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10里での戦い

「相変わらずきれいだなあ」

結衣は辺りを見回して楽しんでいる。

「遊びに来たんじゃないんだからね」

そう言いながらも、葉月の目はキラキラと輝いている。

それは千広も同じだった。

青白く炎が燃えているような錯覚。

神秘的な木々。

ゆらゆらと揺れる花。

辺りを照らす夢のような光。

全てが新鮮で、全てが美しい。

「幽霊の里って、こんなにきれいな場所なんですね!」

「こんなきれいなところがあったなんてねえ」

幽霊二人も美しい景色に見とれている。

「さあ、蛍さんのところに行こう。情報がないか聞かないとね」

景色を楽しむ一行に、ゆりが声をかける。

そして、六人は歩き出した。

「ゆりさん、蛍さんって誰ですか?」

「ああ、ここのリーダーのことだよ」

誰のことかはわからないが、多分美音のような存在なのだろう。

しばらく歩いていると、千広はたくさんの人々が遊んでいるのを見つけた。

「あれは、永幽霊だよ。ここにいる幽霊」

結衣が、千広の疑問に気づいて答えた。

千広が永幽霊を見ていると、

「どうしたのですか?」

という誰かの声が聞こえた。

「あなた方は…ゆりさんたちですね」

「蛍さん!お久しぶりです」

ゆりが頭を下げる。

「そちらの人間は誰ですか?」

「あ、私は、佐々木千広です」

蛍に名前を尋ねられ、千広は慌てて頭を下げる。

「そんなに緊張しなくていいんですよ。私はこの里のリーダー、月光水蛍です。ここに来たということは、何か用事があるのですよね?」

「はい、そうなんです。その、僕のペットのカメ、知りませんか?」

詩々が言うと、

「ああ、それなら心当たりがあります。あなたのペットだったんですね」

蛍はあっさりと答える。

「本当ですか!?どこにいるんです?」

「こちらです。会いますか?」

「はい!」

詩々が元気よく答えたのを聞くと、蛍はゆっくり歩きだした。

しかし、途中で後ろを振り返り、

「本当に会うんですね?」

と六人に尋ねた。

「会いますよ。ペットですから」

「そう…」

そして、蛍はまた歩き出した。

千広は、何か変だとは思ったが、気にしないでついて行った。


「さあ、こちらです」

「やった!ありがと…ぅ?」

カメとの再会に喜んだ詩々は、次の瞬間絶句する。

「こ、これ…なんで!?」

「なんでもなにも、こいつが危険だからですよ」

詩々の視線の先を見て、千広たちも驚愕した。

なぜなら、カメは檻の中に閉じ込められていたからである。

「危険って、亀之助君は普通のカメですよ!」

「そうですね。確かに少し前までは、普通のカメだったのでしょう。しかし今は、普通のカメではない」

そう言って蛍は説明を始める。

「妖怪の存在を、知っていますか?普通の人には見えない存在です。主に都市伝説や古代の伝説などから生まれるのですが、動物や物に人間の強い思いが宿って生まれることもあるのです。このカメは、あなたからとても大切に育てられてきたんですよね。だから、妖怪化してしまいました」

「そんなの、ひどいですよ!」

「ええ、私もそう思います。あなたとこのカメを引き離すのは、辛く、悲しいこと。しかし、幽霊や人間の安全を考えると、こうするしかなかったのです。思いから生まれた妖怪は、他のものとは違い、あまりにも危険すぎる」

「だからって、亀之助君を!」

二人が言い合っていると、

「詩々、詩々~!」

という、しわがれた声が聞こえた。

「ど、どこ!?」

「わしじゃ!わし!助けてくれ!」

その声は、檻の中から聞こえていた。

「まさか、亀之助君!?」

「そうじゃ、そうじゃよ!早く助けてくれ!」

詩々が檻に駆け寄ろうとすると、

「ああ、それ以上は危険なので、近づいてはなりません」

蛍が青白い結界を張って、それを防いだ。

「生まれたての妖怪は、力がうまく使いこなせないのです。たとえあなたに襲い掛からなくても、他の人はどうなるかわからない」

「そんな…」

詩々はその場にしゃがみこんだ。

「あ、あとそのカメと一緒にとあるものを見つけたのですが、この指輪は誰のものなのでしょう?」

蛍は檻の反対側を詩々たちの方に向ける。

「こ、これは、あたしの指輪!」

「そうなのですか。この指輪も妖怪化していたので、回収しておきました」

「ゆ、指輪も!?」

花々は驚いて何も言えなくなってしまった。

「まあ、どうしても解放したいのなら、私より強いということを証明してください」

蛍は冗談交じりで言う。

「…いいですよ。戦いますよ」

「え?」

詩々は蛍を正面に見据えて、言い切った。

「ただし、ここにいるみんな全員で協力していいですよね?」

「…まさか本気で戦おうなどと?本当に戦うのなら、協力しても構いません」

「よし!ならあたしらでやってやる!」

「待って!」

張り切る花々を止めたのは、ゆりだった。

「蛍さんがどれだけ強いのか、二人にはわかんないだろうけど、とにかくとんでもなく強いんだ!やれっこない!霊助さんの…ここにいる永幽霊の、何倍も強いんだよ!」

「それでもやるしかないから!」

詩々は前に出る。

「…いいでしょう。手加減はしますので、ご安心を」

蛍も足を前に踏み出す。

「ええーい、結衣!私たちもやるよ!」

「合点承知!葉月が望むことは、私が望むことだ!」

巫女二人もやる気だ。

「…負けても、知らないよ」

ゆりも仕方なく承知する。

「あ、わ、私はどうすれば…」

「うるさい、足手まとい!」

「どっかで遊んでればどうなんですか!」

千広が迷っていると、花々と詩々がにらみながら叫んだ。

そんなことは知らず、その場の空気は戦闘を歓迎して、だんだん張り詰めたものに変わっていく。

「では…かかってきなさい!」

蛍の声が合図となり、幽霊と巫女は一斉に動き出した。

ゆりは、大きな土の塊を生み出したり、大量の水を一気にかけたりと、『幽霊に不可能はない』ということを体現するような戦い方をしている。

詩々と花々は目くらましなどの小細工を仕掛け、ゆりのサポートをしている。

巫女の二人はお札を使って、ゆりと同じように魔法のような攻撃を行っている。

一方、蛍は辺りを飛び回っている光を集め、それを一気に放出している。ただの目くらましに見えなくもないが、多分当たったら危険だと思われる。

そんな激戦の後ろで、千広は何もできずに傍観していた。

あそこに飛び込んだらけがどころでは済まないと、千広にもわかっていたのだ。

千広は手を合わせ、それをゆっくり横に広げていく。結界を張ろうとしているのだ。

結界を張れば、攻撃を防いだり、逆に攻撃したりできる。

それ以外にも、別の場所に移動したり、異次元からものを生み出したり、封印を解いたりできる。便利なものだ。

だから、扱うのは非常に難しい。

そんなことを考えていると、あっという間に結界は壊れてしまった。

それをあたかも簡単に使って、自分にもやることを要求してくる葉月には困った。

そんな彼女を思い出して、千広はため息をついた。

なんで自分は、こんなにも弱いのだろう、と。


「大丈夫ですか?」

蛍は葉月たちを心配して声をかける。

本当なら、葉月はできる限り蛍とは戦いたくなかった。

なぜなら、一年前に戦った霊助があまりにも強すぎたからである。

去年、幽霊がいなくなるいざこざがあったのだ。犯人はその霊助だった。

あの時は味方をしてくれる永幽霊がいたのと、霊助がかなり手加減して戦っていたので、なんとか勝つことができた。

しかし、今回はどうだろう。

いくら攻撃しても相手には傷一つつかないのである。

その蛍が放つ攻撃は、時々千広にもあたりそうになる。

葉月はそんな千広を必死にかばいながら戦っている。

それは思ったより大変で、千広を守ってもその後自分に攻撃が飛んでくる。

そんな葉月を守ってくれるのは…

「葉月には指先どころか、爪先も触れさせないよ!」

同僚の結衣である。

ゆりや閻魔は葉月と結衣のことを、姉妹だの仲良しだのいってからかってくるが、葉月と結衣は別に姉妹なんかじゃない。ただの同僚だ。

ただ、葉月にとって結衣が本当の姉のように頼れる存在で、結衣にとって葉月が本当の妹のようにかわいい存在であるだけの同僚なのだ。

葉月は結衣を信じている。

命くらいなら、簡単に預けられる程度に。

だから、葉月は結衣に自分に命を預かってもらい、千広の命を勝手に預かる。

それだけが、葉月のやるべきことなのだ。


「葉月には指先どころか、爪先も触れさせないよ!」

そう言って結衣は霊力を具現化する。

誰にでも見えるようになった青白い霊力の玉は、結衣の掌で盾や剣などに変化する。

背後のかわいい妹は、さらに後ろにいる千広をかばうのに必死だ。

だから結衣は、けなげに頑張る葉月をかばう。

葉月に爪先なんかが触れて、傷がついてしまったらどう責任を取るつもりなのだろう。

ちなみに、相手が蛍じゃなかったら、結衣は「半径一メートル以内にも入らせないよ!」と言っていたところだ。

結衣にとって葉月は、本当にかわいい妹である。

葉月だったらツンツンした感じで、「結衣は姉っぽいだけのただの同僚」と言っていただろうけど、結衣は素直なので、思っていることをちゃんと言う。

葉月は結衣の妹で、結衣は葉月の姉。それが当たり前だ。

後ろの葉月が頑張っているのを感じながら、結衣もしっかり役目を果たしていた。

蛍はなかなかに手ごわい。

だが、結衣たちの攻撃は少しずつ通るようになっている。

もしかしたら、いけるかもしれない。

そう思ったとき。

「これ以上は、決着がつきませんから」

静かに声が響いた。

蛍が檻の近くに立っている。

「ごめんなさい」

そして蛍は目を閉じ、空中から炎の剣を取り出す。

「まっ…て!」

何をするのか察しがついたゆりは急いで止めようとする。しかし、遅い。

炎は、檻にゆっくりと振り下ろされて…

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