ドラゴン・オーブの見つけ方〈中〉
〇
パロットさんとフォックスが、移送の準備を整えて浜辺にやって来た。
そのとき、僕は女の子に叱られていた。
「生命博物館から来ているだとか、調査をしているとか、そう申せばよいのに何故あのようなものを私に見せた!? あ、あのような、ワラワラと、みっしりと……」
「あれらはドラゴンに寄生している生物ですから生息域の環境を推察する手がかりになり得ると思いましてその説明をすればいいのかなとちなみにあれは恐らく固着生物なので——」
「きゅ、急に早口になるな!」
「ドープ、何やってんだ?」
「あっ、やっと来た」
「リンリンガル君と、魔法管理委員会の方?」
女の子に怒られている僕を見て、パロットさんとフォックスの頭に「?」が浮かぶ。魔法管理委員会のおじさんたちは、話が通じそうな人の登場に胸を撫で下ろしていた。
失礼な。
いや、僕が悪いんだけど。
管理委員会の方との話し合いは、パロットさんが引き継いでくれた。
僕はフォックスと移送の準備に取り掛かる。
区長さんが漁師の方にドラゴンの解体場所を融通してもらったとのことだ。
そこまでの移動を明日中に行うつもりらしい。フォックスが「学生は二十人くらい手を貸してくれる」と言いながら、管理委員会の集団の方を振り返る。
「んで、何やらかしたんだ?」
フォックスがそう尋ねるので、僕は寄生虫を見せたくだりを伝えた。
フォックスは爆笑した。
腹を抱えてマジで愉快そうだ。
悪い奴だ。
「ドープにしちゃあ、ハハハッ、ナイスな仕事じゃねぇか。これであの管理委員会の嬢ちゃんは、解体現場に来なくなるかも知れねぇな」
「それっていいことなの?」
「当たり前だ。奴らは魔法のスペシャリストを気取る癖に、自分たちで小脳を切り開く度胸もない腰抜け連中だ。だが、口だけは出してきやがる。魔法生物に敬意を払えだとか」
「鳥類の現場じゃよくある話?」
「最近は少しな。お前の分野だと縁のない連中か」
フォックスと僕はそんなことを言い合いながら、移送のルートを決めるために、作業場まで歩いた。
区長さんが漁師さんから提供してもらった場所は、本来は造船のときに使う作業場?(何か呼び方があるのかな?)だった。
漂着個体からは三百メートルくらい離れている。
あの巨大を運ぶのは骨が折れそうだ。
下手すると物理的に。
「そういえば、移送の算段ってついたの?」
「丸太を敷いてその上を転がしてく。丸太は区長さんに頼んだ」
「丸太を準備するだけで一大事じゃない?」
「一大事だよ。一事が万事、ドラゴンに関わる全部」
フォックスはドラゴンの死体を振り返り、しみじみと呟いた。
「じっくり解体してやりたかったよな……」
研究者としてのフォックスの本音らしかった。
町の事情や、国の事情に追われることなく解体できたなら、それが一番良かった。仲が良くなくても、その感覚は共有できる。
「ホントにね」
僕が頷くと、フォックスは「ふん」と鼻を鳴らした。その後すぐ、僕とフォックスで明日の運送の段取りと、学生を使った解体作業の流れを確認し合った。
〇
翌日、僕たちはさっそく作業に取り掛かった。
学生さんは二十名ピッタシだ。
魔法委員会のお嬢さんと同年代くらいだった。
移動のための指示出しは、フォックスが受け持ってくれた。
「ドラゴンを移動させます。事故がないようにこちらの合図で動かしてください」
フォックスの指示に従い、学生さんたちが緊張した様子でそろそろ動く。フォックスが指示役を受け持つのは、移動の間だけだ。
実際に解体が始まったら、学生への指示は僕が担当する。
フォックスとパロットさんの二人で、ドラゴン・オーブ探しを行う必要があるからだ。ドラゴン・オーブに「もしものこと」があると不味い。
だから、学生の手は使えない。
研究所の人員だけで頭蓋を開き、脳を調べる必要があった。そして、オーブ探しは鳥類を専門とする二人に任せるべきだ。
そのためにも、僕が解体の指揮を執らないと。
指示出しの手本にしようと、僕はフォックスの動きを観察していた。
「あの子、結局来てるな」
ドープが学生に指示を出す傍ら、僕に囁いた。
魔法管理委員会の一行が、遠巻きにこちらの作業を見ている。
「手伝ってくれないんだ」
「連中が手伝うもんか」
僕の呟きに、ドープは肩を竦めて応じた。魔法管理委員会は第三眼球を管理するだけで、解体はこちらに任せきりのようだ。まぁ、専門分野が違うのでそういうものか。
初日の作業は、本当に移動だけに費やした。
移動だけでみんな疲労困憊だ。
けれど、嬉しいことに二日目からは人が増えた。町の方たちが、邪魔なドラゴンを退かしてくれたお礼として、手伝ってくれることになったのだ。
これで現地スタッフの数は三十人になった。
パロットさんも喜んでいたけれど、同時に心配そうな顔でこちらに尋ねた。
「リンリンガル君、数が多いけど、任せられる?」
「一応、やり方は考えたので、たぶん?」
微妙に頼りないことしか言えなかったけど、本当に考えてはいた。
僕は現地スタッフ三十名を、三つの班に分割する。
骨格班、竜鱗班、内臓班だ。
「えっと、まずは骨格班の方から、ご説明します」
今回、骨格班の目的。
それは全身骨格標本を作製することだ。
まずは解体したドラゴンの部位ごとに番号を振っていく。後で組み立てられるようにするためだ。
番号を振る法則性だけ学生さんに伝える。脂肪や筋肉から骨を剥がしたら、高温の水で煮沸して、細かい汚れなどは人海戦術で洗浄する予定だ。洗浄の方は、町の方に協力を扇ごうかな。
そんなことをボソボソ伝えた。
学生さんは結構真剣に聞いてくれている。
ありがたい。
「次に竜鱗班の方ですが……」
これも細かく部位ごとに区分けして保存する。
寄生虫も種類ごとにタクワエガラスの保存液に浸けてもらった。竜鱗は腐敗の恐れも少ないので、ここの人数は少なめでいい。
「最後に内蔵班の方たち。僕が張り付きます」
こればっかりは、僕が見ながら判断しないと不味い。何のための器官なのか、わかるものばかりとは限らない。何せ生態の大半が謎なままのドラゴンが相手だし。
「ええっと、他の班の方も、わからないこと、何か一つでも指示にないことがあれば、逐一聞いてください。この個体から出てきたもので、不要なものは一つもないので。各自の判断で捨てたりとか、厳禁です。どんな些細なものでも、聞いてください」
酸欠になるかと思うほど喋った。
何かもう、半年分くらい喋った気がした。
けれど、本当に忙しいのはここからだった。
「リンリンガル先生。これって何ですか?」
「リンリンガルさん。これであってますか?」
「わっ、何か動いた!?」
「あっ、何かが逃げたぞ! 追っかけろ!」
「あっ、これもしかして生殖器か?」
「えっ、ドラゴンのチンコ!?」
「ぎゃー、何かキモイの来た!」
「追え! 追っかけろ!」
「リンリンガル先生! 何かキモイのがいる!」
「リンリンガルさんこれってチンチン!?」
「リンリンガルさん、胃袋に何か入ってます!」
「ぎゃああああ、チンチンガルさん!!」
「チンチンガルって誰だッ!?」
「混ざってる、混ざってる!」
「とりあえず、一個ずつ対応します!」
あっちでもこっちでも名前を呼ばれて、僕は現場を駆けずり回った。
無駄に元気な寄生虫(何かひも状の蛇みたいなやつ。結構デカい)を追いかけ回したり。
ドラゴンの血で転んでメチャクチャ臭くなったり。
ドラゴンのチンチンを見に来た漁師の人たちの相手をしたり。いや、漁師の人たちが異常に食いついて来たんだわ、ドラゴンのチンチン。何か有り難がってたし。子宝祈願みたいな。
すっちゃかで、めっちゃかだ。
お祭り騒ぎな現場だった。
喋りが苦手とか言ってる場合じゃ全然なかった。
そのせいか、僕も結構「ぎゃあぎゃあ」叫びまくっていたし、何ならちょっと苦手意識が薄れたまである。興奮状態の勢いでかなり喋った。
とりあえず、朝からぶっ通しで作業して、途中で町の人たちの差し入れを食べてから、さらに日没まで作業した。楽しかった。
作業の進み具合も良かったし、たった一日で学生さんたちとは仲良くなれた。
「リンリンガルさんも、水浴び行きましょうよ」
「血塗れでちょっと腐敗臭してますよ?」
「リンリンガル先生、教えて欲しいことが……」
「リンリンガル先生、また明日!」
みたいな感じで、学生さんたちと水浴びしたり、臨時の授業をしたり。僕の二日目はこんな感じに過ぎていった。パロットさんやフォックスは、ドラゴンの頭部を持って少し離れた場所で作業をしていたから、明日にでも進捗を共有しないと。
二日目の作業を終えて、僕は区長さんが準備してくれた宿に向かった。その道すがら、白いローブの人影が僕を呼び止めた。
「ドープ・リンリンガル。ドラゴン・オーブの調査は順調か?」
ランタンを提げた少女。
寄生虫を見て卒倒した彼女だ。
名前は……何だったっけ。
というか、僕も名乗ったっけ。
僕の顔色を読んだのか、女の子は呆れて続けた。
「名前ならパロット何某から聞いた」
「はぁ、左様ですか」
「して、調査は順調なのかと聞いておる」
「解剖は順調ですね。内臓は腐敗が進んでいて厳しい部分もありますが——」
「そんなことはどうでもよい」
名乗りもしない女の子は、冷たい目で言い切る。
どうでもいい。
なるほど、どうでもいいですか。
そうですか。
名無しの女の子は、冷たい目で言った。
「ドラゴン・オーブが見つかりそうなのかと、そう聞いておるのだ」
「さて。僕はそっちの担当じゃないので」
「ふん。つまりはあれか。そのほうがやっておるのは、役にも立たない無駄な道楽か。生命博物館には、そのような道楽者を飼うだけの余裕があるのだな。羨ましい話だ」
「子供にはわからないことだよ」
「子供ではない!」
名無しの女の子は、そう言って怒った。
人に嫌味を言っておいて、自分が嫌味を言われたら怒るのか。それこそ子供だ。
そして、子供の相手をするにしては、時間も遅い。
僕は無視して宿に向かうことにした。
背後から女の子の声が聞こえる。
「貴様らの不正は、今に暴かれるぞ!」
なんてよくわからないことを言っていた。
子供の言うことだ。
僕は無視して宿に帰ってそれからよく寝た。
〇
二日目も順調に作業は進んだ。
胃に残った内容物を見る限り、このドラゴンは陸と海の両方で活動していたと思われた。アシカなどに似ている。
飛行能力の有無は微妙だ。
ドラゴン・オーブが見つかったなら、その辺は詳しく調べられるだろうか。
そう思い、パロットさんとフォックスの現場を覗いてみたが、二人は険しい表情で作業を続けていた。脳という重要な器官を触るのだから無理もない。神経を使うのだ。
「ああ、リンリンガル君」
パロットさんは疲れた顔を上げた。
続いてフォックスも同じ程度に疲れた顔を見せる。
パロットさんは、作業の手を休めて言った。
「そっちは順調?」
「ええ。学生さんたちがよくやってくれています。そちらは?」
「そうね。今夜一度、進捗を確認しましょうか」
パロットさんはそう言って苦笑いすると、作業に戻った。フォックスも一度、挨拶するように手を挙げて同じように作業に戻る。
とりあえず、情報共有は作業が終わった夜に行うことになった。
でもあの様子だと、順調ではないんだ。
三日目の作業は、日没を待たずに解散させた。
学生さんたちにも疲労が見えていたから。注意力が落ちているときに事故は起きる。だから、早めに切り上げた。
水浴びしてから、パロットさんとフォックスのいる作業場に戻った。
作業場には魔法で明かりが灯っている。
フォックスは作業場の前に椅子を引っ張り出し、潮風に当たりながら仮眠を取っていた。僕の足音に気が付いたのか、薄目を開けてこちらを見る。
「ああ、ドープか」
「学生さんが冷えた西瓜をくれたよ」
「そいつはナイスな差し入れだ。ちょうど甘いものが食いたかった」
「パロットさんは?」
「中で休んでる。西瓜食べながら話すか」
僕が先に作業場に入ると、パロットさんが作業机の下に毛布を敷いて仮眠していた。眼鏡をかけたまま寝ているので、割らないようにそっと外す。
お疲れみたいだ。
ドラゴンの頭蓋骨やら脳みそやらは、作業机と別の台に移されている。脳はすでにガラス製の瓶に詰めてあり、タクワエガラスの保存液に浸かっていた。
僕は作業机で西瓜を切り分けた。切り終わるころにちょうどフォックスが入って来て、西瓜を二つ手に取り、パロットさんを揺り起こす。目を覚ましたパロットさんが手探りで眼鏡を探している。僕は彼女の手元に眼鏡を差し出した。
「ありがとう。リンリンガル君」
「いえいえ。西瓜どうぞ」
「あら、嬉しい。甘いものが食べたかったの」
三人で作業机に座り、西瓜をムシャムシャやりながら共有会を開始した。
パロットさんが厳しい現状を伝える。
「小脳から第三眼球は発見されなかったわ」
「先行する二つの事例と同じだ。魔法を使わない熊とかと同じ感じだった」
二人も二日がかりで丹念に調べたはずだ。
第三眼球は小脳にない。これは確定情報でいい。
「考えられるケースを列挙しましょうか」
パロットさんが言い、僕たちはとりあえず思いつくケースを言ってみた。
①そもそも、ドラゴンが魔法生物ではない。
②ドラゴンは小脳以外にオーブを持っている。
③ドラゴンの第三眼球は死亡と同時に消滅する。
④すでに誰かが持ち去った後である。
四つほど上げて、それぞれの可能性を潰していく。
「まず、①は即なしだな」
フォックスが西瓜の種を吐きながら言った。
「魔法を使えないなら、こんな馬鹿でかい巨体の生き物は、そもそも自重のせいで陸地に上がれないはずだ。だが、ドープの調べた限り、陸地でも活動してた形跡があったんだろ。魔法生物でなきゃ有り得ない。これは大前提だ」
これに異論はなかった。
ドラゴンは最強の魔法生物だが、同時に魔法がなければ生存不可能だ。
フォックスの言う通り、①は考えられない。
続いて、パロットさんが言った。
「③もなしでいいんじゃないかしら。脳自体は他の生物と変わりない作りだったし」
「それなら、②もなしじゃないか。だいたい、第三眼球は小脳と直結して初めて動く。例外は人間よる第三眼球への干渉だが、これだって人間の小脳にある第三眼球が、他の生物の第三眼球の中継役をやってるからだ。小脳以外にあるはずがない」
「それじゃ、残ってるのは④だけか……」
僕は呟いた。でも、それこそ無理がある。
頭蓋骨を開いて脳を取り出したのは、パロットさんとフォックスだ。
これより以前に頭を解体して痕跡を残さず戻すなんてこと、魔法を使っても不可能だと思う。
いやでも、どうだろうか。
僕たちも全部の魔法を把握しているわけじゃない。もしも、傷口を元通りに治せるような治癒系の魔法があったら、可能かもしれない。
そして今、この街には「魔法の管理者」がいる。
僕たちより早くこの町に来て、ドラゴンに接触していた魔法管理委員会が。
「…………」
僕は最後のケースを否定できなかった。
同時に二人も黙ったままだ。
たぶん同じことを考えている。
『魔法管理委員会は、ドラゴン・オーブを独占したがっているのでは?』
ドラゴンの魔法が持つ価値は計り知れない。
兵器としても、研究素材としても、その価値はまさに規格外だ。独占して受けられる恩恵は、それこそいくらでもある。
生命博物館の調査失敗という形にして、ドラゴン・オーブを持ち出すことができたなら、それは魔法管理委員会にとって一番旨味が大きいんじゃないか。
そのことに思い至ったとき、カツンと靴底の鳴る硬質な音が響いた。
魔法管理委員会の女の子が作業場の入り口に立っている。彼女の背後には、取り巻きのおじさんたちが三名揃っていた。
「——この茶番を終わらせてやる」
魔法管理委員会の少女が、高らかに宣言した。
「ドラゴンは魔法生物で間違いない。ならば、ドラゴン・オーブは小脳に必ずある。にも拘わらず、未だに発見に至っていない。そして、痕跡を残さないほどの治癒魔法は、魔法管理委員会でも確認されていない。ならば、答えは明瞭ではないか」
名乗らない少女は、昨夜も見せた冷たい目でこちらを睥睨する。
読み物の名探偵のごとく彼女は言った。
「お前たちの誰かが、ドラゴン・オーブを盗み出したのだ!」
僕たち三人は、ぽかんとした。
でも、同時に理解した。
僕たちが魔法管理委員会を疑ったように、逆の立場なら確かに僕たちを疑うだろうことを。
なぜなら……
ドラゴン・オーブを独占して受けられる恩恵は、
それこそいくらでもあるから。
冷たい目の少女は、呆然とする僕たちを見下しながら言った。
「この三日間、我々はドラゴンの頭部に近づくものを入れ替わりで監視し続けた。頭蓋骨を開いて小脳に触ることが可能だったのは、そこの二名のみだ。欲に溺れた盗人め」
魔法管理委員会は長い間、疑ってきたのだ。
先行する二件のドラゴン漂着個体のときから。
『生命博物館には、そのような道楽者を飼うだけの余裕があるのだな』
あの子の言っていたことの意味が、ようやくわかった。ドラゴン・オーブをこっそり独占しているから、お前たちには余裕があるのだろうと。そう思われていたんだ。
『自分たちで小脳を切り開く度胸もない腰抜け』
と博物館の研究者がそう思っている中、管理委員会もこちらのことをこう思っていた。
『欲に溺れた盗人』と。
名乗らない少女は、自分こそが正義だと信じた目で続ける。
「今から二日後、貴様らを裁判所に移送する。魔法管理委員会を欺き続けた罪の重さ、その身をもって知るがいい」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
パロットさんが抗議しようと席を立った。
おじさんたちが動いた。何か念じると同時に、植物のツタのようなものが、ローブの袖から猛スピードで伸びる。それは瞬く間にパロットさんを打ち据えて縛りあげた。
「テメェら、正気かよ!?」
フォックスが怒鳴り声を上げた。
フォックスはパロットさんを助けようと立ち上がったが、魔法のスペシャリストであるおじさんたちに呆気なく縛りあげてしまった。
ちなみに、僕はぼんやり考え事をしている間に、これまたいつの間にか、一番呆気なく縛りあげられていた。
そう、僕は考えていた。
魔法管理委員会は、ドラゴン・オーブを取り出していない。
いや、その上での茶番だったら本当にどうしようもないけど、でも、たぶん違う。あの女の子は、本当に僕たちがドラゴン・オーブを隠していると思っている。それは昨日の発言から想像できた。
じゃあ、あの女の子の言い分は正しいのだろうか。
パロットさんか、フォックスか。
どちらかが、ドラゴン・オーブを隠したのか。
パロットさんはキャリアを焦っていた。
フォックスは魔法管理委員会を馬鹿にしていた。
二人なら盗みを働くか。
いや、有り得ない。
そんなはずないと僕は思った。これは願望だ。
パロットさんもフォックスも盗んだりしない。
『研究機材が必要だったら声をかけて。それから、この間はありがとう』
『じっくり解体してやりたかったよな……』
そう言った二人のことを、僕は信じたい。
だから、これは僕にとっての確定情報だ。
それならあるはずだ。
第五の可能性が。
ドラゴン・オーブは誰の手にも渡っていない。
その可能性を考えてみようじゃないか。
手錠をされて町に連行される間、僕はずっと考え続けていた。
①魔法管理委員会が盗んでいない。
②パロットさんとフォックスは無実だ。
この二点を絶対の条件とする。そして、考えろ。
『ドラゴンは魔法生物で間違いない。ならば、ドラゴン・オーブは小脳に必ずある。にも拘わらず、未だに発見に至っていない。そして、痕跡を残さないほどの治癒魔法は、魔法管理委員会でも確認されていない』
このどこかに間違いがあるか。
このどこかに抜け道があるか。
そして、考え続ける内に町に着いた。
「裁判所に移送するまでに、隠し場所を聞かせてもらおうか。素直に話せばよいが、嘘を吐いたり、黙秘を続けたりすると、手荒なことがないとも限らんぞ」
少女は冷たい目でそう言い、僕たちを町にある罪人の留置所に押し込めた。