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モノクロの機械論的世界観  作者: リクヤ
9/9

モノクロの機械論的世界観 7章

―――2012年12月26日 日曜日 朝


ふと、瞼を開くといつもとは違う景色が入り込む

「―――――ぁ」

色々と読みふけっていたら、いつの間にか寝ていたらしい

暖房が程よく利いていたためすっかり気が抜けてしまった。

前はこの部屋でうたた寝なんてしたら殴られたが、今はもうそれはない

それに少しの寂しさを感じつつも部屋の外に出る

廊下から外の世界を覗くと…太陽は既に昇り、一面に積もった雪を綺麗に照らしていた

パッと見10㎝程度積もっている様子。どうりで廊下に出た途端寒気が全身に伝わってきたわけだ

…そういやアイツらどうなったかな

リビングに向かい、その扉をゆっくり開けて中の様子を覗き見ると、

「…うわぁ」

地獄絵図だなこれ…全員潰れているよ…

テーブルにうつ伏せの畔柳の男二人と姉さん、ソファで魘されてる藍、そして床に転がってるバカとアホ丸出しの空間が広がっている

暖房なかったら全員死んでたなきっと

……ん?よく見たら紬さんの姿がない

あの人酒癖悪いだけで弱くねえから自室に戻ったな、これ

…まっもう少し寝かせておくか

姉さんは明日も学校だから、遅くても15時にはこの島を出なければならないけど…今はまだ7時過ぎ。

まだまだ余裕はあるので俺は放置してその場を後にする

あれで風邪引いても自己責任だろ。流石にそこまで面倒見るつもりはない


時刻は正午に差し掛かるころ、畔柳家の連中を除く俺たち三人は快晴の寒空の外を歩く。

しかし、他二名の表情はげんなりしていて活力が感じない模様。特に姉さんは…

「うー頭痛い…修司おぶってー…」

「酔っ払いに気遣う優しさは持ってねえよ」

「うっそだぁ、妃奈美ちゃんが倒れた時も運んであげたらしいじゃん」

「アイツと同じ運び方でいいならやってやるぞ?」

「…ロクなやり方じゃなかったの想像出来たからやめとく」

項垂れながらも歩く姉さんの傍らで、前かがみになりながら歩く藍の表情も苦しそうだった

「修司…私もキツイ……ちょっと休もう」

「お前場酔いしたのか…海外行っても酒飲むじゃねえぞ。畔柳の血筋は酒弱いんだから」

思わずため息が出るほど今の状況がすっごい面倒くさい

「はぁ…お前ら帽子取って頭冷やしとけ、もうすぐ着くのにだらしない格好見せる気か?」

「本当に見てるか分からないんだから大丈夫だって」

「俺だって別に本気で言ったわけじゃねえよ。こういうのは自分自身に対する区切りでやるんだろ?………と、ここか」

本邸から歩いて15分程度、ようやく辿り着いた場所には古風な門が構えて在り、そこには『彼誰霊園』と大きく書かれていた

俺たちは早速中に入り、統也さんが丁寧に書いてくれた案内図を元に道を歩く

奥へ奥へ…さらに奥へ行くと、大きな石を見つける

その石には達筆で大きく『畔柳家』と彫られ、両隣には一回り小さい石で『美明家』と『青梅家』と彫られていた

畔柳家には『真理』と『廉也』

美明家には『伸次郎』と『愛華』

青梅家には『誠司』と『愛海』という文字がそれぞれ記載されている

「…これだな、ばあさま達の墓は」

「相変わらず他の二回りも大きい…」

藍と共に見つけた墓を眺めている横で、姉さんが手に持っていた紙袋の中身を広げ始めていた

「おばあちゃんらしいね。さっ二人とも、供花とお線香を」

俺は持っていたリュックから線香を取り出し二人に渡す

二人が線香を三つに分けている間に俺は供花を鞄から取り出した

花はカーネーションとストック。どちらもメジャーな供花であるが、そういう意味で買ってきたわけじゃない

それを姉さんに渡し花を供えてる間に、俺と藍は墓石に積もった雪を払う

本来なら水で洗ってやるのが礼儀なのかもしれないが、この時期に水は堪えるのでやめておく

「はい修司」

火を点けた線香を藍が渡してきたので受け取る

そして順に墓の前に供え、これで墓参りの礼儀は終わりだ

周りには誰も居ない…。雪が降った後だから当然と言えば当然か

「……皆さん、お久しぶりです。今日は報告があって来ました。…藍ちゃん」

姉さんが先導し、当人である藍が語り始める

「…私は海外に行きます。災害で負った傷を治すために、自分のやりたいことをやるために、海外に行ってきます。どうか見守ってください」

端的な報告を済ませると藍は一歩下がり、同時に姉さんが前に出て物申し始める

「…そういうわけだから、父さんも母さんもちゃんと藍ちゃんを守ってあげてね。あたし?あたしは平気よ。この2人が前を見てくれるようになったんだから。あたしは平気。…今まで守ってくれてありがと」

姉さんも言いたいことを言い終えると一歩下がり、俺に前へ行くよう促す

…俺からもか…こういうのは苦手だから、報告だけにしておこう

「あー…愛華さん、愛海さん、伸次郎さん。随分前になるけど、この島のレイビース症は俺たちが一度根絶やしにしたから当分は問題ないと思う。入島検査も念入りだって妃奈美が言ってたからな。だからまぁ…安心してください」

…言い終えて俺も一歩下がると、二人は何故か不思議そうな顔をしている

「何だよ」

「ふふ…いや、修司らしい事後報告だなと」

藍は笑いながら呆れて

「はぁ~…マンガじゃないんだから『仇は取ったよ…』みたいに語らなくてもいいじゃない…もっと他にあるでしょ」

姉さんはため息吐きながら眉間に皺を寄せていた

とはいえ俺としてはまず真っ先に伝えるべきことだと思っていたんだ。

3人の死因は島にまで侵入してきたレイビース症。当時の知識では動物から人間へと感染するところまでしか分かっていなかった時代。

どうして島に侵入してきたかは分からない。誰かが本土から動物を搬送したのか、それとも食料に困った動物達が海を渡って島にやってきたのか…。

どうあれ目に見えない存在が島中に蔓延ったのが現実だった

そんな現実に対し俺は…俺と藍は決意した。

《こんな現実に"負けたくない、強くなりたい、生きていたい…"》

《だから無くそう、この島から最悪を今のうちに…》

そうこうしているうちに時は流れ、レイビース症がイヌ科から人への感染が主だと判明した。

そして俺と藍は協力し、この島から野犬の類を全て処分…根絶やしにした。

山に隠れていた奴、道路で餌を漁っていた奴、そして…民家で飼われていた奴、全て残らず根絶やしに

殺し方は伸次郎さん達に教わっていたからな…まあその後死ぬほど皆に怒られたが…

「辛気臭いのはお前らで十分だろ…あまり暗い話すると気が重いわ。ほら、そろそろ行くぞ。港で飯食べて帰るんだろ?」

俺は二人の背中を押して出口へ行くよう催促する

「ちょっ!おばあちゃんには何か言わなくていいの?」

「いいんだよ、ばあさまにはもう少し経ってからだ」

姉さんからの確認を軽くあしらい、そのまま帰路へと向かった


昇っている太陽は俺たちと積もった雪を照らし、いつもより眩しい存在と化している

…ああ、俺はずっとこの光景を望んでいたんだ

もう何一つ曇った間柄じゃなく、もう何一つ気遣う必要が無い、こんな関係を…


――『家族という縛りは不要。一個人として信頼し、信用してくれる人間のみを必ず見捨てるな』

――『家族』に囚われたら必ずそれに縋り寄生してしまう。そんな弱い心は捨てろ。』


ばあさまからの言葉の意味がようやく分かった気がする。

『家族』ってのは言葉で表す関係じゃないこと

そんな言葉に囚われたり、縛られたり、寄生することこそ弱い心になる

つまり、一個人として信頼し、信用してくれる人間こそが、血筋など些細な問題と思える理想の関係ということだ

そういうことを、遠回しに言いたかったんだろうな

ばあさまらしい…裏では一番家族を思っていたんだから


「…天気、良いな」


―――――――――――――――――――

――――――――――――――――

―――――――――――――


「…こっちも寒いね」

島を発ち、地元の駅前にて姉さんが一言呟く。

島ほどの寒さではないが、時刻は既に18時頃、やはり海がすぐそばにある為肌寒さは感じていた

「ふぁ~あ、移動の疲れもあるからさっさと帰ろう」

電車で爆睡していた俺はあくびと同時にこの後の事を提案したが、姉さんはそれに不満を持った様子

「んー、折角だから晩ご飯食べてから帰ろうよ。三人で外食ってあまりなかったし」

「あっ、ならうどんがいい。温まるし、春日井がここのうどん美味しいって言ってたよ」

姉さんの提案に藍が賛成し、携帯でその店の地図を見せてくる

…駅から歩いて10分程度か、そんなに離れてないな

「そうだな、たまにはそこ行くか。姉さんもそれでいいか?」

「五島うどんだよね?絶対おいしいじゃん!勿論行くよ!」

姉さんが意気揚々と賛成する傍らで、藍がしたり顔で

「あれ?理絵は自分の作るうどんが一番だって言ってなかった?」

「なら姉さんは自分のうどんでいいな」

「ちょっ!ここであたしハブくの!?ないわーそれだけはないわー」


他愛もない会話、迷惑にならない程度の賑やかさ

今が本当に居心地がいい、ここ数ヶ月が嘘のように感じる

ようやく戻れた…といより、先に進めたんだなと思い耽る

最も藍も俺もこれからが大変なんだが、それはまた先の話…だよな

――ふと、藍の表情を見る。

あんなに死にそうな顔していたのに、今じゃ自然に微笑むくらいさっぱりしている

この調子なら、海外行っても大丈夫だろう。

英語は出来るから後は行った時あまり混乱しないように、海外での常識を事前に勉強するだけ

そのあたりは姉さんが詳しいはず。昔は海外旅行を趣味にして美明家の家計をいじめていたと愛華さんが自慢?していたからな

それでいい、それで何もかも順調に上手く行くんだ

行くはず…なんだ……


「――――ッ!!」


―――そう決意した反面、恐怖が身体中を駆け巡る

この感じは知っている、身体が覚えている…野犬に襲われる時に感じる狂気だ

―――すぐさま後ろを振り向く

街灯に照らされるも夜で仄暗い。しかし、そこには確かに全身黒い服に黒いフード被った人の影が、俺たちに…いや、藍に向かって駆けているのが分かった

―――そして、その手元には…

「――――っ!!!……っ…ぁッ!!」

条件反射だった…結局、8年間この生き方をやってきたからな

誰よりも早く、考えるよりも先に、身体を付け動かした

「テ…メェ…ッ!!」

気づけば左隣にいる藍をかばうように背を向け立ち塞ぎ、背中をタックルされるが両足で踏ん張る

「………ァア!アンタさえ…アンタらさえいなければァ…っ!」

狂言を零しながら黒フードが俺を見上げる為に頭を上げ、顔が露わなる。

その顔には覚えがあった…あの…槙島の時のババァだ…っ!

「…クソがァッ!!」

俺は左腕で払い退け、思い切り蹴り飛ばすが…思うように足に力が入らず大して距離を稼ぐことが出来なかった

「―――修司!!」

事態の異変に気づいた藍が、俺の身体を見て悲鳴を上げた

それもそのはず――俺の右腹部は夜を照らす小さな街灯で分かってしまうくらい流血していたのだから

「…ク……ソ…!」

俺がその事実を受け入れると足腰に力が入らなくなり、思うように立っていられなくなる

「カァッハッハッハッハァ!!!」

その様をババアは一瞬で確認すると、嘲笑いながらすぐさま包丁を構えて再度突撃してくる

―――ああ、自分でも驚いてる。残念ながら…頭は酷く冴えていた

これから起こる事が容易に想像着く。だから…まともに動けない俺の身体は反射的に成すべきこと成すために動いていた

「しゅう…っ!!」

まともに機能しなくなった身体で何とか藍を抱きしめ覆いかぶさる。

そうだ、こいつだけでも…コイツだけでも守らないといけない。こいつだけは無傷でいさせればそれでいい

後の事は周りが何とかしてくれる。だから、この一瞬だけ…俺の全てを持って―――

藍を―――!!



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