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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
社交会への果たs……招待状
10/129

兄と弟1

第二の王子を殴ったミシェル。

さあ、次なる獲物は——?


……と、三人目の王子を殴りに行く前に。

幕間にお付き合いいただければ幸いです。



 青次郎を殴った。

 超すっきりした!


 だけど話はそれだけじゃ終わらない。終われない。

 何しろ後、攻略対象(ターゲット)は三人残っているのだから——。


 そして学業面でも、他コースの王子を遠慮容赦なく殴り飛ばしてただじゃ終わらなかった。

 いやね、相手が物理貧弱(モヤシ)ってことは私も理解していたよ?

 模擬試合の前にも、実践魔法コース(あいつら)の物理装甲:紙なんだから攻撃自体は加減するようにな? 追撃は一発までにしとけよ? アイツらほぼ一発で沈むからな?って教官の注意事項にあったもの。

 そこを私は四発、手加減抜きに殴った訳ですよ。

 いや、アイアンクローを殴った範疇に入れて良いのかわからんけど。

 いけ好かねぇ実践魔法コースのエリートを殴り飛ばしたことに、教官は笑顔でサムズアップしてたけど。

 よくやったと言いつつも、体面ってのがあるからスマンなー! と言われた。

 凄い、軽く、スマンなー!って。


 医療室に運ばれた青次郎は、一時間唸って寝込んで元気に寮へ帰っていったらしい。

 凄腕回復魔法の使い手が常駐しているだけあるね、医療室。


 それはそれとして、やりすぎ判定が下ってしまった私には罰則が科せられた。

 なんと、三日間の実技訓練の参加停止である。なんてこった。

 三日間もの間、赤太郎を殴れないなんて……!

 無駄に増長して思い上がらないだろうな、あいつ?!

 変に勘違いして突っ走られると大変困るので、クラスメイト達に赤太郎が増長しないように抑えつけておくよう重々頼んで回る羽目になってしまった。間違っても魔物討伐作戦に飛び入り参戦とかしないよう、念入りにね。


 そして私は三日間。

 罰則として教官の指示した課題に取り組む生活だ。

 

 昼から裏庭でひたすら二時間スコップ片手に自力で土に穴を掘り続け、二時間過ぎたら今度は掘った穴をひたすら埋めていくという作業である。

 開墾でもさせられているのだろうか。

 こんな日の差さない裏庭、土を柔らかくしたって元気な作物は育ちそうにないけれど。

 

 そんな三日が過ぎた後の、今日。

 私は学園の門でそわそわと外を気にしている。

 何故って?

 私に会いに、訪ねて来てくれる人がいるからー!


 学園に入学してから、もうすぐ二カ月。

 手紙とかじゃなくって、直接対面するのは久しぶり。

 入学までは毎日顔を合わせていたのにね。

 ちょっと不思議な感覚がするよ。

 ずっと一人で寮生活。

 環境の変化が大きくて気付けてなかったけど、どうやら私は寂しかったらしい。

 会いに来てくれるって手紙をもらって以来、今日がずっと待ち遠しかった。


「あらミシェル! こんなところでどうしたの?」

「……なんだか、随分とそわそわしているな」

「うきうきじゃね?」


 まだかな、まだかなー?

 門からひょこひょこ顔を出したり、ひっこめたり。

 そんなことを繰り返していたら、通りがかる級友達の姿。

 その不審そうな眼差しが、なんとも率直な感想を述べている。

 露骨にドン引きって顔するんじゃないよ、フランツ!

 そして逆に心配そうな顔をされるのも居たたまれないので、やめてくださいオリバー!


「どうしたんだ?」

「ふっふっふー♪ 実はこれから、私の可愛い弟が来るの!」

「弟ぉ? あ、前に言ってたアレか。弟が見学に来るって」

「ああ、あの……ナイジェル君から学食チケット買った時のお話ですわね」

「そうそう、それそれ! しかも弟だけじゃ心配だからって、なんとうちの格好いい兄も引率でついて来てくれるんだとさ! 二人に会えるのは入学以来ですもの。私、楽しみで」

「ああ、それでそんなうきうきと」

「っていうかお兄さんも来るのか。格好いいって?」

「うん、生き様が」

「生き様が!? 顔じゃなく!?」

「なんていうか、あれ、背中で語る男みたいな……あの泰然自若とした佇まい、鋼の如き自制心。熊を前にしても動じることなく構える拳……! 他人だったらアニキって呼んでたわ。うちの兄様は間違いなく格好いい」

「あの、格好いいのジャンルが予想外なんだが……」

「なんだか男くさい評価が混じっていたのは気のせいかしら」

「っていうか熊? 熊!? どこで遭遇したんだよ!」

「私が毎朝走り込みに行ってる郊外の山」

「マジで遭遇したのかよ!」

「アレは五年前の事……あの時、熊を相手に私や弟を抑えて前に出る兄様は格好良かった……」

「そりゃ確かに目の当りにしたら格好良いけどな!? その前に状況がおかしいだろ!」

「熊も兄様の気迫を前に去って行ったわ。流石は兄様」

「ミシェル、お前ブラコン?」

「そんなつもりはないけど、尊敬は間違いなくしていますわね。何しろ幼少期から私と弟の引率役と言えば、今日やってくる二番目の兄だったので」

「一番目の兄ちゃんは?」

「一番目の兄は……胃腸が弱いのかしらね? 時々引率してくれてはいたけれども、胃が痛いって言って最終的に二番目の兄と交代している事が多かったような」

「ミシェルのお兄様……っ! ご苦労、なさっておいででしたのね……」

「おいミシェル、兄ちゃんが可哀想だろ!? 手加減してやれよ!」

「え? 兄弟関係で手加減も何もなくない……? 二番目の兄様だったら、顔色一つ変えませんのよ?」

「多分常識的な反応は一番目の兄ちゃんの方が近いんじゃねーかな……」


 この(ミシェル)の人格形成に深くかかわったであろう、家族(きょうだい)学園(ここ)に来るのか……。

 何となく。本当に何とな~くだが、仲良しクラスメイト達は微妙な表情で顔を見合わせる。

 好奇心が勝った。

 え? 好奇心は猫を殺す? 大丈夫! 俺達は猫じゃないから!

 ということで、せっかくの兄弟水入らずに邪魔かな? とも思ったけれど……


「なあ、ミシェル」

「ん? どうしましたの、オリバー。改まった顔で」

「久方ぶりの家族との再会に水を差すのも申し訳ない、とは思うんだが……」


 俺らもここにいていいか?

 ミシェルの家族見物目当てに残留しよう。

 そんな気持ちに背中を押され、オリバーが言い淀みながら許可を取ろうとしたその時。

 むしろ逆にミシェルの方が心からの全開笑顔で、こう宣った。


「あ、丁度良いわ。暇だったらで良いんだけど、みんなの事を兄と弟に紹介してもいいかしら!?」


 まあ、なんて好都合! 渡りに船ってこの事ね!

 だが神妙な顔で許可を取ろうとしていたオリバーやらフランツやらにとっては肩透かしも良い所だ。

 微妙に体を斜めに傾けかけながら、怪訝な顔をしてしまっている。


「え。良いのか?」

「良い良い! そういえば兄様にお友達はできたか? 人様に迷惑かけてないか? って妙に手紙で心配されていましたのよね! 心配無用だわ! って、口で言っても信じてもらえない未来しか想像できないんで、事実を直面させて差し上げようかと思い立って。現物(ともだち)を眼前に突き付けてやれば、私の妄言だと切り捨てられることはないでしょう!」

「お前らの家族関係どうなってんの?」

「そんな思い付きで、家族に紹介されるのか……」

「というかミシェルのお兄様、そんなに心配されていましたのね……まあ気持ちはわかるけど」

「ああ、うん……俺も、ミシェルみたいな妹がいたらと想像すると………………うっ脳が想像を拒否する……!」

「マティアス、それどういう意味?」


 喧嘩を売ってるんなら買って出ちゃうぞ~!

 にこにこ笑顔で詰め寄る私。頑なに目を逸らすマティアス。おい、こっちを見ろ。

 無言で目の合わない睨み合いが続く。

 私が級友らとそんなやり取りをしていれば、


「……ねぇさま~~!」


 遠くの方から、とても聞き覚えのある……懐かしい声が聞こえた。


「たぁすけてー!!」


 うん、この悲鳴。

 めっちゃ聞き覚えあるわ。


「シャルル!? 今度は何に(たか)られましたの!!」


 条件反射的に目をやった、向こう。

 道の向こうからギャァギャァと獣の騒ぐ声が聞こえる……。

 まあ、あの土煙。あの見事な立ち上り具合にもなんだがとっても見覚えが。

 これは……!

 出会い頭に弟危機レベル3!

 ちなみにレベル1は(シャルル)一人で対処可能なレベル。

 レベル2は(シャルル)一人でも逃走可能なレベル。

 そしてレベル3は、私や兄の助けが必要な段階に当たる。

 私は急ぎポケットからビー玉を掴み出す。

 焦った左手から、地面にばらばらとガラス玉が落ちて転がった。

 ああ、もう視認可能な距離まで来ている!

 

 唖然とする愉快なクラスメイト達。

 助けを求める弟の声。

 目に映るのは……複数の鷹に集られる弟の姿。


「……空か!」

 

 焦る自分に落ち着けと心の声をかけつつ。

 私は握っていたビー玉を鷹の複数舞う空へ向かって投げつけた。


「その他様!」

『――!!』


 先日青次郎の目を潰した閃光弾、炸裂!

 けたたましい、鷹の悲鳴が聞こえる……動物愛護団体に見られてないよね!? この世界に動物愛護団体が存在するかどうかはわからない。だけどこの世界に徳川の某将軍みたいな動物愛に狂った御仁がいないとも限らない。こうやって動物を追い払う時はいつもドキドキだ。こんなに胸が高鳴ることもそんなにない。怪我をさせずに追っ払う分、まだ平和的解決だよね!?

 光に驚き、逃げていく鷹。

 半泣きで走ってくる弟、シャルル君じゅうさん歳。

 走りすぎて疲れたのかしら。

 私の眼前まで一気に駆け抜けると、気が抜けたように校門前でへたり込んだ。

 どのくらいの距離を走っていたのかは存ぜぬが、走り込みが足りないんじゃないだろうか。


「ね、姉様、助かりました……」

「シャルル? 貴方ひとり? 兄様は?」

「兄様は、向こうの方でアライグマの群れの足止めを……」

「鷹だけじゃなかったか。兄様、ファイト」


 いきなりの展開に、クラスメイト達が慄いている。というか距離を取られている。物理的に。

 そんなに鷹の群れにビビったのかい?

 それとも鷹の群れを引き連れて参上した弟に、どう反応すれば良いのか迷っているのかい?


 私の弟、シャルル(13)。

 彼は昔から、割と頻繁にこの手の災難に遭遇しまくっていた。

 原因はわかっている。

 シャルルの一般には姿が見えない『お友達』……契約精霊に、ヤバいのがいるせいだ。

 弟がマドレーヌと呼ぶ、小さな黒い光。

 人間の言葉を上手に喋ることのできない、小さな精霊。

 ヤバイと言いつつも、性悪とかそういう意味ではなく。

 ただただひたすらに、とにかく。

 無邪気で好奇心が凄まじく旺盛で、そして後先を考えない。

 思いつくままにふらふらしては、気が向くままにとりあえず目についた何かに手を出してしまう。


 つまりトラブルメーカーなんだよ、あの精霊。


 悪意は多分ないんだろうけれど、とにかく好奇心の結果シャルルにもたらされる被害が酷すぎた。

 あまりに酷いので、シアン様と一緒に威圧しながら『お話合い』をしたのも記憶に新しい。

 好奇心は強いけど、精霊としてはそこまで強くない。

 しかも圧倒的な格上を前にするとびくびく身を縮めて怯える。

 あの反応を見るに、多分、どっかの格上精霊を激怒させてやべぇ事案発生させた事があるんだろうなぁと推測している。

 『お話合い』が効いたのか、マドレーヌちゃんは『いい子』になった。

 ええ、本当に、よくよく『わかって』くれたみたいで。

 ここ数年は弟が災難に巻き込まれることも、ほとんどなくなっていた。

 相手がアニマルでも、精霊でも、言葉の通じない種族でも。

 誠心誠意をもって、心から語り掛ければ思いは通じる。

 私はこの弟のお陰でそれを知った。物理的に。


 ……と、思ってたんだけどなぁ?

 さて、シアン様と一緒にマドレーヌちゃんに『言いきかせ』たはずなんだけどなぁ。

 特にシアン様を前にすると大人しくなるマドレーヌちゃん。

 ちゃんとシャルルに迷惑をかけないよう、自制していたはずのマドレーヌちゃん。


 ……まだ私やシアン様が側を離れてから、二カ月たってないんだけどなぁ。


 どうやら私達の目がないことを良いことに、マドレーヌちゃんは羽目を外していたようだ。

 これはまた『お話合い』が必要だね?

 


 オリバー達にとって、何やらショッキングな登場をしてしまったらしい弟。

 クラスメイト達は年下の少年が相手だというのに、何故か距離を取って様子を窺っている。

 出方を探っている、と言うべきなのかしら。

 弟は自分達を遠巻きにしている集団が、私の友達だとは気付かなかったようで。

 息が整うや元気に立ち上がり、私の手をぎゅうっと握りしめた。


「久しぶりに追いかけられて、困っていたんです。姉様、助かりました!」

「鷹の爪は鋭いものね。あんな凶器持参で集まられて、本当に困ったでしょう? 怪我はないかしら」

「……アライグマにエサを強請られてズボンごしに足を引っかかれたくらいですね。外傷は」


 そうこうしている内に、規則正しい駆け足が近づいてくる。

 弟が走ってきたのと同じ方角……ああ、兄だ。

 どうやらアライグマの群れには無事に森へお帰り頂けたのだろう。

 アライグマを足止めしていたという兄が、少しお疲れ気味の溜息交じりにやって来た。

 兄が若干でも疲れを顔に滲ませるのは、とても珍しい。

 アライグマの群れって、そんなに手強かったのかな……?


 私の二番目の兄、カロン(20)。

 騎士を目指し、現在は魔法学園のお隣にある士官学校に通う現役武闘派騎士候補生である。

 ちなみに士官学校は騎士志願者は全員もれなく強制入学が決まっている。学校とついてはいるが、エリート軍人を養成する為の立派な軍属の施設である。

 魔法の才能がいまいちな人間は真っすぐ士官学校に入って普通の騎士を目指すが、魔法騎士を目指す者はちょっと事情が違う。

 この国、魔法を生業にするには資格がいるし、魔法関係の資格取得はどれも魔法学園の卒業が必須要項だ。つまり、魔法で食っていく為には、絶対に魔法学園の卒業証明が必要になる。

 そんな事情があるので、魔法騎士候補生は魔法学園卒業後に士官学校へと入学する事になる。魔法学園の魔法騎士コースは士官学校の事前学習・訓練込みのコースって側面がある訳で。

 私も魔法学園を無事(王子達を殴りすぎて退学に処されることなく)卒業出来たら、士官学校に入学する予定である。そして機会が巡ってくればキャスパントル伯爵を殴る所存である。


「あ、兄様!」

「兄様、お疲れ様です!」

「シャルル、無事だったか。ミシェル、息災か? ちゃんと、本当に元気か?」

「ん? 兄様? 出会い頭に、なんですのその人の健康を疑ってかかる姿勢は」

「……父上と兄上が、ミシェルが入学したら器物損壊慰謝料その他諸々にどのくらいの額を払う事になるかと、試算して頭を抱えていたからな。だというのに、入学以来まだ一枚も請求書が届いていない。本当にミシェルは元気にやっているのかと、父上達が心配していたぞ」

「まあ、うふふふふ……いやですわ、兄様ったら! 私、この通り元気でしてよ! 父様やお兄様にも重々伝えて下さいな。ええ、重々、ね……」

「ああ、よろしく伝えておこう」


 この淡々とした、兄の言葉。

 ああ、兄だなぁと私の心に安心が満ちる。

 やっぱり入学以来の寮生活で、私、寂しかったみたい。

 兄と弟の顔を見て、心が緩まるのを感じる。


 と、同時に。

 何故か遠巻きになっていた学友達も、妙な緊迫が緩んだらしい。

 恐る恐ると、じわじわと。

 何故か慎重な足運びで距離を詰めて来て……

 最初にハッと顔を上げたのは、フランツとオリバーの二人だった。


「「カロン先輩!?」」

 

 ……先輩?

 異口同音、二人が叫んだのは兄の名で。


「うん? ああ、オリバーとフランツか。久方ぶりだな」


 なんでもない様に名前を呼び返したのは、当の兄本人で。

 いや、なんで?

 お知合いですか? 先輩ってどういうお知り合いなんですか?

 疑問が渦巻く私の前に、驚き目を見張る同級生の二人。

 唖然とした顔は、私と兄の顔へと何度も交互に視線を走らせている。

 うん、どうやら私と兄が兄妹と知らなかったみたいだけど、兄とも面識があるのは確かなようで。

 どういう知り合いかは知らないけど。

 狭いな、世間。

 


 

 こういう転生系ファンタジーって、可愛い(?)マスコット的な存在が出てくるお話も多いじゃないですか。

 ミシェル嬢は15歳の乙女で、魔法も使う。

 即ち、ある意味では魔法少女じゃ……!? という強引なこじつけもギリいけると踏みました。

 やっぱりマスコット、いてもいいですよね!

 さて、ミシェル嬢のマスコットと成り得るのは……


a.鳥

b.トカゲ

c.猫

d.亀

e.犬(?)

f.フクロモモンガ

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― 新着の感想 ―
[一言] e.犬(?)だね 首が三つくらいあるとなおいい
[良い点] やっぱり面白いなあ。 [一言] d.亀 ですかねー。 手足と頭を引っ込めて、炎を吹き出しながら回転しつつ飛ぶというあれで。 ちっちゃいガ〇ラとか、可愛いと思いますがどうでしょー。
[良い点] 沢山感想を書くと作者様にストーカーかなと思われるので遠慮しているのですが、此方は自然に感想を書きたくなる所ですね! [一言] (エリマキ)トカゲなら面白い。けど犬(?)が訳ありそうなのでこ…
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