兄と弟2
年末年始、忙しいですね。
今年の冬休みは短めですが、職場も家もやることがたくさんです。
もしかしたら次週の投稿は出来ないかもしれませんので、ご了承ください。
世間は狭い。
特にここ、首都だし。
どこで人と人が繋がってるかなんて、わかんないよね。
まあ、うちの兄とオリバー&フランツの関係については簡単な話だったけど。
オリバーとフランツ。
二人は元々、魔法学園じゃなくって士官学校への進学志望だったんだってさ。
その為に、士官学校が無料で開催している進学志望者への事前訓練にも参加していたんだそうな。
それが去年の話。
じゃあなんで二人が魔法学園にいるのか?
入試で魔法適性高いのわかってひっかかったんだってさー!
初めて知ったけど、魔法学園の魔法騎士コースと士官学校の入試はほぼ同じテストを使っているそうな。ただ、採点基準が違うだけっていう。
そして魔法学園と士官学校双方の採用基準を満たした場合、魔法学園の方へ優先的に入学させられてしまうらしい……うん、生徒の希望は?
うちの魔法学園は、他国の王子が留学してくるくらいの名門校。
その事を踏まえて考えればわかる通り、うちの国の特性は『魔法』。
他国から『魔法の国』って呼ばれるくらいね。
だから騎士にしても、一般的な物理特化の騎士より魔法騎士育成の方に力が入っている。
魔法学園と士官学校の両方に通って長く教育されるのもその為だ。
そんなもんだから、魔法騎士になれるだけの素質を認められてしまえば、魔法騎士コースに回されてしまうのも仕方ない……いや、本当に仕方ないのか?
国の意向で進路を左右される。
だけど騎士という宮仕え武官を目指すのなら、国に進路へ干渉されても甘んじるべきなのか?
まあ、実際問題、なってしまえば魔法騎士の方がお手当とか待遇面で優遇されるらしいけど。魔法職でもあるから、特殊職ってことで特別手当もつくらしいよ!
そういった事情があって、魔法学園への入学を断固断る! なんて人は滅多にいないらしい。
それ、たまにはいるって事だよね?
「オリバーもフランツも、そんな経緯で魔法学園に入ったのね。初耳ー」
「特に言ってはいなかったからな」
「そうそう。そんで去年みっちり士官学校に顔出してしごかれてた時、カロン先輩と知り合ったんだよな。……互いに顔と名前を知ってるって程度だけど」
「知人になったと言い切るには……カロン先輩は優秀で、一目置かれている人だしな。俺達みたいな基礎訓練ばかりの下っ端が、そうそう話を出来る距離でもなかったし」
「うん、あの、オリバー? フランツ? 目の前で兄を『遠い憧れの人』みたいな目で見ないで? 身内をそんな目で見つめられると、妹として凄く居たたまれなくてね?」
というか私の兄は一目置かれているのか。初耳なんだが。
うーん……兄も自分でそういう事を吹聴するような人じゃないしなぁ。
今も目の前で褒められてるのに、素知らぬ顔でそっぽ向いてるし。
これは普段知らない兄の姿について、もうちょっと聞いてみるべき?
「優秀で一目置かれている、ですって? 具体的にはどういった点が?」
好奇心を刺激されたのは私だけじゃなかったか。
ふと気づけば、エドガーまで興味津々って顔で身を乗り出している。
それに何故か、当人でもないのに自慢げに胸を張るフランツ。
「何と言ってもカロン先輩は、常に冷静沈着! 臨機応変! どんな困難に直面しても常に顔色一つ変えることなく、その場に最も適した選択を即座に選び取って行動する応用力・判断能力の高さ! 士官学校の他の先輩達でさえ、カロン先輩が動じるところを見たことがないって言うくらいなんだぜ!? 狼狽えたり動転したりってことが一切ないんだ。そして判断は常に的確で、面倒見が良い! これで慕われない方が嘘だろ」
「そうだな。俺の意見も大体フランツと同じだ。常に泰然としている姿は、誰の目にも頼もしく映る。どうしてそんなに常に冷静でいられるのかと、他の士官学校生がカロン先輩に尋ねた際、カロン先輩は余裕のある微笑でこう答えたそうだ。
——『昔から手のかかる弟妹の面倒を見ていたからな。何をやらかすかわからない弟妹に比べれば、何が起きたとしても基本やることの変わらない騎士の任務は……」
何故か。
何故だろうか。
兄を憧れの目で見ながら得意げに語っていたオリバーが、かつての兄の言葉だというセリフの途中で動きを止めた。言葉も途中で切られてしまったので、まるで電池が切れた玩具のような固まり方だ。
「……手のかかる、弟妹?」
そして、私と弟と、兄を見比べる視線。
あっはっはっはっは。それは誰の事かな?
我が家は六人兄弟。カロン兄様が四番目、私が五番目でシャルルが六番目だ。
該当者が二名だぞー?
「兄様、手のかかる弟妹だなんて他人様に言ったんですか?」←手のかかる弟。
「まあ、兄様ったらなんて仰りようでしょう! 酷いですわ」←手のかかる妹。
「俺は本当の事しか言っていない」
左右から兄の腕を引く、私とシャルル。
しれっとした顔の、兄。
兄の主張は私と弟が何をやらかすのかわからず、それに一々付き合って面倒を見ていた為、胆力と応用力が鍛えられたとかなんとか。
私達と一緒にいる事が精神修練になったとでも言いたげである。
それは良かったとでも言うべきなのか?
まったく、失礼な兄である。
いつまでも玄関口にいるのもなんである。
今日の本来の目的は、シャルルの学園見学。可愛い弟に学校を案内してやる事だ。
それというのもシャルルときたら、学園は本来15歳で入学するものなのに。
「え、シャルル君、飛び級入学狙ってるの!?」
「はい。ミシェル姉様がいない実家は退屈過ぎます。他の兄様や姉様もみな、自分の仕事や家庭がありますから。僕一人であと二年も退屈していないといけないなんて耐えられません。それにミシェル姉様と一緒にいた方が、精霊術の教えを請えますから」
今年はもう無理だから、来年——シャルルは14歳での入学を狙っているのだという。
余程の理由と才能がなければ、飛び級入学なんて無理だ。
でも精霊術に関しては、なんでも兄や姉の真似をしたがる弟が可愛くて……私が色々仕込んじゃったからなぁ。精霊棚をはじめとする、精霊との付き合い方を。
「退屈だからで飛び級なんて出来ないだろ。他に、何か入学を繰り上げたい理由でも?」
不思議そうに尋ねるオリバー。
シャルルはよくぞ聞いてくれたと、目を輝かせた。
「はい! 僕は姉様の精霊術の可能性を探求したい——でもそれ以上に、魔法研究コースに入って正式に姉の……いわば『ミシェル式精霊術』を正式に発表し、世に知らしめて変に理屈を捏ね繰り回して斜めに迷走している頑迷・無知蒙昧な研究者共に『ミシェル式精霊術』の力を知らしめてやりたいんです!」
弟の目はきらっきらしていた。
そして私の学友達は口をきゅっと引き結んでいた。
おい、フランツ。露骨にドン引きって顔するな。表情くらい隠せ隠せ。
魔法研究コースは、前にも少し説明したと思う。
そう、魔法の術式やら技術の体系がどうのこーのと何か学術的な面で魔法を追及する集団の集まりだ。将来の偏屈研究者共の卵だな。既に偏屈の片鱗を輝かせ始めている、頭の良いお馬鹿さん共だ。
精霊術を効率的に使えるよう解析したりだとか、失われた魔法を復活させようと試行錯誤したりだとか。そんなことする前に精霊にミルクの一杯も奢れよと思わなくもない。
私は変人の巣窟だと認識しているが、救いがたいことに弟はそこに入学志望だという。
シャルル、お姉ちゃんは悲しい。
「み、ミシェル式精霊術?」
そして弟のツッコミどころ満載の発言に、マジでツッコミ入れちゃう勇者が一人。
マティアスよ、普段は口が重い癖に何故こんな時ばかり口が緩いんだ。
「はい! 皆さんも姉の同輩というのであれば、きっと既に姉の精霊術の威力は、精霊との意思疎通能力の高さはご存知でしょう。僕は姉の精霊との交流方法に独自性を見出し、便宜上『ミシェル式精霊術』と呼んでいます」
「独自性、ねえ……でも確かに、ミシェルの精霊術は威力が高いわぁ。何か特殊な秘訣でもあるのかしら」
魔法騎士は完全なる戦闘職。
強くなることに貪欲な集団でもある。
弟の言葉に引っかかることがあったのだろう。
強くなる為のコツがあるのかと興味を引かれた様子で、エドガーが口を挟む。
「もちろんです。姉の方法を試せば精霊術強化への大きな第一歩となることでしょう。今の一般論が精霊術の秘訣としているアレコレなんて問題になりません」
「へえ……世に知らしめたいという事は、広める気はありますのよね? 今、わたくしが聞いても大丈夫かしら」
「問題ありませんよ。むしろ皆さんが強くなったと実感してくだされば、その意見を纏めることで『ミシェル式精霊術』の有用性を語ることができるでしょう」
シャルル、お姉ちゃんは君が変な宗教の教祖にならないか心配だよ。
とうとうと得意げに語る弟の姿に、微妙に不安を感じた。
「それで、ミシェル式とやらは何をすれば良いのかしら」
「簡単です。まずは——精霊様を崇める祭壇を作るところから、ですね」
シャルル、それ間違ってはいない。間違ってはいないけどさ……
将来、彼が新興宗教の教祖扱いされるんじゃないかという私の不安がいや増した。
私の弟が魔法研究コースを目指すに足る変人、と。
学友達に認識された瞬間だった。
その後、弟に請われて精霊棚の詳細なつくり方を説明したら、私まで同じ目で見られたけどな!




