表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/30

11優しい人

「ダメ!」

何も考えず、千広はとっさに飛び出していた。

「な!?」

驚く蛍が振り下ろす剣が当たりそうになるが、千広は間一髪でそれをよけ、檻を抱える。

「お前さん…!」

亀之助の驚く声が、聞こえた気がした。

次の瞬間、地面は炎によって焼かれていった。


「千広!」

巫女二人が叫ぶ。

「あ、あいつ…」

「へなっちょろさんが…」

花々たちも驚いているようだ。

砂埃が辺りに舞っている。火の粉も、空気をわずかに温めた。

煙がだんだんと薄れていく。

そこにいたのは…

「千広、無事なの!」

ゆりが慌てて駆け寄ろうとする。

千広は、檻を抱えながら上半身を起こそうとしているところだった。

「な、なにをしているのですか!早く離れて!」

「いや…私は、離れません」

蛍の言葉に従わず、千広は檻をしっかり抱えなおした。

「蛍さん…あなたは、私に勝ったらカメたちを解放する、って言っていましたよね?なのに、勝負なんかついていないじゃないですか!」

「でも、あのまま続けたって、勝敗はつかなかったはずです!」

「つくかつかないかなんて、私たちにはわかりませんよ!あなたが…あなたが、勝手に終わらせようとしたから!」

「わ、私は…」

蛍は何も言えなくなってしまった。

「あの時、ああしたたら、ああだったかもしれないとか、あの時こうすれば、こうだったかもしれないとか…。そうやって後悔する人、いますよね?でも、終わってしまったことは、もうわかるわけないんですよ!今のもそれと同じようなものです。経験していないのに、未来のことなんてわかりません!なのに、あなたは勝手に判断して、勝手に未来をわからなくした。現実は…ゲームとは違うんです!やり直せなくなってしまうんです!」

みんな、黙っていた。

みんな、何も言えなかった。

「…私、なんてことをしてしまったのでしょう…」

蛍はその場にへたり込んでしまった。

「ごめんなさい…。妖怪が危険だからって、勝手な判断をしてしまって…」

「じゃ、じゃあ、亀之助君は!」

「いえ…それとこれとは、話が別です。今度はちゃんと勝負を終わらせて、あなたたちが勝てたらカメたちを返しましょう」

蛍は千広たちをしっかりと見据える。

「ただし、このままやっても、勝敗がつくのには時間がかかってしまうはずなのは確かです。なので、この檻からカメたちを解放出来たらあなたたちの勝ちとしましょう」

「…はい。さっきの条件より、よっぽどいい。みんなも、いいよね」

ゆりがうなずき、後ろを振り返る。

葉月たちも、みんな賛成だった。

「では、もう一度、勝負を始めましょう!」

再び、激戦が始まった。


「みんな、私実は気づいてたんだけどね!」

葉月がお札を投げながら言う。

「あの檻、強力な力で封印されてる。だから、ちょっと解きに行ってくるね!」

「オーケー!気を付けて!」

結衣たちに見送られ、葉月は檻のもとへ向かった。

「もう気づいていたのですね、流石です、巫女」

蛍は感心して微笑む。

「じゃあ、葉月ちゃんの分まで、私が攻撃してあげるからね!」

微笑む蛍のもとへ、炎が迫って来る。

蛍はその炎を、結界を張ることによって防いだ。

「ところで、そこの巫女さん」

再び、蛍は葉月に話しかける。

「あなた、日水神社の巫女ですよね?」

「え…」

そんなこと、今まで教えていないはずだ。

驚いた葉月は、一瞬封印を解く結界を破りそうになる。

しかし、間一髪のところで結界を張りなおした。

「ああ、やっぱりそうなんですね。どうりで、素晴らしい力を持っているはずです」

「蛍さん、あなた何言っちゃってんの!そんなことして葉月ちゃんの隙を狙ってるってわけ!?」

「きっとあの子の力を受け継いだのでしょうね」

蛍は、結衣の言葉を聞かずにしゃべり続けている。

「光春さんを、知っていますよね。あなたの父親でしょう?」

「なっ…なんで!?」

葉月は驚き、今度こそ結界を壊してしまう。

「これも、正解ですね。やっぱり、あの子の娘さんだ。私の考えは間違っていませんでした!」

「さ、さっきから何言っちゃってんのさ!」

結衣が言うと、

「…あ、すみません。本当に、無駄話をしてしまいましたね」

蛍は謝罪し、攻撃を再開した。

「まさか、さっきのは惑わそうとしてたんじゃなかったの…?」

なら、蛍は昔葉月の父親と関わったことがある、ということになるが…。

「考えてる暇が、ないっ!」

このことは、戦いが終わったら問い詰めることにしよう。

そう決めて、結衣はお札を手に持った。


もやもやする。本当にもやもやする。

氷の塊を敵にぶつけながら、花々はずっと考えていた。

さっき、千広はカメと、そして指輪を守ってくれた。

ただの人間風情が、自分のものを守ってくれたのだ。

それが、もやもやの原因だ。

嫌ではないが、なんだか嫌な気持ちになってくるような気がする。

人間は、幽霊と比べてあまりにも不自由すぎる。

だから、花々を含め、幽霊たちには人間を見下す癖があった。

葉月のような強い人間はともかく、千広はとても弱い。

そんな弱いへなちょこが、嫌いだったあいつが、指輪を守ってくれた。その事実にすこしむかむかするのである。

こんなの、初めてのことだ。

考えていると、花々はもっともやもやしてきた。

戦いが終われば、いつもの自分に戻るかな…?

きっとそうだと信じて、花々は再び霊力をかためて氷の粒を作り出した。


葉月は再び結界を張り直し、封印を解くのに集中していた。

しかし、そんな葉月を蛍は容赦なく攻撃してくる。

今は結衣が防いでくれているが、もう限界だ。

「はあっ!」

蛍は葉月を吹き飛ばすための風を吹かせた。

だめだ、当たる。

そう思った時。

「葉月!」

結衣が前に躍り出た。

「ぐあっ」

結衣は、風に吹き飛ばされ、葉月にぶつかりそうになる。

「結衣!大丈夫?」

「いたた…平気、平気だよ」

葉月は、片手で結衣の上半身を起こす。

「本当に?」

「だいじょぶだって。ちょっと休んでればすぐ治るし」

「そっか。じゃあ、休んでてね」

結衣の返事を聞き、葉月は再び結界を強く張った。

ゆりがすかさず、蛍に雷の攻撃を当てた。

防がれてしまったものの、葉月が封印を解くまでの時間稼ぎならできるだろう。


さっきは勢い良く言い切ったが、相変わらず千広は役に立てない。

結界なんてうまく張れないし、攻撃なんて無理に決まっている。

ただ戦いを傍観しているのは、本当に辛かった。

しかし、そんな辛い時間は、蛍のとある行動によって終わった。

蛍は、檻の封印を強化しようとしていた。

葉月が止めようとするが、間に合わない。

「うわー!」

千広は素早く駆け出し、蛍の腕を押さえた。

「に、人間!?」

千広の動きに驚いた蛍は、封印強化の技を使うのに失敗してしまう。

「今更強化なんて、させない!」

「…あなたはなぜ、必死になっているのですか?」

蛍がふと尋ねる。

「幽霊や、幽霊と関わりの深い神社の巫女はともかく、あなたはただの人間です。なのに、なぜ…」

「…カメと指輪を、助けたいと思うから。詩々さんと、花々さんの大事な存在を、あるべき場所へ戻してあげたいから。だってあの二人は、ずっと何かを大事に思い続けられる、優しい人だから!」

千広が、叫んだ。

「優しい…人…」

幽霊二人がつぶやいた次の瞬間。

封印とともに、檻がパリンとはじける音が、その場の全員に聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ