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4.vsオーク

「うちのえりたんが戦うから皆さんは下がってください!」


「エリちゃんの邪魔はさせないよー!」


 史と晴香が馬車の一団を下がらせる。

 絵理歌はこの世界で自分がどれだけ戦えるのか試してみたい気持ちが抑えられなかった。手を出さないようお願いしたのもそのためだ。

 仲間に心配をかけることを心で詫びながら、同時にわがままを聞いてくれる仲間に感謝していた。


「私が相手よ! かかってきなさい!」


 馬車の一団からオークの気をそらすために叫ぶ。

 絵理歌を見たオークは醜悪な笑みを浮かべる。オークもゴブリンと同じく女を攫い孕ませると伝えられる種族だ。絵理歌を獲物と判断したのだろう。

 オークは絵理歌を生きたまま捕まえようとしているのか、棍棒による攻撃ではなく掴みかかろうと手を伸ばしてきた。

 絵理歌は腕をパリィしつつ外側に回り込み、ふくらはぎに渾身のローキックを叩き込む。


(ちっ! なんて硬い足をしてるの。電柱でも蹴ってるみたい)


 巨体に足が弾かれ、蹴った足が痺れる絵理歌は舌打ちする。

 格闘技界で賑わいを見せるカーフキックも圧倒的な体格差があるため効果が薄いようだ。

 太っている人が豚と揶揄されることがあるが豚の体脂肪率は低い。食用に太らせた豚でも14~18%と言われているのだ。

 分厚く重い筋肉に覆われているオークの体重は500キロはあるかもしれない。それを支える強靭な足腰に絵理歌の蹴りは通用しなかった。


(普通の打撃じゃだめね。面ではなく点の攻撃ならどう?)


 絵理歌は捕まえようとするオークの腕を掻い潜り、左の三日月蹴りをレバーに突き刺した。


(硬った! 腹筋に弾かれて内臓に届かない。そもそもオークのレバーって人間と同じ位置なのかしら?」


 人が相手であれば高いKO率を誇る三日月蹴りもオークには通じなかった。

 オークは絵理歌を捕まえようと腕を振り回すがステップで回避する。

 体の大きさを持て余しているのか小回りが利かないうえに、攻撃の後に同じ場所にとまらない絵理歌を捉えられずにいる。

 だが絵理歌の攻撃も効いていない。捕まらないために深く踏み込んだ攻撃ができていないことも原因だった。


(このままじゃジリ貧ね。頭を攻撃したいけど位置が高すぎるし……金的か膝関節を狙うか)


 狙いを定めた絵理歌は一度距離を取り攻撃のタイミングを計る。

 オークはのっしのっしとゆっくりと歩き距離を詰めてきた。攻撃が効いていないので嘗めてかかっているようだ。

 絵理歌はオークの顔にパンチのフェイントを入れて上に注意を逸らすと、膝を狙い足刀の関節蹴りを放つ。逆関節を打っても折るのは難しいと判断し横から蹴り込んだ。

 膝関節を蹴られたオークは自重が重すぎてバランスが悪いのか尻餅をつく。


(チャンス! 一気に決めるわ!)


 絵理歌はオークの背後に回り込むと、下がった頭を掴み後頭部に膝蹴りを打ち込んだ。

 膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り膝蹴り!


「ぐおおぉぉぉおおお!」


 オークが悲鳴を上げると、絵理歌はダメージを与えている手応えを感じて口の端を吊り上げた。


「えりたん悪い顔してるわねえ。えげつない攻撃が悪役みたいよ」


「チッチッチッ。違うよ史ちゃん先輩。エリちゃんは正義のヒーローだよ!」


 晴香が人差し指を左右に振るジェスチャーをして誇らしげに語る。

 絵理歌は決して暴力が好きなわけではない。強い相手と戦って勝つのが好きなのだ。


 オークは暴れるが関節が硬いのか、背後を取っている絵理歌に手が届かず掴むことができない。

 絵理歌はオークの耳を引っ張って地面に引き倒すとサッカーボールキックを叩き込んだ。

 一発、二発、三発……八発蹴ったところで首の折れる嫌な感触がした。

 ピクリとも動かなくなったオークに残心を取る。


「オークを素手で倒しちまった……。Cランクの魔物だぞ……」


「さすがエリちゃん! 勝つと信じてたよ!」


「えりたんお疲れさま。どこか痛めてない?」


 馬車の護衛が感嘆の声を上げ、仲間たちが集まり労いの言葉をかけてくる。

 史の推測通り、頑丈なオークを蹴りまくったことで絵理歌は足を痛めていた。


「歩けないほどじゃないですが、足を痛めました」


 足を引きずる絵理歌を見て馬車の護衛が声をかけてきた。


「助けてくれてありがとう。良ければうちのパーティーに回復魔法師がいるので足の治療をさせてもらえないだろうか?」


「せっかくの申し入れだし治療してもらったら? 回復魔法も見てみたいし」


 絵理歌は史の言葉を受け治療してもらうことにした。

 回復魔法で足の痛みは消え、その効果に絵理歌たちは驚嘆するが「素手でオークを倒す方がすごいわよ」そう言うと回復魔法師の女性は嘆息するのだった。

 護衛の人たちはホワイトラディッシュと言う三人組冒険者パーティー。メンバーは男性のラディとビアンコ、女性のローテ。全員二十代前後の若い冒険者パーティーである。

 行商人の護衛依頼で城塞都市ダンデライオンに向かう途中オークに襲われたとのことだ。


「大根? 煮物にすると美味しそうな名前ね」


 冒険者パーティーの名前に史がツッコミを入れていた。

 倒したオークの素材はその場で行商人が買い取ってくれるそうだ。魔石もあったがそれより肉が人気らしく金貨二十枚で売れた。

 それが高いのか安いのかわからないので行商人に貨幣価値について尋ねてみる。


 銅貨一枚   10円

 大銅貨一枚  100円

 銀貨一枚   1,000円

 金貨一枚   10,000円

 大金貨一枚  100,000円

 白金貨一枚  1,000,000円


 色々聞いてみて日本の物価と比べるとざっとこれくらいと判断した。


「一日一体倒して月八日休みだと……月収440万円! 大金持ちだよエリちゃん! 毎日狩ろ!」


「残念ですがオークはこの辺りでは珍しいモンスターですし、供給が増えれば価格も下がります」


 興奮して話す晴香だったが行商人に諭されて大金持ち計画は早くも頓挫することとなる。

 行商人はオークの素材よりもこの世界では珍しい絵理歌たちの服や持ち物に興味津々のようで、高値で買い取らせてくれとお願いされたが絶対に嫌だと断った。

 可憐な女子中学生たちはいくらお金を積まれても制服を売るつもりはないのだ。

 その後行商人の馬車に同乗して、一緒にアルストロメリア王国の城塞都市ダンデライオンまで行くことになった。

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