9天国と巫女たち
千広たちは、再び日水神社に戻ってきた。
「あ、おかえり~。どうだった?」
結衣がさっそく話を聞きに来る。
「亀之助君はいなかったみたいだよ。だから、今から天国と里に行くつもり」
「ひゃー、里かあ。懐かしいねえ。霊助さんは、もう戻ってるんだっけ?」
「そうみたいだよ」
ゆりと結衣が言っている里は、幽霊の里というところらしい。
聞いた話では、そこはとてもきれいで神秘的だとか。
「そうか~、霊助さんも更生したかあ」
「うんうん。じゃあ、私たちはもう行くね。また今度」
「…行ってらっしゃい」
「なんでそんなに声が暗いの?」
ゆりが結衣の顔を覗き込み、暗くなった原因を探ろうとする。
「ゆりさんってば、わかってないなあ。結衣は一緒に行きたいって目で訴えてるんですよ」
「あらら、そうなの?じゃあ結衣、一緒に行く?」
「うん!ついていく!」
「わー、満面の笑みだこりゃ」
こうして、結衣もついてくることが決まった。
「どうせなら、葉月ちゃんもくれば?」
「えー、別にそういうの興味ないし…幽霊の里もきれいだったけど、別にそこまでじゃなかったし。天国もものすごくきれいなんだろうけど、興味ないよ」
「ものすごく興味があるんだね、了解。一緒においで
結衣のついでに葉月も来ることが決まった。
「オーカミさんたちは来る?」
「そうだにゃ~、葉月ちゃんの身に何が起こっても別に心配じゃないけど、ついていこうかにゃあ」
「俺は主に付き従い、守らなければならないと思う。しかし、神社が無人になると、空き巣か何かが来るかもしれない。だから、俺はそれを見張らなくてはならない。だが、主に付き従い、守ることも重要だ。しかし、空き巣の心配も…」
「あー!オーカミさんが考えすぎでシャットダウンしちゃった!」
ネッコは慌ててオーカミを引きずっていく。
「じゃあ、あたいたちは残るよ。別に葉月ちゃんのことは心配じゃないけど、気を付けた方がいいんじゃないの?まあ、葉月ちゃんがどうなろうとあたいには関係ないけど、一応ね」
「葉月ちゃん、なんで君のペット、こんなに個性的なの?」
「知らない…」
葉月はため息をついた。
「じゃあ、まずは天国から行こうか」
「はーい」
一行はゆりの言葉に従い、宙へ浮かんでいく。
「まっ、ちょ、私飛べないんですけど!」
「はんっ。空も飛べないのかい。未熟者だね」
「これを持ってれば、多分飛べるよ」
葉月が上からお札を投げる。
すると、千広の体は宙に浮かび上がっていた。
「あ、ありがとうございます!」
一行は空をゆっくりと飛んで行った。
「ところで葉月さん、どうしてオオカミと猫の霊を従えてるんですか?」
「ああ、数か月前に二人が神社に来て、オーカミさんを助けて!って言ってたんだよね。その時、オーカミさんは意識が飛んでて。さっきのもそうなんだけど、オーカミさんは記憶喪失みたいで、機械的になってるの。だから、時々考えすぎでぶっ倒れちゃうんだ。まあそれで、オーカミさんを治療して、二人には感謝されたよ。それで、私たち、葉月ちゃんの部下になります!ってネッコちゃんが言ったんだ。だから部下にしたの。パートナーの証として、霊力で構成した首輪をつけてるの、わかった?」
「いや、首輪なんてついてましたっけ?」
「あー、わかんないか」
葉月は、しょうがないや、と言ってため息をついた。
ゆりが薄く見えているのと同じ理由かな、と千広は思った。
一応修行を受けているが、千広には上級の霊などは薄く見える。
まともに霊気に当てられたらふらふらだ。
霊力も扱えないし、神力も借りられない。
もっと修行が必要なのだろう。
そう考えていると、門が見えてきた。
「何奴!?」
「私は、安楽町のリーダーです。美音様にお会いしたいと思ってきたのですが…」
「なるほど、では、どうぞ」
門番は頭を下げてドアを開いた。
「にしてもゆりさん、あの門番さん、いつから門番してるのかなあ?」
「えっと、門番の勝五郎さんはねえ、百年位前からって聞いたよ」
「意外と短いんですね」
詩々とゆりの会話に、千広は驚く。
「百年って、長くないですか!?」
「馬鹿なのかい?ま、人間と幽霊の感覚は違うから、しょうがないけどねえ」
確かに、幽霊にとって百年は短いものなのかもしれない。
千広はうんうん考えながら門をくぐった。
しばらく歩いていくと、雲の上に座る美音を見つけた。
「あら、何の御用でしょう?あ、そのお嬢さんは、あの時のお嬢さんじゃないですか」
美音は驚いて立ち上がる。
「美音様、最近、カメはここに来ておりませんか?」
「カメ?カメは来ていませんねえ」
ゆりの質問に、美音は首を横に振る。
「そっかあ。じゃあ、幽霊の里に行くしかないんですね」
カメが見つからないことに、詩々はかなり落ち込んでいる。
「じゃあまず、地上に戻りましょう」
葉月の発言に、五人はうなずく。
「では、気を付けてくださいね」
美音に見送られて、六人は天国を去って行った。
「じゃあ早速、幽霊の里に行くか!」
結衣はノリノリでお札を取り出そうとする。が、
「待って、結衣。閻魔様にもらったものがあるから、それで行こう」
ゆりが石を取り出したのを見て、結衣はお札を引っ込めた。
「あの、幽霊の里って、どうやって行くんですか?」
「えっとねえ。まず、みんなで丸くなるの。そしたら、円の真ん中にお札でもなんでもいいから、神とか幽霊に関係するものを置くわ。そしたら、幽霊の里に行きたいと念じるのよ」
「ゆりさん、それ絶対、あの人のやつを丸パクリしてますよね?」
「アハハ。」
口調まで変わっているから、誰かを丸パクリしていることは千広にも分かった。
それはともかく、六人は丸くなり、里に行きたいと念じた。
すると、辺りが光に包まれた後、ゆっくり暗くなっていった。
石が消えたように見えたのは、気のせいだろうか…。
だんだん明るくなってきて、千広は一瞬蛍のような何かを見たような気がした。
それは辺り一面に散らばっていて、電球のように辺りを照らしていた。
一行は、幽霊の里にたどり着いたのだ。