り戻したおかげで、周囲……というか地上へ目を向ける事も出来るようになった。
そう言えば迷子になって慌てていた時、高い所から戻る方向を探す、なんて案もあったけれども。
今は鹿の対応に追われている。
私が空に消えたことで、鹿の意識外へと離脱できていれば良いんだけど……。
万が一、それでも追ってくるのなら。
私だけじゃ手に余る可能性もあるし、鹿が躊躇したり怯んだり、逃げ帰っていただく可能性を挙げる為にも……うん、やっぱ人手が欲しい。
進行方向に、どこか。
訓練に励む魔法学園生の、集団とかいないか……?
立地的に、開けた場所であればなお良し。
そんな気持ちで、地上へ目を向けていると。
丁度、先の方。
森の木々が途切れて開けた場所に、都合の良い集団が……
……?
………………あれ、実践魔法コースの奴等だな?
集団の中に、ひときわ目立つ。
見栄えだけは上等にド派手な、大仰な魔法を一人で扱う見慣れた姿を見つけてしまった。
おや。
青次郎、みーつけた。
さて、ミシェル嬢にロックオン☆されてしまった青次郎。
この後、どうなる?
a.殴られる
b.殴られる
c.吹っ飛ばされる
d.殴られる
e.ラ●ダーキック




