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14誤解ってひどい

「そ、その服、まさか!」

「そのまさかだ。俺は、先代閻魔の孝典。今日は、お前さんに依頼があってな」

孝典はにこりと笑った。

「今の閻魔の…空子、だったか?あいつ、どうしてる」

「閻魔さんなら、元気に明るくかわいく…」

「ははあ。仕事は?」

「えと、ちゃんとやってましたね」

「ほう。そうかそうか」

孝典はそこでため息をついた。

「最近は、あの小娘に会えてなくてなあ。元気にやってるなら、それでいい。それで、依頼の内容を説明するぞ」

「はい。」

「それはだな…小娘に、何か物をやりたいのだ。閻魔の仕事は、本当に大変なものだからな。歴代はみんな任期が終わる前に辞めてる。そんな仕事を頑張ってるのに、何も褒美がないのはかわいそうだろう。だから、それを選ぶのを手伝ってほしいのだ」

孝典は頭を下げる。

「…はい!協力します!」

「そうか!それは助かる。ありがとうな。じゃあ、早速小娘に聞いてきてくれるか?好きな色とか、食べ物とか」

「わかりました。じゃあ、行ってきます!」

「ああ。気をつけてな」

千広は早速ゆりに話しかけた。

「ゆりさん!閻魔さんのところに、連れてってください!」

「いいよ」

ゆりは人差し指を地面に向けて目を閉じる。

すると、何かの文様が地面に現れ、二人の体はだんだん薄くなりながら地面に沈んでいった。


「地獄への道って、どうすれば開くんですか?」

「えっとね、地獄に行きたいって念じて、人差し指を地面に向けて霊力を注ぐ。かなり練習しないとできないんだ。葉月辺りなら、できるかもね。千広は…ちょっと難しいかも」

「そうですか…」

「でもね、その方法を使わなくても、念じるだけで地獄に行ける場所があるんだ。今度、案内するよ」

「ありがとうございます」

二人が話していると、だんだん明るくなっていって、地獄へとたどり着いた。

「そういえば、先代閻魔さんも人の形なんですね」

「うん。閻魔はたいてい人の形の中から選ばれるんだ。幽霊の形でもいいんだけど。それで、閻魔となる幽霊が宿るその閻魔の生前に限りなく近い体を先代が用意して、それに幽霊が宿るの」

「へー」

なら、今の閻魔の姿も生前のものなのだろう。身長は違うだろうけど。

「あ、いるよ!」

千広の声を聞き、千広はハッとして前を向く。

そこには、裁判をしている閻魔がいた。

「ん~、あなたの罪は、特になし。え~、あなたの罪は、お菓子を食いすぎで虫歯になり、歯をほぼ全部失ったこととかいろいろ。あ~、あなたの罪は…むに~」

「閻魔さーん!」

「ほぎきぃっ!寝てまへんよ!」

閻魔は慌てて後ろを振り向く。

「ああ、誰かと思えば千広とゆり!また遊びに来たんですか?」

「あ、うん」

「そっかあ。じゃあ、私も休憩しよっかな~。鬼子ー!」

「はいはーい、なに?」

静かに現れた鬼は、閻魔を見て面倒くさそうに言う。

「私は今から友達と遊んでくるので、裁判をやっててください!」

「え、友達と遊ぶ!?あんた友達いたの!?」

「い、いるもん!いないと思ってたんですか!?」

「当然っしょ。地獄から出ないんだから。」

「でもでも、いるものはいるんです!ね、千広」

「うん。私、閻魔さんの友達です」

「でしょ!」

鬼子はようやく納得したようにうなずき、

「で、友達と何するわけ?夜遊び、火遊び、食べ歩き?」

「いやいや、私、そんな悪い子じゃありませんって。それとも、火遊びしそうだって思ってたんですか?」

「だって、ここで遊ぶと言ったら火遊びくらいしかないじゃん」

「いえ、他の遊びをちゃんと探しますから!もう、ちゃんと裁判してるんですよ。さ、行きましょう、二人とも」

「はーい」

三人が去っていくのを見て、鬼子は言われた通り裁判を始めた。

「…」

とある疑惑を抱きながら。

「…あいつら、遊びに来たわけじゃないね」

額から伸びる角に手を当てながら、鬼子は遠ざかっていく三人の足音を聞いていた。

「地獄なんかどうしたっていい。幽霊でも鬼でも蹴散らせばいい。でも、空子には何もすんなよ」

そう言って鬼子は角から手を放す。

その手から、赤い光が散っていた。


鬼子のもとから離れた三人は、何かをして遊ぶことになった。

「何しますか?ブランコ?おままごと?小学生って、そういうのが好きなんですよね」

「いや…まあ、どれでもいいけど…」

千広は困惑しつつも、判断は閻魔に任せることにした。

「じゃーあ、おままごとをしましょう!えーっと、私がお母さんで、千広が子供です。そしてゆりは…あれ?」

閻魔の目線の先に、ゆりはいなかった。

多分、友人二人にさせようとしてくれたのだろう。

「はい、よーい、スタート!千広ー、ご飯よー」

「は、はーい、今行くねー」

こうして、おままごとが始まった。

「はい、今日のご飯は唐揚げとご飯と、サラダよ!」

そう言って閻魔は石を拾ってきてそれを並べる。

「あ、お母さんはトマト嫌いだから、千広にあげるね」

「うん、わかった。あー、それで、お母さん」

千広はおままごとをしながら好きなものをさぐっていくことにした。

「お母さんの好きな食べ物って何?」

「お母さんはねえ、唐揚げが好きだなあ。千広は何が好きなの?」

「えっと、お魚、かな?」

「そっかあ。今度、作ってあげるね」

「ありがとう。それで、好きな動物は?」

このように、聞き込みはどんどん進んでいった。その結果…

好きな動物、ハムスターが好き!

好きな花、ヒマワリだよ。

好きな乗り物、電車!

仲良しな人、鬼子と鬼太と千広かな。

好きな男の人、さっきも言ったけど、鬼太だよ。

好きな楽器、あと一年長く生きていれば使えたリコーダー。

などだった。

「じゃあ最後、好きな時間は?」

「好きな時間?そうだなあ、それは…」

すると、閻魔がふらふらとし始めた。

「え、大丈夫!?」

「ん~、だいじょぶ…。それで、好きな時間は…仲良しな人と、一緒な時…」

そう言うと、閻魔は倒れ…

る直前に千広が肩をつかんだ。

「閻魔さん?閻魔さーん?」

どうやら、寝ているだけのようだ。

「鬼子さんのところに行けば、布団を用意してくれるかも」

そう考えて千広は閻魔を持ち上げようとする。

しかし、重くて持ち上がらない。

「うーん、どうしよう」

千広が悩んでいると、

「ありゃ、どうしたの?」

という声が聞こえ、それと同時に鬼子が現れた。

「あ、鬼子さん!閻魔さん、寝ちゃったみたいで…」

「へえ、そっか。じゃ、私が連れていくよ」

そう言って鬼子は閻魔は背負い、とことこと歩き始めた。

「何してたの?」

「お、おままごとです」

「へえ。おままごと。この子がやりそうなことだ。かわいかったでしょ?」

「はい、とっても」

「そうかい、それはよかったね」

鬼子はそう言うと何も言わなくなった。

しばらく歩いていると、裁判をしていた場所に帰ってきた。

「じゃあ、空子は家に届けてくるから、ここで待ってて…って言おうと思ったけど、転送させられるから、それでいいか」

鬼子は閻魔は地面に置き、指で宙に円を描く。

すると、閻魔は一瞬で消えた。

「よし、じゃあここでちょっと聞きたいことがあってね」

「はい、なんです」

千広が言い終わる前に、鬼子は短剣を取り出し、千広の首に近づけた。

「!?」

「動くな。侵入者」

千広は驚き、固まってしまった。

「あんた、遊びに来たんじゃないでしょ?あたし、ずっと監視してたからわかるわよ。あんた、どこか挙動不審だったからね。なんか企んでるんだろう?答えろ。答えの内容によっては、今すぐにその首を切り落とす。」

見ると、鬼子の左手から赤い光があふれだしていた。千広の周りでも、赤い光が虫のように舞っている。これがさっき言っていた、監視と関係しているのだろうか。

「わ、私は依頼を受けて、閻魔さんにちょっと聞き込みに来ただけです」

「何の聞き込み?」

「す、好きなものとか」

「何のために?」

「えと、先代閻魔に、閻魔に何かプレゼントをしたいから好きなものをさりげなく探って来いっていわれたんです」

「そう…は?先代閻魔?ほんとに?」

「はい」

一瞬、空気が静まり返り、

「…誤解してたわ」

という鬼子の声が響いた。


「いやー、ごめん。本当にごめん。許して」

「はい。まあ、ちょっとびっくりしただけですから、許しますよ」

「センキュ!」

どうやら、鬼子は誤解していただけのようである。

「じゃ、これからも空子と仲良くしてやってね」

「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」

千広は頭を下げた。

「あ、帰り方わかる?人差し指を空に向けて霊力を注ぎ、戻りたいって念じるんだけど」

「わかってますが、霊力が…」

「じゃ、あたしが何とかするよ」

鬼子は空に文様を描いた。

「さ、念じな!」

「はい!」

それに従うと、千広の体は薄くなりながら浮いて行った。

「じゃあな!」

「さよなら」

千広は地上へと帰って行った。

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