5日水神社
後日、千広は巫女姉妹のいる神社へと参拝に向かった。
「あ、おっはよーございまーす」
巫女の姉の方が、フレンドリーに挨拶をしてくる。
「えーっと、おはようございます」
千広も慌てて挨拶を返す。
「んー、お客さんですか?いらっしゃいま…む?」
妹の方も境内裏から出てくる。
しかし、突然黙り込んだ。
「えと、ど、どうかしました?」
「いや、お客さんの周りが、なんか騒がしいなって」
「騒がしい?」
千広は辺りをきょろきょろと見回す。
そこで見つかったのは…
「うわ、集まってるな」
多くの幽霊たちだった。
「げー、集まりすぎじゃん。お客さん、お祓いしよっか~?」
「こんなに集まってるのは珍しい。お客さん、お祓いしましょっか?」
「いや、大丈夫です。前からこうなので」
幽霊たちは千広にまとわりついて離れない。
「君も、幽霊見えちゃうのか~。見えちゃうのって、めんどいよね~」
「結衣が見えちゃうようになったのって、ここに来たからだよね?まさか、遠回しにここに来たくなかったって言ってる?」
「ったく、葉月ちゃんは深読みしすぎなんだよ。葉月ちゃんと会えない人生とか、幽霊見える人生より、もっとひどいからね!」
「あ、あれ、そうなのかな?うん、だよね」
何を話しているのかはわからないが、多分他人が触れないほうがいい話題だと思われる。
そう思って千広は何も聞かなかった。
「あ、話題がそれちゃった。ごめんよ」
姉の結衣と呼ばれる巫女が、大事なお客様に、指でピースを作って謝る。
「いや、構いません。でも、前はこの幽霊たちのせいで、かなり困ってたんですよね。今はなぜか、落ち着いてるんですけど」
「それは、たしかに謎ですね。なんかあったんでしょうか?」
「あったとすれば、先日、幽霊の悩みを解決したんだけど…」
「それじゃないですか、お客様!」
妹の葉月は、わずかに困惑した様子でため息をついた。
「二人は、幽霊関連で悩んだことはあるんですか?」
千広は、ふと質問する。
悩みを共有できるかもしれないと思ったからだ。
幼いころから千広は幽霊に気を取られてしまい、完全に問題児扱いされてしまっていた。
まあ、それを解決してくれた奈々には感謝してもしきれないくらいだ。その感謝と同じくらい振り回されたけど。
さて、巫女姉妹の反応はいったいどのようなものなのか…
「ないよー」
「即答!?」
結衣がにこにこしながら即答する。
「私の場合、霊が見えるのは生まれつきじゃないからね。神社にいたから見えるようになったの。後天性の場合は、あんまり困ることはないって、幽霊に聞いたよ」
少し目線をずらすと、ふよふよとした人魂が視界に映りこんでくる。
「でもね、葉月ちゃんのは先天性。生まれつきなのよ。お客さんも多分生まれつきなんだろうけどさ。葉月ちゃんは幽霊方面の天才だからね!マジ神童!ぎふてっどってやつ!君みたいなのとは比べるのが失礼ってものなのさ」
結衣は自慢げに、ぺらぺらと口を動かす。
そんな結衣に、千広はあっけにとられてしまった。
「ゆ、結衣。私、別にそんなんじゃないから、いったん落ち着いて」
葉月が慌てて結衣をなだめる。
「だからすなわち、うちの葉月は…って、どしたの、うちの葉月」
「言ったでしょ!落ち着いてって!まあ、褒めてくれるのは嬉しいんだけどさあ。そんなに言うと、お客様がかわいそうじゃん」
「んあー、確かにそうかもね。ごめんよ、お客さん!」
結衣は手をあげて、小さく頭を下げる。
「まあ、さっきのを要約するとだね。葉月は天才で神童で、お客さんは葉月の足元にも及ばない。っていう感じ」
「ま、まあ、確かにそれはわかりますよ」
幽霊が近づいてきても何もできない千広は、自分に幽霊系の才能がないことにうすうす気づいていた。
「葉月ちゃんは、幽霊を呼び寄せて人魂ごっこさせたり、幽霊と一緒におままごとしたり、幽霊を枕にして寝たり、幽霊に宿題を手伝わせたりできるんだよ!」
「…私、そんなことしてないんだけど」
「しようと思えばできるでしょ?」
いろいろごたごたしていたが、葉月がすごいことは千広にもわかった。
「なんならさ、お客さん、葉月ちゃんに鍛えてもらえば?」
「え、鍛えてもらう…?」
結衣は片目を閉じて、人差し指で宙を切る。
「力を使いこなすためには、力のある人に弟子入りするのが王道でしょ?好きな時にここに遊びにおいでよ!」
「でも、私が面倒見きれるかなあ?」
「だいじょぶだって!私も手伝うし」
結衣と葉月が話し合っている間も、千広は迷っていた。
自分では迷惑をかけるかもしれないし、そもそもの葉月がまだ承諾していない。
二人のこともよくわからないし、何をやって鍛えるのかも知らない。
「むむ、でも、悩まされることがもっと少なくなるかもしれないし…二人の力も気になるし…」
「でしょ!葉月ちゃんの超人的な力、見てみたいでしょ!?」
「むあああー、見てみたい!弟子入りしますっ!」
「よし、よく言ったぁ!」
あと残るのは、葉月が千広の弟子入りを認めてくれるかどうかだ。
「うーん、お客様も弟子入りしたくなっちゃいましたか…じゃあ、もう許すしかありませんね。結衣も言ってるし」
「流石、我が妹葉月ちゃん!」
「妹じゃないし」
一応、葉月も認めてくれたので、これで千広の弟子入りは確定のものになった。
「じゃあ、自己紹介をしましょう。私はこの神社の巫女の、日水葉月です」
「私は日水結衣。葉月ちゃんの、まあ、義理の姉かなあ?」
「私は佐々野千広です。よろしくお願いします」
三人はぺこりと頭を下げ合う。
「これからよろしくね、千広ちゃん!」
葉月の優しい声が、境内に響いた。