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モノクロの機械論的世界観  作者: リクヤ
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モノクロの機械論的世界観 6章


―――2012年12月25日 土曜日 夕方


寒波を全身に浴びる中、聖夜が訪れる日に俺たち3人は彼誰島に辿り着いた

「…んー!やっぱこの島の空気は一味違うねー!帰ってきたって感じしますわ!」

「……寒い」

「冬だからな。クソさみいわ」

しかしテンションが高いのは姉さんだけで、他2名はフェリーから降りての一言がこれである

自分に正直になった結果、人知れず出てくる言葉も正直なったらしい

…いや、この辺りは元からの気がしないでもないが、ここは地元。無意識に中身まで当時の自分に戻っているのかもしれない

統也さんに教えを乞いに来た時とは違い、今回はこの2人と一緒だから尚更な

とはいえ…藍は昔から寒さ耐性が皆無。防寒ジャケット、マフラー、トラッパーハットと絶対寒さ耐えるウーマンになっているにも関わらず、ずっと姉さんを背に隠れて風を防いでいる辺り、最早憎悪の域だ。

「早く家に行こう…!こんなところにずっといてらんない」

だが藍の提案に同意見。何にしても寒すぎる

俺もある程度防寒してきたはずなのに…外気温が生物を確実に殺しに来ているレベル、顔面シュート決められた後のような痛みだ。

「今年一の寒波が来てるらしいからな…噂じゃこっちも雪降るかもって話だ」

「いーじゃん雪!ホワイトクリスマスじゃん!風情あって最高!」

さっきからテンションたけえな姉さん。付き合ってられん。

そんな姉さんを無視して、家に向かうべく荷物を持ってそそくさと移動し始める

…が、その時一台の白い乗用車がこちらに向かって走ってきて――

「―――うおっ!?」

「…よっ!お待たせー」

紬さんが綺麗にドリフト決め、眼前ギリギリで停車しやがった

その車FRかよ…島なんだから4WDでも買えよ…

「久しぶりー紬さん!相変わらずヤンチャしてますねぇ」

「おう久しぶり、理絵は相変わらず猫かぶってんなー」

「嫌な言い方しないでください…そういうのはもう卒業したんです。これでも教師なので」

流石の姉さんも紬さんには形無しだな。色々な弱みを握られていそうな雰囲気だ

「それじゃあ今でもヤンチャしてるあたしがバカみたいじゃんか…。…っと藍ちゃんも久しぶり、前とは打って変わって大人になったなぁ。3年でここまで変わるもんなのか」

「久しぶりです、紬さん。…言うほど変わってますか?身長は伸びましたが…」

「あぁ違う違う…内側の話さ。うん、顔つきが昔と全く違う。良いと思うよ、これならあたしも安心だ」

紬さんの態度は人の中身を透かしているように視えた。やはり手強いなこの人

「…ったくうちのバカは全然変わらないからなぁ…何がいけないんだろう?」

そりゃバカをバカと言い続けてればバカになるんじゃないかな…

そう内心でツッコミを入れている俺に視線を移した紬さんは、特別何か言うでもなく、一言添えて微笑む

「…お帰り。この後は家でいいのかい?」

「ども、このまま行くのもいいですが…折角なので花屋に寄ってもらっていいですか?」

「いいけど……ああ、なるほど。りょーかい、じゃあそうしようか。ほら乗った乗った」

俺の意図を察して無駄なく次の行動を催促する。

…こうやって4人で話すと、何故かようやく帰ってきたと思う

この間1人で来た時にはこうはならなかった。…やっぱり、この島ではこの2人がいないとしっくり来ない


――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――

――――――――――――――――


花を買った後、車で家に戻るとそこには統也さん、妃奈美、そして妃奈美の弟である一翔が出迎えてくれた

3人が来なかったのはどうやら夕飯の仕込みに手間取っていた模様

藍は統也さんに直接諸々の報告をしに別邸へ、姉さんは島を見て回ってくると言い残しその場を後にする

取り残された俺と紬さんは、準備がひと段落着くまで本邸の客間で談笑したり、藍のこれまでについて話したりとこの3年間の話題についてはお互い事を欠かさなかった。特にここ数ヶ月の出来事は…



何としても絵を完成させたい覚悟を決めた藍と共に、俺たちは早速製作に取り組んだ

藍の腕の震えは俺が昔両腕治す時に使用した強制ギプスを応用して抑え込み、時間に焦りつつも筆の繊細さを気をつけながら二人で腕を振るった。

寝る間も惜しんであーでもないこーでもないと言いながら四六時中絵画に没頭

結果…設けられた期限は3週間オーバーしたが、藍は満足できる最高傑作を描き終える

先んじて委員会には連絡をし、追加1ヶ月の猶予を貰っていた為その辺のいざこざは無く、無事完成した3枚の絵は再びウフィツィ美術館に展示された

3枚の絵の扱いについては、売り払ったわけではなく、ただ展示しているだけの言わば売名行為に等しい

藍の名前を、藍を見つけ評価した日本展のための…


そして、時間は流れて12月24日。世間が寒空の元、華やかになるクリスマスイブに藍の元に一報が来る

それはフランスで偏屈な画家として知られている著名人から『その才能を海外で培ってみないか?』という勧誘の案内だった

その人の元で絵画を学び、もし長居するつもりがあるなら美術学校のも籍を置くことをも出来るらしい

勿論渡航費、検査費、宿泊費は向こう持ちとのこと

しかしこちらにも事情がある。藍の眼と脳についてだ。

折角声を掛けてもらった以上、その事情含め相談するため藍が直接電話した結果…

『…分かった。君の意見は尊重しよう。君が私の元で描いた絵は私の財産とする代わりに、諸々の費用はこちらで持つ。それでいいね?』

…都合が良いと思うだろ?当たり前だ、なんせこの画家は姉さんと知り合いで、藍にばれないよう事前に話を持ち込んでいたからな

最も、姉さんが伝えたことはこの偏屈な画家を挑発し美術館に来させた程度らしい

気に入る絵が見れる、と。その結果がこれだ。姉さんもここまでトントン拍子に進むとは思ってなくて裏で驚いていた

つまりチャンスを作ったのは姉さんだが、それを捥ぎ取ったのは藍の実力。

藍は無償の借りを受け取らない。だから最後まで俺や姉さんからの援助を断り続けた

だがこと才能と技術を買ってくれた他人との契約ともなれば話は別

お互いの利害が一致、つまりそれは"ビジネス"だ

ならばということで藍は了承。パスポートの発行や検査などで日本を旅立つのは、イヴの日からあと一ヶ月半後

そうと決まれば流石に家族には黙ってはいられない為、島の畔柳家に報告したところ

『じゃあパーティしようよ!せっかくのクリスマスだし!こっち来なよ!!』

と、どこかのバカが騒ぎながら提案してきた為、今に至る


所々隠しつつも紬さんに一通りの報告を済ませると、どこか納得いかない様子だった

「……チッ、結局修司君は理絵ちゃんを無理やり押し倒して逃げてきたわけじゃなかったか。あーあ、賭けはあたしの負けかぁ。ったく、妃奈美にお年玉あげる羽目になったじゃん」

「それについては前回弁明しただろうが!ってかお年玉あげる歳じゃねえだろ…」

「お金もっともっと貯めたいんだって。…藍ちゃんのところにいつでも駆けつけれるようにって。愛があるでしょ?藍ちゃんだけに」

「………へぇ~」

素直に関心する。いや寒いギャグにではなく妃奈美の思いやりに

「妃奈美と一翔は、最近どうですか?」

「うちの子たち?妃奈美のバカは役所に勤めて自由気ままに島を盛り上げてるよ。意外にもその辺の才能はあったみたい。一翔は海運業、好きじゃないけど性にはあってるから長続きしそうだよ」

紬さんは笑いながら我が子の話を続ける。口ぶりや雰囲気から何だかんだで自慢の子なのがハッキリ解る。

因みに統也さんは変わらず市長をしつつ、趣味で書道や狩猟をして自分の道を往き、紬さんは見た目に寄らず島の水力発電所の管理・メンテナンス長を任されていた

前回来た時はそういう話をする余裕がなかったから、改めて聞くとつくづく思う

この人たちは本当にここが好きなんだと

「あたし達はこれからもここで過ごすよ。モチロン自分たちの意志でね。だから…また何かあったらいつでも戻ってきなさい。1発殴って目覚まさせてあげるからさ」

「――……そん時は、思いっきりお願いします」

俺にとって紬さんは母ではない。姉でも、叔母でも、友達でもない

だけど家族だ。紬さんだけでなくここの人たち全員、血は繋がってなくても間違いなく家族であると、そう実感させてくれた。


そうこうしているうちに夕飯が仕上がったと妃奈美が呼びに来たので、紬さんと共にリビングに行くと…3段重ねのショートケーキがテーブルのど真ん中に置かれ、妃奈美がドヤ顔で仁王立ちした

「誰が結婚すんだよ…」

「張り切っちゃった☆」

端的かつ分かりやすいコメントで理解しやすいわ

「…甘いものは若い連中に任せるよ」

「娘さんの愛情篭った手料理は親が片付けてくれないと困るって」

ドン引きしながら紬さんとコレについて擦り付け合っていると、次いで藍、統也さん、姉さんも合流し、全員が驚愕したじろぐ

「藍…今日の主役はお前だから、一番下のワンホールはお前に譲ろう。大好きだろ?遠慮なく食ってくれ」

「太るわっ!!」



用意してくれた食事を何とか済ませると、大人たちは次第に晩酌ムードに入っていき、シャンパン、赤ワイン、燻製ビールと次々と飲み始め宴が始まっていく

この中で俺と藍だけは未成年の為、お互いひっそりと抜けようとしたが藍は捕まるが、俺はそれを見捨てて外へと逃げた

避難に成功した俺は自室…は捕まりかねないのでどこか良い場所無いかと探してたところ…馴染みのある部屋の前に辿り着き、扉を開く

「――…ここも、相変わらずだな」

書類、ファイル、本、地図、グラフ表など、あらゆる資料が置いてあるのが一目で解る書斎

俺や藍が様々な分野を学んだ場所…ばあさまの資料室だ

リモコンで暖房を点け、俺は適当にファイルを手に取りパラパラと読み流す

……うん、ぶっちゃけ理解出来ない

あの人は…一言で表すならチートだ

それを体現するかのように棚の表札には建築、数学、植物解剖学、幾何学、生理学、人体解剖学、動物解剖学、植物学、組織学、博物学、動物学、鉱物学、気象学、光学、力学、工学、地質学、地理学、物理学とあらゆる分野で区分けされたファイルが整列されていた。

まさに地球のエキスパート。愛華さんや統也さんはばあさまのことを『現代のダヴィンチ』と称したのがよくわかる

なんせそれ裏付ける材料はこの部屋だけじゃない。この家とこの島もばあさまの功績で成り立っている。

統也さん曰く、ばあさまは若い頃から未曽有の大災害が生きているうちに日本を襲うこと、そして本土はパニックになり機能しなくなることを予見していた。それから避難するべく離れの島、つまりこの島に拠点を置いたとか

他にも理由があったらしいと統也さんは言ってたが、それは結局分からないまま他界した。

災害対策していくうちに、ばあさまは自分の知識と財産で島を発展させより住みやすくし、自給率も上げていく

その恩恵は大きく、島民は今でもばあさまのことを尊敬している人が多い

まさに英雄。…俺にとってもみんなにとっても


そんなことを思い出していると、机の引き出しから『史実』と表題されている書類を見つける

俺はそれを手に取りパラパラと読んでみると…内容は表題通りこの島の史実らしい。発電所を作ったり、農業を活発化したり、自然を保護したり、建築技術を最新のものにしたりと年代を追って簡単にまとめられていた

これも全部ばあさまが主導でやったことなんだろうが、こんな知恵があるなら海外に逃げることだって十分出来ただろうに

それをしなかったのが謎だったが…一つ、気になる文を見つける

『この日、廉也(れんや)が旅立った。持病で今の技術じゃどうしようもない。でも私は止めない。彼が愛したこの島を必ず守る』

そのページに挟まっていた小さな写真を手に取る

古びていて見にくかったが、腕を絡ませ寄り添ってる男女だというのは分かった

……廉也…知らない名前だが、話や写真から察するにばあさまの夫だったんだろう

つまり、その人が愛した島だから守ったってことか

「…はは」

不意に笑みがこぼれた。

あの鬼のようなばあさまにも純情な乙女心があったと思うと、笑うなっていう方が無理がある

だったらその意志がちゃんと家族に引き継がれてるあたり、満足して死んでいったんだろう

実際観光地としても有名になりつつあり、年々住人も増えている

姉さんも言葉に出してないが、将来的にはこの島の学校で教鞭振るうつもりらしい

言葉に囚われてた俺とは違う。みんな好きでやってるんだ

俺にはまだその生き方が出来ないから、少しもどかしい

続きをパラパラとめくると、あの大災害の事実も記されていた

小さくコメントで『忌々しい厄災』と書いてある辺り、とことん憎んでいたんだろうな。

当然だろう、なんせアレがなければ俺たちは今も誰一人欠けることなく過ごしていたんだから

藍の家族も、理絵の家族も…俺の家族も


その厄災はこうまとめられていた。

今では歴史の教科書に当たり前の如く載っている内容だが、どうやらリアルタイムで情報を追っていたらしく全部手書き

俺は一字一句真剣に読む。ばあさまが残した現実を、俺たちが遭った最悪を



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―――2004年 10月27日

"平成南海地震"勃発


日本の南沖を震源として発生した大地震。

マグネチュード9.3、最大震度7が観測されたの史上トップクラスの大地震が発生

駿河湾から日向灘に掛けての海底にあるプレートの境界に少しずつたまった歪が爆発した。

余震も含め、この影響により四国から静岡、東京までに至る沿岸部は津波により全壊に至る被害を受ける。

四国至っては、地盤沈下と波高10メートル以上の津波による被害から住宅地帯は8割が壊滅。

全てを飲み込み、貿易が困難に陥り物資搬入が不可能になる事態に陥った


続けて、悲劇は起きる


―――2004年 10月29日

"東北地方太平洋沖地震"勃発


三陸沖の太平洋を震源として発生した

波高10メートル以上、最大遡上高40.1 mにも上る巨大な津波が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害が発生した。

また、巨大津波以外にも、地震の揺れや液状化現象、地盤沈下、ダムの決壊などによって、北海道南岸から東北を経て東京湾を含む関東南部に至る広大な範囲で被害が発生


悲劇は終わらない


―――2004年 10月30日

"富士山の大噴火"勃発


火山灰による被害は日本中で起き、火山岩などによる被害は静岡県、山梨県はもちろんのこと東京都都心にまでおよび、

南海地震とは別の理由で最早誰一人として外に出歩けない状態が日常になるレベルの被害であった。

富士山噴火の直接的な影響は、富士五湖を地図から消すなど当たり前の被害を甲信関東に被害が及ぶ。


大地震というのは、いわゆる世界中に伝わる振動。

故に南海で起きた大地震は日本中に早くも遅くも伝わり、各プレートに影響を与え、歪を生ませた結果、各地起きる余震が震度5であるのが当たり前。

物流もまともに廻らない現状、食糧難や暴動などの犯罪も生活の影で行われている日常と化してた。


―――2004年 11月1日、3日


東海発電所、福島第一原子力発電所、浜岡原子力発電所の原子発電所にて炉心融解と原子炉建屋の水素爆発が発生を確認

これにより原子炉から半径30㎞圏内は人が住めなくなる

積算線量が30m㏜を超える地域は、向こう数年立ち入ることが出来ない状態になるだろう



追記:戦似一年での推定死者数:820万人以上(更新中)

          負傷者数:2000万人以上(更新中)


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