6幽霊のリーダー
日水神社に参拝に行ってから数日。
時々神社に遊びに行ったりしながら、千広は充実した日々を過ごしていた。
修行する中で、葉月がいろいろとやばいことがわかった。
お札を一枚地面に張り付けて一気に土をえぐったり(幻覚を見せる術)、幽霊をぐるぐる振り回して投げたり(幽霊投げ)、幽霊を額に当てて昼寝したり(なんか幽霊がソフトクリームに見えてくる)など、ほかにもいろいろある。
そんな葉月を、結衣は当たり前のように見ているのだから、それまた驚きである。
慣れというものは恐ろしい。
まあ、こんな感じで千広は楽しい(?)日々を送っていた。
何もかも平和で、新鮮な日々。
千広は湧き上がってくる幸せをかみしめて、今日も神社へ向かうのだった。
「おはよー、千広ちゃん」
鳥居の向こうから千広が見えてくると、結衣はすぐに手を振った。
千広も手を振り返し、ちょこんとおじぎをする。
葉月は竹ぼうきをせっせと動かし、神社の掃除をしていた。
しかし、神社には落ち葉も何も落ちていない。ただの暇つぶしだろう。
二人はいつもと何も変わらない。
だが、何かが違う。
千広が不思議に思っていると、
「あ、あの子が弟子の子?」
という誰かの声が聞こえた。
「はい、そうです」
葉月が軒下に走っていく。
そこで千広はようやく気付いた。
薄くて見えにくいが、そこに幽霊がいる。
めったに見ない人型だ。
しかし、なぜ薄いのだろう。
「千広ちゃん、やっぱりよく見えないのか」
結衣が千広に声をかける。
「どういうことですか?」
「あの人はね、人型で長死にで、結構活躍してる、この地区のリーダーだよ。かなり上級の霊だから、霊感が葉月ちゃんか私くらいに強くないと、よく見えないんだ」
軒下の幽霊は、お茶を飲んで休憩か何かをしている。
ただお茶を飲んでいるだけなのに、とても優雅だ。
これがカリスマというものなのだろうか?
そんなことを考えながら、千広は幽霊のもとへ向かう。
「あの、おはようございます」
「おはよう。私はここのリーダーをしている、石水ゆりだよ」
幽霊、ゆりはにこりと微笑む。
その姿は、消えそうに霞んでいる。
「そっか、私が薄く見えるのね。まあ、修行を積めばちゃんと見えるようになるよ。がんばれー」
「はい。ところで、何してるんですか?」
「お茶を飲んでリラックス、かな。最近忙しいの」
ゆりは、疲れを思い出したようにため息をつく。
そんな幽霊のリーダーを見て、千広はあることを思い出した。
「ゆりさん、ちょっと相談なんですけど…奈々さんって知ってます?」
「奈々さん?奈々さん…ああ、あの人か。奈々さんがどうかした?」
「前、奈々さんにお願いされたんです。幽霊の願いを、未練を叶えて、と。それで私、奈々さんの願いを叶えてあげたんです。それから、奈々さんとは会ってないんですけど…幽霊たちってことは、他の幽霊も悩みを抱えてるってことですよね」
「んー、そうかもね。悩みなんて誰にでもあるだろうし」
「だから、未練とか、悩みとかを抱えている人がいたら、紹介してほしいんです」
「それくらい、簡単簡単。わかったよー」
ゆりは手でオッケーマークを作り、立ち上がる。
「秋の餅つき大会の時、みんなに聞いてくるよ」
そう言ってゆりは急に姿を消した。
「行っちゃったや。お菓子でも出そうと思ったのに」
「どうせお菓子を出すのは結衣じゃなくて私でしょ?」
葉月は呆れたように、そっぽを向いて掃除を再開した。
「でも、本当にすぐいなくなっちゃったね…え!?」
「急にどうした~?」
疑問に思う結衣の言葉は、千広には届かなかった。
「て、ててて、手が透けてるぅ!」
「あちゃー、霊気に当てられちゃったんだね。へなちょこが強い霊と会うと、幽霊化しちゃうことがあるんだよね~。ちなみに妖気に当てられると妖怪化するし、魔気に当てられれば魔法使い化、神気に当てられれば神化…」
結衣は指でいろいろ数えていて、まともに取り合ってくれない。
「放っておけばすぐ治るし、大丈夫だよ」
葉月も笑っているだけだ。
「ほ、ホントかな…?」
千広はその場にへたり込んでしまった。
それから数週間。
数日で無事に体が透ける症状は治まり、千広は安心していつも通りの生活をしていた。
そんなある日の夜。
千広は布団に入って寝ようとしているところだった。すると、
「こんばんわ。報告があるんだ」
という聞いたことのある声が聞こえた。
「ゆ、ゆりさん!」
「そうそう。前は、幽霊化しちゃう病気になっちゃったんだってね~。上級の霊でごめんね。で、悩んでる霊、見つかったよ」
ゆりは指を二つ立てる。
「六件、依頼が来たんだ。その中から二つ、簡単そうな悩みを選んだんだけど、内容を教えるから、どっちから解決するか選んでね」
「六件…!」
まさかこんなに依頼が来るとは。千広は驚き、一瞬プレッシャーを背中に浴びたような気がした。
そしてゆりは、ゆっくりと口を開く。
「…なくした指輪が見つからない花々の依頼と、ペットとして飼っていたカメに会いたがっている詩々の依頼、どっちがいい?」