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モノクロの機械論的世界観  作者: リクヤ
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モノクロの機械論的世界観 5章


―――2012年11月19日 月曜日 夜


黙って家に居るのも落ち着かず、徐に外出すると気づいたら馴染みのある公園に訪れていた

11月の半ば、夜には当たり前のように冷たい海風が町に流れていたが、それは裏山の公園でも変わらないと実感させる寒さが私を襲う。

寒さ耐性が低い私だが、頭を冷やして冷静に考えたかった為、絶景が拝める公園のベンチに腰を下ろす


…ヒエロニムス絵画展で大賞を取り、私の絵は無事ウフィツィ美術館に展示された。

それからというもの、ヒエロニムス絵画日本展の委員会経由で何人かの画家や富豪に目をつけてくれたらしく、次の絵も見えてほしいとのことだ

期限として約1ヶ月。それで私のこの先の人生が決まると言っても過言ではない

そして…その話からもうすぐ1ヶ月が経過しようとしているのが今だった。私は…私は絵を用意していた。私が描きたかった"最高"の2枚を

だけど連絡はしなかった。いや、出来なかったの方が正しい…これは"最高"の絵であって"完成"した絵じゃない

妥協し、諦め、投げ出した絵に他ならない。けど、もうそんなことどうだっていい。

なんせ私の眼が色を映す時間は日に日に短くなっていくんだから

2年前は月一回、1年前からは週一回に、そして今じゃ視えないことが当たり前で日々ランダム

正直、頭がおかしくなる…そうやって身体が壊れていくことを肌で感じていくうちに、描く気力もなくなっていった

だから…もうどうでもいい、そのはずなのに……何とかできないかと頭の隅で佇む自分がいる

面倒だ、私の心はどこまでも面倒。いっそ…もう…このまま終わることができれば……

潔く諦めれるかもしれないのに――――


「――――よう、生きてるか?」


冷たい風が身体を揺らす中、冷たい言葉が私に投げられた

その声の持ち主は――

「――…修司」

あの絵を見せた日以来…つまり約1ヶ月ぶりの再会だ

似合わないリュックを背負っているが、少しだけいつもより大人びた雰囲気を感じる

思えばここまで会わなかったのは今回初めてだ。なのに私は何も気にしてなかった

なんせもう一度会っても何を話せばいいのか分からなかったからだ

気が楽だったまである。なのに、どうして今になって…

「…何、まだこんな面倒な女に未練あるの?」

…違う、未練があるのは私の方だ

未練を残し続けているのに、何をする気になれない私の方なんだ

「そういうわけじゃねえよ。単に過去一番ヒドイ顔してる奴がいたから、つい声を掛けただけだ」

「どんな顔よ…それ」

「今にも死のうとしている顔」

「――…っ」

的確に私の心情を突いてくる…そこまで顔に出ていたのか

「まっこの寒さじゃそりゃ死にたくなるよな。もうすぐ12月だし、来年もすぐそこだ」

修司は今の環境から私の心情をくみ取ったように話す

ここは話を合わせる。余計なことは言いたくないから

「…ええ、それも終わればもう高3。あっという間に時間が過ぎていくよ」

自分の吐息が公園を照らす微か橙色の灯りで白く見える

…どうやら私の眼はまだ色を映してくれるらしい

そんな些細なモノを見ていると、修司が最高に景色が見渡せる手前の柵に身体を預けその先を見通した

「…綺麗な景色だな。町の光りはもちろん、造船所の明かりも海を照らして靡いてるのがよく分かる。……俺の故郷はここまで綺麗じゃなかったが、夜の海は何となく惹かれるものがあったよ。それはここでも変わらねえな」

「――故郷?」

信じられない言葉が聞こえたので聞き返す。彼からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ

島のことは地元と呼んでいたのに…故郷?

「あぁ故郷だ。今となっちゃあるのかすら分からないが、静岡にある湖の近くに住んでたんだ…両親と一緒にな」

遠い目をしながら修司は自身の過去を思い出して口にした

まさか、昔話を聞けるとは思わなかった

今まで話そうとしなかった修司が、今になって話そうとするなんて…何を考えてる?

「今のお前はそんな両親と同じ顔してンだよ。…色んなモノ失って、盗られて、終いには生きる気力もなくなって諦めの境地に至る。でも一人じゃ怖いから周りを巻き込むという、糞みたいな終わり方をした俺の親に」

今まで聞いたこともない修司の本当の両親について話し始めた

淡々と、当時感じたことをそのまま口にするかのように

そしてその内容から結果を察してしまう

「それって、修司の両親は…」

「自殺したよ。…景色の良い岬から海へ投身自殺だ。……俺も一緒になってな」

「………」

聞いちゃいけないことを聞いてるみたいで少し気まずい

そんな話、なんて声を掛ければいいか分からないから

「けど俺は生きた。生きたいと思ったから俺は生き残ったんだよ。…目は背け続けたけど、まあ何とか畔柳家のおかげで何とかここまで来れたよ感じだな」

「そう…よかったねって言うべきなのかな」

「よかったよ。感謝もしてる。けどルーツを受け入れたおかげで今は中身が出来た感じがするよ。…逆に言えば今まで空っぽのロボットだったっつーわけだ。そんなザマ視てりゃイライラするよな」

言うほどイライラしていたわけじゃない…実際助かっていたことはあった

けれど、やっぱりどこか見てらんない気持ちなっていたのも事実だ

「何か…結構重い話してるのに、言葉に重みが無いね」

「過ぎたことだし、今じゃ乗り切ってるつもりだからな。…それに、俺だけ知ってるのもフェアじゃねぇってだけだ」

「フェア?」

「ばあさまが生きてた時に、お前のこと聞いてたんだよ。家が崩落して…親父さんが命がけで庇ってくれたおかげで一命は取り留めたこと。その時負った怪我で目がおかしくなったこと。…まあ頭の中まで後遺症があるのは知らなかったんだが」

「そんなこと…別にどうだっていいよ。みんな知ってることだし」

当時のことはよく覚えてない。気づいたら病院で、後になって父が私を庇って死んだことを母から聞かされただけだ

そのため幸か不幸か、コレが精神病を患うようなトラウマにはならなかった

あるのは喪失感と…感謝だけ

「――で、そんな立派な父親から助けてもらった不細工さんの命は、そんな軽いモンなのか?」

「………そんなのわけ…」

答えに言い淀んだ私を見かねたのか、ため息を吐きながら私に追い打ちを掛けてくる

「当たり前だが死にたい、死んで良いと思った奴から死んでいく……だからもし本当に死にたいなら一人で死んでくれ。俺は今度も付き合うつもりは一切無い」

その言葉を聞いた瞬間、視界がモノクロに切り替わり、冷やした頭に再び熱が入る

「――…っ!黙れっ!修司に何が分かる!?描き続けた腕と見続けた目はもう使い物にならない…そんな状態でどうやって描き続ければいいっ!?」

だったら、いっそもう諦めた方が楽だって……

「……お前が描けない理由って腕と目がダメだから、だよな?」

「そうよ、それ以外ある?」

「自暴自棄になるのは早えよ。少し冷静なって脳細胞使ってみろ」

「はぁ?」

驚いた。何を言い出すかと思えばまた訳の分からないことを口走ってきて

あることないこと言っても事実は変わらないのに

「お前の絵を思い返して分かったことがある。…3枚目が描けなかった理由が」

「いいよもう、そんなの私自身分かって…」

「まあ聞けって。どうせ死にたくなるほど暇だったんだろ?……お前さ、絵を描く時下書きしたことあるか?」

質問の意図が分からない…まあここは正直に答えておいてやる

「…基本ないよ。白生地を見ればそこに絵が浮かぶし、その通りに色を塗ればいいから」

それが私のスタンスだ。けどそんなの私だけじゃないだろうし…

「なるほどな。なら…お前の視界には、"線"は存在してか?」

「―――……は?」

本当に訳のわからないことを言い始めて改めて驚愕する

「伝わりにくかったなら言い方変えてやる。お前の脳味噌は、お前が視ていた景色から"線"そのものを認識していたか?」

思い返してみる。見ていた世界の光景を

「……………………それ、は…」

色とりどりに映された刺激のある視界。そこは全て色という模様塗りつぶされ、万華鏡の如く色が動き、澄み渡る。

地面の主色は茶色と灰色、海の主色は藍と白と黒、空は蒼と白と灰色。

全て色として認識して、理解している。

だから…それらを物体として認識していない。

――――だから、私は…線を…認識……してない

「…やっぱりな。線も点も全部絵として認識してただろ、車も人物も『こういう色合いをした絵』として認識してた、違うか?」

沈黙した私の様子を見て修司が追及してくる

……さっきとは打って変わって自分に自信がなくなってくる

当たり前を当たり前の通りに認識していたから、特に疑問にも思わなかった

その原因は8年という歳月が8年前の世界を失わせたからに他ならない

「写真を覚えるようにお前はお前の視界で見たものをそのまま頭の中にインプットして、自分なりの解釈をしながら頭の中で理解してたんだ。…いつか言ってたよな、展開図が想像しにくいって。そりゃそうだ、物体としてじゃなくて『絵』という平面体として先に認識してれば立体ってのはやりにくいことこの上ないだろうよ」

……段々と、私が視ていた世界が狂っていることを自覚していく

だってそれが当たり前だったんだから…

「だけどお前は文字は書けてた。教科書は読めていた。…そこを不思議に思ったが、ばあさまの資料庫曰く『文字』を司る脳と『絵』を司る脳は別であることが多いらしい。まっお前の場合は脳腫瘍が出来るほどに脳にダメージ負ったからな、肉体的にも精神的にも。その辺の認識がごちゃ混ぜでもおかしくねえだろ。…不思議に思わなくてもな」

修司なりに調べたことを淡々と口にする。その内容は少しだけ私をフォローしているようにも感じて凄く……気分が悪い

「――話が若干ズレたな。要するにこれまでは全てを色が付いた絵として認識していたし、それを元にしてなぞるように描いていた。けど…今は色が無くなったことでその描き方が出来なくったと。なぞるものが視えなくなったんだから」

修司は説明口調で言いたいことをまとめて私の脳の中を解明してきた

そこまで考えたこと…というより意識したことなかったが…

「まあ、多分その通りだよ。けどそんなことが分かったところで…」

つまりは今の私じゃどうすることも出来ないじゃないか――そう言おうとしたが修司の言葉に遮られる

「だけど、それでも出来ることがあるだろうが」

「出来ること?」

素朴な疑問が言葉になって現れる。それも当然、言おうとしていた台詞の真反対を言葉に出したのだから

「お前言ってただろ?2枚目は途中から目を瞑って描いたって。あれはどうやって描いたんだよ」

二枚目…あぁ、風景画か。

「…あ、あの時はまだ色が視えていたから…そのタイミングで透明水彩で全体をさっと描いたんだよ。位置や形を身体に叩き込んでおくために。その後は目を瞑って本色で描いただけ」

あの時のことを思い出しながら手法を説明する

それが分かったところでどうすることも出来ないだろうに

「はぁん、基本ってのはそういう意味か。でもそりゃつまり見えなくても描けるくらいの力量はあるってことだろ?けど今はキャンバスに色は浮かばないうえに全部モノクロに見えるから色の境界も認識出来ない」

「…そういうこと。…で?」

私は投げやりに肯定する。もう一度キャンバスと向かい合わないと実感しないだろうけど、体験談から基づく推察で言えば修司の言う通りだ

今にして思えば、3枚目を描こうと筆を持った時、どうすることも出来なくて殴りつけたのがいい例かな

でも…

「それで?…そんなことが分かったところで、だから何なのよ…今更そんなこと詰問したところで意味ないじゃない!俺分かってますよアピールがしたいだけ?そんなのはクラスの連中にしてろよっ!!」

散々文句言わずに答えてやった鬱憤が口から止まらない

イライラする…人の神経を逆なでするのも体外にして欲しい

「どうあったって私は真っ白いキャバスには絵が描けない!その事実が修司さんのおかげで白日の下に晒されましたよ!けどそれで何が変わる?金が入るのか?目が治るのか?」

これは八つ当たりだ。恥ずかしいくらいの、八つ当たり。

言ってて胸が苦しくなる。思わず自分の心臓を手で押さえるほどに…。けど言わずにはいられないんだよ…今更それを自覚させたことで蘇る恐怖が、簡単には拭えないから

「分かってる…!お姉ちゃんやおじさんたちに縋れば解決するってことくらい!そんなことはっ!!…けどそれはもう許されない。そんなこともうしたくない!」

思いの丈を全て口に出した。内にある感情を怒声としてそのままに…

「それに仮に縋って解決して治ったら…視界が元通りになったら…もう二度とあの画風を描くことが出来ない!だから今しかないのよ!今しかないのに…描けないのよ…視えなくなってって、腕が震えて、どんどん怖くなってくる…っ!」

それは本心。紛れもない本音を修司にぶつける。

2枚目までは何とか色が視えた。だけど3枚目からは…最早集中出来ないほど全てが壊れかけてた

私はその事実を受け入れることが出来なかったんだ。だから逃げたのに…

どうしてみんな私に期待させるようなことをしてくるんだ!

「…分かったでしょ。もう私は描けない。だから…どっか行ってよ。行かないなら、私が行く」

そう言いながらベンチから重い身体を立ち上がらせ、修司に背を向けようとするが――修司は怯まず面と向かっていて怯まず堂々としていた

あたかも予想していたように…無表情。

「……これを見てもか?」

そして、背負っていたリュックから、両手で持てるくらいの額縁を取り出し背表紙のまま私に差し出してくる

不思議に思いながらもそれを受け取り、額縁をひっくり返すとそこには―――

「――――ぁ」

思わず言葉が漏れる。眼が見開く。それほどまでに面を食らった

額縁の中に描かれていたのは――――島だ。

災害から避難して、私たちを救った島。彼誰島

船から見た景色だろう、島の全貌が一発で手に取るように分かる

そして、一番驚いたのは…

「……水墨画…。まさかこれ…」

「俺が描いた。俺の思い出を、俺の好きな光景を、お前の思想を真似て描いてみたんだ」

修司が…執拗に絵心無いと訴えてきたあの修司の絵が、私の手元にあった

白と黒と灰色だけで創られた…この世で一つしかない彼誰島

水墨画なのに夕日に照らされてるのが分かるほどの巧妙な印象を与えてくる

「色々と描いてみたが、それが一番良いってことで妃奈美が額縁に入れてくれたんだよ」

「妃奈美って……島に戻ったの?」

「ああ、絵の構図はお前たちのをずっと見てきたからな…感覚は分かってた。あとは俺なりにどういう風に描けるかを考えた結果、統也さんに教わるのが一番だと思って」

あの人なら確かに教えてくれるだろう。私が絵を描き始めた時も色々と教えてくれたし

じっとその絵を見つめる。


……良い絵だ。私の眼でも分かるほどに訴えてくるものがある…

…わか…るんだ…すごい…って…この絵の精密さが…気持ちが……分かるんだ、私は…


――知らず、涙がその絵に零れる

あぁ…私はうれしいんだ。

こんな眼になっても、私には絵が分かる…まだ…私は全部を失ったわけじゃない…

いやむしろ、この眼になったからこそ修司の絵がハッキリと解る

白と黒しか映らないからこそ、細かいことまでよく視える


つまり…私にとってこの絵が、8年ぶりに見たまともな『絵』なんだ…


そう思うと――涙が止まらない。

全部を彩るあの視界が嫌いだったわけじゃない。

むしろ受け入れていたし、あれがあったからこそ二枚を完成させることが出来た。

だけど、失った今だからこそこの絵の純粋さが分かるの事実だ

「…俺にはこれが精一杯だった。といよりこれが一番性に合ったんだよ…白と黒っていう極端な色だけで創ることが」

「でもっ…どうして今更絵を…私への当てつけ?」

鼻をすすりながら、それでも当然の質問を聞いてみる

すると、修司は意を決したのか私の眼を見てその問いに答える

「――提案するためだ。藍……"合作"をしよう。お前が土台を描けないなら俺が描く。お前はそれを元に絵を描いてみろ。…途中からなら、眼を閉じても描けるんだろ?」

「……っ!」

破顔した。さっきから驚きの連続だったが、まさかそんなことを言ってくるとは思わなかった

そんなことをするために、統也さんのところで習ってきたの?

だったら…もしそうなら私からも確認したいことがある

「…ははっ、まだおばあちゃんたちの遺言に縛られてるの?いい加減私と理絵から離れなよ。…私たちを理由に時間を使うの、辞めなよ」

結局私を助けるために動いていた、そういうことだと感じる

この絵は素晴らしい、だけどそれも全部私の為だって話なら心底ガッカリする話だ

何だかんだで囚われたままなんだなって…


そんな彼を見ると…気持ち悪くなる

だって、優しくしてくれるんだから…助けてくれるんだから

それについ甘えてしまいそうになる私が…私は気持ち悪い


「――…は?さっきまでの流れでなんでそうなんだよ」

だけど、修司は一切目を逸らすことなくそれを否定する

「俺はただお前の完成した絵が見たいだけだ、うぬぼれんな」

「なっ――!?」

「こっちだって『文字』っつー絵を描く仕事をしてんだ。人に見せて、人に伝わる絵を描く仕事をだッ!その絵を未完成なまま客に見せるだと?俺の立場なら、んなアホなことありえねえんだよッ!!」

そう激昂しながら私の胸倉を掴み無理矢理聞く耳を持たせる

「曲がりなりにも画家の卵なら…何が何でも完成させたものを世に出しやがれ!それともなにか?…お前はもうこれで良いと本気で思ってんのか?えぇ?」

これで良いと本気で思ってる…だと?

あの絵で、あの二枚で良いと思ってるかって?

「……煩い」

そんな…そんな愚問の答えなんて考えるまでもない!

「――これで良い?んなこと思う訳ないじゃない!ずっとずっと考えて練ってきたあの絵を目の前に作りだしたいに決まってるだろ!!」

理絵の最高傑作を見といて、修司の地元愛に溢れる絵を見といて…刺激されないわけがない!

後悔が押し寄せる、未練が強くなる…ッ!

「ふざけんなよ…なんでこんな気持ちにさせんだよ…!もう諦めれると思ったのに…これも作品の味だって言い聞かせていたのにっ!!」

今度はこっちが激昂しながら胸倉を掴み返す

「本職じゃない人間にこんな絵を描かれたんだぞ…こんなことされて、あのままで良いなんて思えるわけがないっ!!」

今の気持ちを、心の底にある渇望を私は叫んだ

それを聞いた修司は私の胸倉を開放し、落ち着いた口調で問う

「だったら…使えるモノは何でも使えよ。今ならそれが出来る手段が目の前にあるだろ?姉さんやおじさんに後ろめたく思って頼れなくても、赤の他人にはそんな気兼ね必要ねぇんだから…」

挑発だ…やっすい挑発、子供でも考えれる挑発。だけど、私は私のやりたいことをやりたい

せめて…やり切って死にたい

なら言うことは決まってる…もうこの気持ちに嘘は付けない


「……私の完成した絵が、見たいんだよね?」

「ああ」

「純粋に、同じ筆を持つ者同士として見たいんだよね?」

「そうだ」

「だったら………やってやる。今の私はそうじゃないと描けないから…っ」

「あぁ、やってみろ。妥協も遠慮も要らねえ。意地でも描きたいモン描いてみろ。…その為なら片腕くらい貸してやる」


何が何でも完成させる――

例え、自分の力だけで作れなくても、私は私の最高の絵を完成させたい

心の底から思ってしまった。だから、もうその思いから目を背けれない

私だって、胸張って生きて、満足して死にたいんだ


「――っ」

この思いを決して忘れない為に、私は初めて彼と契約した


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