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第一話 Graveyard of strayers ~放浪の墓場~

 このお話は、某死に覚えゲーの世界にいわゆる「なろう系」の主人公たちを脚色して出したら面白そうという妄想の中で生まれた物であります。

 私が今までに見てきた異世界モノの作品で面白いなと思った作品の中からその世界観や設定などをデッドコピーさせていただいて、それをダークな世界観に当てはめてひたすら主人公が死にまくるという描写を多用しています。

 稚拙な、それこそお遊戯会レベルのものではありますが、御目汚しを失礼させていただけるなら、楽しんでいただけると思います。

 ――かつて、この世には虚無のみが広がっていた。

 限りなき闇と深淵が延々と広がり続ける中で、揺れる粒たちは互いに引き寄せられ、やがてそれらは神となった。

 水神『エクエ』はその後「最初の水」を見出し、そこから生み出した原初の動物達と共に祝福の世を創造した。

 次に、神より最初に水を賜った魔女『ネグミム』は「小さき人」を紅い霧より作り、同じくそれらを統べる英雄たちを生み出し、まだ乾いた大地へと人々を根付かせた。

 水の契約により深淵から出でた『暗闇の騎士団長』はエクエの僕となり、英雄へ叛する者達を裁し、安寧に生きられるよう小人達を守護する役目に就いた。

 永い、永き時の間その常は成り、偉大なる三者達は今も尚世を晏然と見つめ、人の内にあり続けている。

 そして、神を信ず健やかなる人は言う。

 「この世と神に祝福有れ」と――




 語り継がれる神話も、神が有るという事すら忘れ始めた世の中。

 人の正気もままならなくなった中で、他の世より来たとされる転生者達は常を乱すものとして理不尽に殺されていた。

 幾度も繰り返される凄惨な殺戮が続き、世の果てとも言われるこの墓場『放浪の墓場』に屠られた身体がまた一つ流れ着いた。

 

 遠い東の地、アナトリアと呼ばれし大陸にある小国の要請によって他の世より召喚された哀しき傭兵。

 前世の記憶をすべて奪われ、その名を安く名乗ることも許されずに従い、戦う事のみを生業として生き続けてきた。

 唐突の王の気触れにより「火を拝む者」という罪を擦り付けられ、水神エクエの導きに背く者として首を切り落とされた。


 しかし、忌むべき転生者の身体としてこの墓場へと棄てられてから幾日が経った。

 落とされた首も元の通りに、どういう訳か棺の中で彼は目覚めた。

 彼が目覚めた理由は何人も知らず、神の気まぐれか、それとも別の何かであるのか…。


 

 

 雲一つない青い空の下、私は立っていた。

 枯れた木々は干からびた大地へと根を伸ばし、乾いた風に烏が鳴く。

 なんとも、私は生きていたのだ。

 

 断頭台に立ち、野次たちが私を罵る歓声を上げ、首元にまで迫る刃が風を切りながら首元へ迫り、一瞬だけ広がっていく電撃のような激痛が、生々しく記憶に新しいというのに。

 私はどうやら死に損なったようだ。

 

 更にはあの頃までに着ていた鎧はそのまま私の身体に有り、剣と盾すら棺の中の副葬品として有る。

 無情にも同国出身の兵すら処するあの王が、それこそ異端者として屠ったとするならば、私の事をここまで丁重に弔うなどあり得ない。

 

 何がどういうことなのか、私の小さな頭で解くことは敵わない。

 だが少なくとも一つの真実として受け入れられるのは、私は生きているという事。

 鼓動も、血流も、熱も、全てが生きている頃と変わらない。


 思わず両つの掌を開いて眺めた。

 生きていれば、成る。

 固く閉じて拳を作り、ひとまずは私がすべきことを整理することにした。


 兜の顎を撫でつつ、思索に耽る。

 ひとまずはこの墓地を脱する事だろう。

 一生死んだ者としてここで過ごすのも悪くはないが、やはり私がこうして生かされている理由が気になる。

 誰も居ないこのような地では何も情報が掴めないだろうから、やはりここを出て人気のある場所へ向かうというのが定石だろう。


 そしてもう一つはぼやけた記憶の所在だ。

 転生してこの世に生を受け、傭兵として働いた記憶とこの棺から出る前に首を切り落とされたという記憶も鮮明だ。

 しかし、この世に生を受ける前の記憶はもちろんの事、殺される前の記憶すらひどく曖昧にぼやけている。

 かの国へ戻るとするならば、この薄れた記憶の内が何か分かるかもしれない。


 ともかく、進もう。

 共に葬られた剣と盾を背負い、この墓地から抜け出すことにした。




 墓地を歩いて行くあたり、墓石は例に漏れず放射状に伸びた造形物が目立つ。

 これは唯一神エクエを表す『水教』のアスタリスク紋章である。


 火を崇めるとする数少ない異教徒から土地を取り戻す遠征軍の際にも、このシンボルが使われる。

 異邦に住む彼らを「偽りの胸に抱かれる醜き者たち」として残らず殲滅するその姿勢から、酷く恐れられる印でもある。


 日常においても『火』に対しては過敏で、水教の聖職者たちは普段の生活で火を使うことを許されず、身を凍らせる雪が降る"竜の時期"にすら使用を禁じられている。

 その教会区内に住む者たちも同様に使う事は出来ない。

 そのため武器や防具を作成したり、鍛えたりする場合すら「魔法の火」を使うという。


 私にとって何か火に対して少なからずの因縁があるとは思うのだが、どうも思い出せない。

 おそらく私が求める物にその答えがある気がするが。


 しかし、辺りを見れば少しだけ不審な点に気づく。

 これだけ水教の影響が強いというのに、水気を一滴たりとも感じられないという事だ。

 一般的にエクエ様が見守るとされる地には噴水や水道と言ったものが必ず有るのだがここは違く、乾いている。


 私のような者を棄てる辺鄙なら、整備が行き届かずに急増されたばかりの墓地で有ると考えれば納得がいくが、それも難しい。

 数々の墓石は長年外気に吹きさらされているようで崩れかけているというのに、その説明はつかないのだ。

 例外として、私が入っていた棺は周りと比べて比較的新し目には感じたが…。


 ともかく、進んでいく。

 花はおろか草花すら生えていないのは、あまりにも不気味だ。

 そして、この墓地は今まで見てきた中でかなり広い。

 歩いても歩いても出口も囲いも見えない。


 徐々に空の光が弱まり少し暗がってきた時まで歩いてくると、大きな物影が前に見え始めた。

 四隅の美しい円筒形の柱、特徴的な鋭い三角屋根へ刺さるように立つアスタリスクに、私の背の一回りも二回りも大きな閉じた扉。

 墓地から続いているという事から、恐らくは教会かそれに関連した建造物であることが伺える。

 周りの墓地同様に外壁は廃れ、所々穴が開いていて、そこからは中の様子が少しだけ見える。

 そして、ここにも水は無かった。


 辺りを見ても出口らしき物は無いので、ここに外へ通じる何かがあるやもしれないと、その立派に立つ扉へと歩んでいった。

 よく見ると閉ざされているように見える扉は半開きになっていた。

 まるで何かを誘うように。


 軽く片手で押してみるが少しも動こうとはしない。

 だから今度は両手を大扉につき、足腰を使いながら全体重をかけてゆっくりと押し込んでいく。


 ――ギギギ… ギギギ… 


 木材が擦れる音が聞こえ、徐々に開いていく。

 私の身体が通れるほどにまで開いたら、その中へ入っていった。


 中には誰も居ないで、天井に空く穴から空の光が漏れている。 

 廃れているとは言えどもその扉の大きさに釣り合うように荘厳な内装で、確かに下に惹かれたカーペットの紅色も、柱に垂れるアスタリスクの紋章の青色も擦れた色にはなっているが、流石は水教の建造物と言った所。

 縦に広く、釣られた豪華なシャンデリアに、二階までの吹き抜けは更に広さを感じさせ、大量の長椅子たちは寂れていながらもしっかりと並んでいた。


 最奥部には祭壇があり、エクエ様の現人姿を模ったとする女神像が中央に立っている。

 思わずその像へ引き寄せられるように中央を歩んでいく。

 一歩一歩と前へ進み、像へ近づいていく。

 私の足音のみが建物中に響き、他所から一切の音が聞こえない不気味さは進めば進むほど増していく。


 そして、像までの距離が丁度中間にまで差し掛かったという時。


 ――ドシャァアン!!


 足元が引かれる感覚と共に地は崩れ、大穴の真ん中の底へと私の身体は落ちていった。

  

 唐突の事ではあったが、なんとか落下中に姿勢を整えるほどの隙は有ったようで、上手いように着地する事が出来た。

 

 立ち上がるとその前には、常人の何人分の体格を誇るであろう巨人が有った。

 刃の所々が欠けている巨大な剣を地面に突き刺し杖にして、跪いていた。

 着ている鎧は輝きを失い鈍く光り、所々に亀裂が入り始めているが、その重厚な容姿は見る者を圧倒する。

 

 何よりも目を引くのはその巨人の胸部に刺さる太い矢だった。

 恐らく私の身体ほどあろう矢が、深く背の向こうまで貫いている。

 

 その眠るように丸まる身体へ歩んでいく。

 放っておけば良いものを、私はそこへ吸い込まれるようにその矢へと手を伸ばした…。 

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