2.もしかして異世界?
どこまでも続いているような白い世界だった。
周りを見ると式に参加していた生徒、教師合わせて百人程いるようだ。
「何これ! 私に祝辞言わせてよ!」
史の叫びが聞こえた。どうやら晴香のディステル会会長様の後光説は否定されたようだ。
では一体誰が何のためにこの世界に百人を連れてきたのか絵理歌は考える。
「これって異世界召喚とか転移ではないかしら」
誰かが口にした言葉に晴香が瞳を輝かせている。好奇心旺盛な子なのでわくわくしているのだろうか?
それは絵理歌も同じだ。絵理歌は地上最強になるという夢は元の世界にいたのでは叶えられないと思っていた。現代日本では決闘は犯罪になるからだ。
格闘技の試合に出ればと思うかもしれないが、格闘技の試合となればルールがあるので武術家の本領は発揮できない。そもそも男対女で試合が組まれることはほとんどないのだ。
しかし異世界ならばその夢に手が届く可能性があるかもしれないと、絵理歌は期待せずにはいられなかった。
異世界召喚に心躍らせていると、光が集まって人型になり話しかけてきた。
『我が召喚せし人の子よ。これよりお主らを我が管理する世界へと飛ばす』
一同は突然のことに動揺するが、すぐに反論する人も出てくる。
「あなた何者ですの?」
「勝手なこといわないで!」
「元の世界に帰してよ!」
「異世界召喚きましたわー!」
反論にはどうやら聞く耳をもたないらしい。一部は歓喜しているが……。
『うるさい虫けらどもに説明してやろう。我は神である。これよりお主らをグループに分け、我が管理する世界へと飛ばす。過酷な世界故普通であればすぐに死んでしまうであろうが、異世界から召喚した人間からは特殊な力を持つものが生まれやすいのだ。この場には見所のあるものを召喚した。我が創りし世界で人の子がどう生きるのか観察するのが我の趣味である。楽しませてくれることを期待しておる』
絵理歌は自分の愛する友人たちを虫けら呼ばわりされたことに怒りを覚える。
そもそも神を名乗るものにろくな奴はいないのだ。奴のことは神(仮)と呼ぶことに決めた。
神(仮)が話し終わると辺りはまた光に包まれる。
絵理歌は神(仮)がグループに分けると話したことを思い出し晴香の手を強く握る。絵理歌はこの愛すべき友人と生涯にわたって付きあっていきたいと思っているのでここで離ればなれになりたくはない。
晴香は「エリちゃーん!」と叫び、すりすりすりぷにぷにぷにと頬ずりしてくる。
絵理歌はこんな状況でも変わらぬ友人に嘆息するのだった。
光が収まり周囲を見渡すと、神(仮)が気を使ったのか頼りになる友人と同じグループになったようだ。
メンバーは巴絵理歌、出雲晴香、九条史、の三名。
どうやら森の中の少し開けた場所に転移したらしい。背の高い木々から木漏れ日が入ってくる。
「えりたんとハルキャンじゃない! 大変なことになったけど、あなたたちと一緒なら心強いわ。しかし異世界召喚なんておハーブ生えるわね」
「それを言うなら草生えるですよ史さん」
絵理歌はいきなり異世界に召喚されたにも拘らず動揺をみせない先輩を頼もしく思った。
挨拶を交わし今後についての話し合いが始まる。
「ところで今後についてなんだけど皆はどうしたい? ここが本当に異世界かどうかまだわからないけど、異世界だと仮定して元の世界に帰りたい? この世界で生きていくのも選択肢としてあるけど」
「私は地上最強になる夢を叶えるために、この世界で修行して強くなりたいです。後はあの神(仮)を一発ぶん殴りたいですね」
「オッケー。浪漫があってとても素敵な夢だと思うわ。みんなの分も合わせて一発といわず連打でお願いね」
周りからバカにされることの多い絵理歌の夢を、史は昔から素敵な夢だと応援してくれる。
それは史の座右の銘が『自分の常識は他人の非常識』だからだろう。犯罪などの悪いことでなければ人の意見を否定から入らない。人間は否定する人を嫌い、肯定する人に好感を抱くといわれる。
そんなところがディステル会会長の人気の秘訣なのだろうか。
「ウチはエリちゃんについて行くよ。エリちゃんの隣がウチの居場所だから」
「あなたたち相変わらず仲良しね。私の考えなんだけど、あの場にいた百名の中には元の世界に帰りたい人も多いでしょうから、まずは他の人たちと合流して帰還方法を探すのはどうかしら?」
史の問いかけに絵理歌は学園の友人を助けたいと思い喜んで協力することにした。
その後は異世界の定番を試してみる。
「ステータスオープン! 鑑定! ファイアボール! ……お約束のものは出ないようね。スキルがないからかしら?」
「魔力操作ができなと使えないのかもしれないよ」
「本当に異世界かもわからないし、職業を授からないと魔法も使えない世界の可能性もあるわね」
ラノベ好きである三人が実験していると気分が悪くなるような不快な声と殺気を感じる。
周囲を警戒すると、身長一メートル程の歪んだ顔をした人型の生物が三匹こちらの様子をうかがっていた。
手にはそれぞれ錆びと刃こぼれでぼろぼろの短剣、鉈、弓を持って値踏みするような笑みを浮かべこちらを見ている。
「あら、ゴブリンじゃない。魔物はテンプレなのね」
史が笑顔で言い放った。ディステル会会長様は肝が据わっているようだ。