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15初めてのプレゼント

千広が地上に戻ってくると、すぐにゆりと孝典が走ってきた。

「人間、どうだった?」

「いろいろ聞いてきましたよ。えーっとですね…」

千広は聞いてきたことをなるべく詳しく説明した。

「ほうほう。なるほどな」

「あと閻魔さん、なんだか疲れてるみたいなんです。おままごとの途中で寝ちゃって」

「そうか。かわいそうになあ。うーん、何を渡そうか…」

孝典は悩みこんで話さなくなった。

千広も考えてみることにした。

唐揚げが大好き。仲良しな人との時間。疲れている。孝典ができること…。

「あ!」

そこで、千広はあることをひらめいた。

「どうしたの、千広」

「いいことを思いつきました!」

そして、千広は孝典に耳打ちする。

「これをこうして…ゴニョゴニョ」

「なるほど!それはいいな!」

孝典は笑ってうなずく。

「ゆりさんにも教えます。ゴニョ…」

「あ、そっか!いいね」

ゆりもうなずく。

こうして、閻魔にプレゼント計画が翌日実行されることになったのだった。


「閻魔さん、おはようございます!」

翌日の朝。千広は孝典とともに地獄へとやってきた。

「あ、千広!昨日は寝ちゃってすいません。それで、一緒にいるのは…孝典さん!?」

驚く閻魔に、孝典が近づく。

「小娘。今日は頑張るお前に、褒美をやろうと思ってな」

「ご、ご褒美ですか?」

「ああ。それは…」

孝典は隠し持っていたクラッカーを鳴らす。

「お前に今日一日、休暇を与える!」

「休暇!?お休みは嬉しいですけど、そしたら閻魔の仕事をするのは…」

「もちろん、俺だ。今日一日、俺が閻魔を務める。その間、お前は友達と遊んで来い。お昼の弁当には、唐揚げ弁当を持たせるからな」

「本当ですか!?やった!」

閻魔は喜んで千広に駆け寄る。

「今日一日お休みです!ありがとうございます、孝典さん!」

「おっと、最初に提案してくれたのはこの人間の嬢ちゃんだ。そっちにも感謝しとけよ」

「そうなんですね。ありがとう、千広!じゃあ、どこで遊びますか?」

閻魔の問いに、千広は少し考えてから、

「じゃあ、地上にでも行ってみますか?」

「地上…いいですね!最近行けてなかったですし!」

閻魔は早速千広の手を引っ張って行こうとする。

「ああ、待て、小娘!その服で行く気か?」

「え、ダメですか?」

「ダメじゃないが…さすがに閻魔の服は…目立つんじゃないか?」

「そうですかあ。じゃあ、着替えてきますね。」

そう言って閻魔は走って行った。


しばらくすると、閻魔は帽子を外し、水色のワンピースを着た姿になってやってきた。

「に、似合いますか?幽霊だったころに着てたんですけど…」

「はい、とっても似合ってます!」

「えへへー。じゃあ、行ってきます、孝典さん」

「ああ、行ってこい」

二人は、地上へと向かった。


「ああ…懐かしい…」

閻魔は地上を見て、静かに微笑んでいる。

「一年ぶりですね。ほんの一年なのに、本当に懐かしいです」

「良かったですね」

千広は喜ぶ閻魔を見てうれしくなる。

「そういえば、千広が持ってるやつって…」

「あ、そうです。これが唐揚げ弁当です」

「やったあ!お昼に食べましょうね!」

「はい」

二人は、いろいろな場所でたくさん遊んだ。

公園で遊んだり、駄菓子屋でお菓子を買ったり、日水神社に行ったり…。

お昼には小さなバッグから二つお弁当を取り出して、一緒に食べた。

自分で作ったものだったから、味は心配だったが、閻魔はおいしそうに食べていて、千広は安心した。

楽しい時間はあっという間に過ぎていき、夕焼けが美しい時間になった。

「じゃあ、そろそろ地獄に帰ります。さようなら」

「はい。また今度」

閻魔は地面に人差し指を向ける。

「そうだ、千広」

「え?」

「…私の名前、知ってますか?」

閻魔の名は、鬼子や天国の門番が呼んでいた。

「空子、ですよね」

「はい、そうです。宮川空子です。あの、良ければ私のこと、空子って呼んでくれますか?」

「ええと、空子さん?」

「呼び捨てでいいです」

「呼び捨て…」

呼び捨てはちょっと、と千広は思った。

身長的には自分より年上。精神年齢的には自分より年下。

空子さんと呼ぶにはちょっと変な感じで、呼び捨てで呼ぶのも、小さい友達に対する態度ではない気がする。

「じゃあ…空子ちゃん」

「…」

千広が名前を呼ぶと、閻魔は少しの間沈黙し、

「ふふっ、あは、あはは」

と笑い始めた。

「いいです、いいですよ、それで。私、あんまり友達もできないまま死んじゃって、幽霊になってもなかなかできなくて…。そんな私が、友達と思える存在があなたです。ねえ、千広。あなたは私を、友達だと、思っていますか?友達だと、思ってくれてる?」

閻魔は微笑んで、でも少し不安げに尋ねる。

「…もちろんです。あなたは私の友達…初めての、友達だよ」

幽霊のせいで、千広には友達ができなかった。

だから、この少女が、初めての友達。

「うれしい…うれしい。本当に、今日はありがとう、千広。また遊ぼうね~!」

そう言って、閻魔は地獄へと帰って行った。

千広も、自分の家へと帰って行った。


「おいおい鬼子。空子のやつ、あいつに敬語使ってねえぞ」

「ねえねえ鬼太。空子ってば、あの子を特別扱いしてるわ」

陰からこっそり見ていた鬼二人は、口をとがらせる。

「あたしらには敬語なのにね」

「ホントホント。なんだろうな、対等に、同じ立場の友達として、あの人間と接しようとでも思ったのかな?」

「あたしらは違う立場ってこと?」

「ま、そうかもな。尊敬されてるって考えれば面白いぜ」

「確かに」

勝手に納得した二人は、地獄へと帰って行った。


後日。

「空子ちゃーん!遊びに来たよー!」

千広が地獄へ行ってみると、

「あ、千広!遊びに来てくれたんだね。ようこそ!」

と言って閻魔が出迎えてくれた。

そこまでは何もおかしくない。しかし、その先が少しおかしかった。

「…あれ、それは…」

「ああ、これ?これはね~、見ての通りのリコーダー!孝典さんにもらったやつで、さっきまで吹いてたんだよ!」

閻魔は早速リコーダーを吹き始めた。

「うんうん。うま…いっ!?」

その音を聞いて、千広は驚いて固まる。

「うっ…空子ちゃんったら、リコーダーがうますぎるっ!」

「そう?褒めてもらえてとってもうれしい!とっても満足!」

閻魔は喜んで飛び跳ねる。

「ネズミさんの歌とか、アニメのオープニングとか、いろいろ吹けるようになったんだよ!すごいでしょー!もっと褒めて褒めて!」

「す、すごい…!短期間でそんなにうまくなるものなの…っ!?私、ネズミの歌とかちびっ子が見るアニメのオープニングとか吹けないんだけどっ!吹こうと思って練習してもできてないんだけどっ!」

「んー?ちょっと何言ってるかよくわかんないけど~、私、千広よりうまく吹けるようになったんだね!やったー!私すごい!ちょー天才!」

いろいろとドジな閻魔のとある才能が、開花したのだった

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