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32.起立

 この世界の宗教は大きく分けて、蓮華教、魔導教、天使教の三つがあり、絵理歌達が向かっているのは城塞都市ダンデライオンの町はずれにある蓮華教の教会である。

 魔導教は攻撃系魔力を持つ者達が集まった組織で、宗教というよりも魔術を研究する組合に近く、魔術師を傭兵として貸し出したりもしている。

 天使教は回復や浄化を得意とする魔力を持つ者達が集まった組織で、怪我や病気を治すことでそれなりに高い金品を受け取っている。

 蓮華教は清貧を旨とする宗教であり、寄進された金品のほとんどを貧しい民の為に使っていた。

 その為、魔導教と天使教からは人気取りだと言われて嫌われているが、三大宗教の中で規模は一番小さいものの、人々からは最も尊敬される宗教となっていた。


「ここが依頼先の教会かしら。結構ボロボロな建物ね」


「確かにおんぼろですけれど、よく見ると掃除が行き届いていて大切に使っているのが分かりますわ」


 ビオラに聞いた住所にやってくると、所々に修復跡のある大きな石造りの建物があった。

 史の言うようにボロボロにも見えるが、壊れた場所は修復されて掃除も行き届いており、どこか清廉な雰囲気を感じさせる建物である。

 屋根には蓮華教の紋章と思われる円の形のエンブレムが輝いていた。

 絵理歌達が教会を見ていると後ろから声をかけられた。


「あっ、ディステル会の皆さんこんにちは。教会にご用ですか?」


「お前らここに何しにきやがった!」


「ええ! トール君なんでそんなに喧嘩腰なの! ダメだよ、謝って!」


 声をかけてきたのは先日会ったトールとジニーだった。

 相変わらず喧嘩腰な態度にジニーは注意するがトールは「ふんっ」と腕組みしてそっぽを向いてしまう。

 そんな二人のやり取りを絵理歌達は微笑ましく見ていた。


「あの態度に景さんが怒らないなんて以外かも。腹が立ったりしないの?」


「おいおい絵理歌ちゃん、あたしを何だと思ってんだい? 子供の言うことにいちいち腹立ててらんねえよ」


「そうですよ絵理歌さん。普段ならプンプンの景も子供には意外と寛大ですのよ」


 もし相手がイカツイ男なら嚙み殺さんばかりに怒鳴り散らしていたことだろう。

 景のことを1900Wの電子レンジだと思っていた絵理歌は意外な一面に触れ考えを改めた。


「ふざけんな! 俺は子供じゃねえ! つうか、お前らだって子供じゃねえか!」


「ふ~ん、ねむちゃんのこのおっぱいを見てもそんなことが言えるんだ」


 そっちこそ子供じゃないかと述べるトールに晴香が反応する。

 素早くねむの後ろに回り込むと、おっぱいを揉みしだき始めたのだ。

 天性のスピードを無駄に発揮していた。


「どうだ! これが乳神様と称えられるねむちゃんのおっぱいだぞ! これでも子供か少年!」


「は……晴香さん、やめて……そこは、だめ……あん」


「やめんかバカ晴香!」


 ねむの顔が紅潮し始めたのを見た絵理歌は急いで晴香を引っぺがすが少し遅かったようだ。

 トールは前のめりになってこちらを見ていた。


「もう……晴香さん、わたくしの胸を揉むのは止めてくださいまし」


「たはは、ねむちゃんごねんね。少年に見せつけてやりたくてつい……」


 ジト目で咎めるように見つめてくるねむに晴香は素直に謝罪する。


「史さん、なんで彼は前のめりになっているんですかね?」


「えりたんには分からないかぁ。簡単に言えば彼が元気な証拠よ」


 いきなり前のめりになったトールを疑問に思った絵理歌は年長者である史に尋ねてみるが、よく理解できずに首をかしげる。

 分からないので直接聞いてみることにした。


「君大丈夫、具合が悪いの?」


「何でもねえよ! ちょっとテント張っちまっただけだ! こうなったからにはお前らを大人と認めるしかねえ」


「もう! トール君のエッチ、変態、犯罪者!」


 まともに立てないトールにジニーは顔を真っ赤にして怒り、罵声を浴びせながらバシバシ叩き始めた。

 なぜジニーが怒り、なぜ大人と認められたのか分からない絵理歌は「はてー?」とさらに首をかしげることになる。

 その時、騒ぎに気付いたのか教会の扉が開き、十歳くらいの女の子がこちらを窺っていた。


「お姉ちゃん達、教会に何か用ですか? あれ、一緒にいるのはトール君にジニーちゃん。きてくれたんだ」


 訝し気に絵理歌達を窺っていた少女はトールとジニーを見つけると表情を輝かせる。

 絵理歌はその顔を見て、三人は知り合いで良好な関係であることを悟った。

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