17お~に~こ~
「あ、ゆりさんと、人間さん!」
依頼人である幽霊がおじぎをする。
「僕は喜々というものです。ゆりさんの右腕として、雑用やらなんやらを任せられております。」
「右腕なのに雑用…まあ、よろしくお願いします」
「では、早速本題に入らせていただきます」
喜々は、ただでさえ真面目そうな顔をもっと真剣そうに変えて、話し始めた。
「この前、ゆりさんに頼まれて、地獄の重要文書を借りに行ったのです。その時閻魔様が、『私のお付きがあまり家から出てこなくなったんです。引きこもりになってしまったのでしょうか…。』と言っていたのです。個人的な問題ですし、大きな事件に発展したとしても地獄の事件です。関わらなくてもいいかもしれませんが…」
「…そうですね、一応、行ってみましょう。鬼子さんたちには、お世話になったので」
喜々の言葉に、千広はうなずいた。
横を見ると、ゆりもオーケーマークを出している。
「じゃあ、早速地獄に行ってみようか」
ゆりの言葉が号令となり、三人は地獄へと降りて行った。
「鬼子ぉ~」
地獄に行ってすぐ、閻魔の嘆く声が聞こえた。
「え、閻魔様~?どこにいるのですか~?」
喜々が叫ぶと、
「ここでぇ~す」
という声が聞こえた。
「いや、ここって言われてもわからないって…」
千広たちは、声の聞こえる場所を頼りに、何とか閻魔のもとへ辿り着いた。
「そ、空子ちゃん、大丈夫?」
「ち~ひ~ろ~。実はぁ…実はぁ…鬼子が引きこもりで、全然相手してくれないの~」
閻魔はため息をつきながら岩に座り込んでいる。
「鬼子ったら、どうしちゃったのかなあ?千広、わかる?」
「わからない…」
「そっかあ…っは!そうだ、今は事件解決のために来てくれてるんでしょ!」
「え、あ、うん」
突然元気になった閻魔を目にして、千広は困惑してしまった。
「千広が解決しようとした事件は、必ず解決するんだもんね!だからだから、事件解決頑張ってね!あ、でも無理はしちゃだめだよ。可愛い子はちゃんと可愛いままでいようと努力しないと、可愛くなくなっちゃうんだからね」
「あ、はい。頑張るね」
「じゃあ早速、鬼子の家に案内するね!…あ、他の二人も来てください」
「温度差が…やばい。」
ゆりと喜々は驚きつつも閻魔について行った。
「こちらが鬼子の家なのですが…」
閻魔がドアをノックする。しかし、
「…今は、ほっといてほしいんだ」
という返答が返ってきた。
「口調も変わってしまいましたし、どうしたのでしょうか?何か病気かもしれません。しかし、勝手に入るのもなんだか…というわけで、困ってしまいました。千広、何かわかる?」
「いやー、これだけじゃわかんないなあ。やっぱり、強行突破しないと。鬼子さんには、あとで謝ればいいや」
「そっかあ、それが千広の意見か。うーん、確かにそれしかないよね。じゃあ、ドアを開けちゃおっか」
閻魔は早速ドアを押したり引いたりしてみる。
だが、ドアはびくともしなかった。
「あれ?鍵、閉めてるのかなあ?うーん、どうしたものか…」
「んー、なら、ドアを壊せばいいと思うよ、空子ちゃん」
「えっ!そんな強引な!お、お二人は反対ですよね?」
閻魔は慌ててゆりと喜々に尋ねる。しかし、
「壊すってのはいいと思うよ」
「はい。それが無難かと」
二人からは千広に賛成する声が返ってきた。
「ほ、本当にいいのかな…?」
「大丈夫だよ。あとで直せば」
「直せばいいって話なのかな?鬼子って怒ると怖いんだよね。あー、でも仕方ない!やるか!」
千広の意見に押され、閻魔はようやくドアを破壊することを承諾する。
「じゃあ、どうやって壊す?」
「そうですね、何か道具はありませんか、閻魔様」
二人が考えていると、閻魔はあたかも当然のように、
「何言ってるんですか?こうやって壊せばいいでしょう」
と言ってドアを魔法攻撃で粉々にした。
「…え?」
「爽快感抜群」
今、何が起こったのだろうか。と千広は思った。
一瞬、閻魔は手のひらをドアの前に突き出した。
そして次の瞬間、視界には粉々になったドアと砂埃が映っていた。
「凍らせて、バコーンって割ったんだよ。火でぼーっと燃やしたり、風でひゅーって飛ばしたり、水でびしょびしょーってやっても良かったんだけどね。」
閻魔はにこにこ笑いながら説明してくれた。
「…すごい、閻魔様」
「こんな力を持っているとは」
「私はそんな大層なものではありませんよ。しかし、もっとほめたたえても別にいいのです」
ゆりと喜々が驚くのを見て、閻魔はドヤ顔で笑う。
そうこうしている間に、舞っている砂埃はだんだん消えていった。
「鬼子さん、大丈夫ですか?」
千広と喜々は部屋の中へ入っていく。
しかし、閻魔とゆりは二人を止めた。
「待って!まだ行かないで!」
「何か様子がおかしいです…とにかく、今は危険です」
二人の忠告を聞き、千広たちは慌てて戻ってこようとする。だが、
「はっ!」
突然閻魔が家へ飛び込んだ。
「え!?」
振り返ると、後ろでは閻魔が何かの攻撃を結界を張って防いでいた。
「千広!みんなも、離れてください!この人は…鬼子は今、正気じゃない!」
「お、鬼子さん!?」
千広は驚きつつも、急いで家から出る。
「…フフフ」
鬼子は、鬼子の声で笑った。
「やっと来た…さあ、おいで。どれもこれも、僕の前で敗れるがいいよ」
…誰かが、鬼子の声で、言った。