表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金世界  作者: 藤田 寛
どちらかの正義
8/17

第2話 人と亜人

 ファルタン亜人警戒所。

 北にウルジス大陸において重要な水上交通路であるテレ川、南にフォルタン沼地を見下ろす、小高い丘に建てられたサンクオル兵の駐留施設である。

 ファルタン沼地にはスケアム族と呼ばれる亜人種族が生息しており、それらがテレ川に勢力を伸ばすことを阻止するのが、この警戒所の役割であった。

 アルンとベルシュは、この警戒所に駐留する部隊に所属していた。


 農場から無事警戒所に戻ったアルンとベルシュ。

 すっかり日が暮れていたこともあり、疲れ果てていたふたりはそのまま兵舎の寝床に潜り込んだ。


 その夜、警戒所のある地域を強い雨が襲った。

 天幕てんまくの兵舎の上部を覆う、皮でできた屋根に雨粒が打ちつけられ、ぼつぼつとやかましい音を立てる。

 

「グァアアアアアァァ……」


「ギャアアアァァァ……」


 さらに、ファルタン沼地からスケアム族の不気味な叫び声が雨の音に混じり、警戒所まで響いてくる。

 まるで、雨を喜んでいるかのようだ。

 アルンは、どうにか眠りにつこうと、体に掛けられた毛布に顔を埋めた。


 翌朝、アルンとベルシュはこの警戒所を取り仕切るダブリス隊長の元へ呼ばれていた。


「寝不足か?」


 気だるそうに顔をこするアルンをに、ひとりの男が声をかけてきた。


「うん、雨の音とスケアムの鳴き声でね……」


「ははは! おまえは意外と神経質なんだな」


 この黒い髪を刈り上げた、朝っぱらから陽気な男はシモンといい、アルンより少し年上の兵士で、アルンのことをよく可愛がっていた。

 アルンとベルシュ、そしてシモンが、ダブリス隊長の待つ、警戒所でも一番大きな兵舎の中へと入っていく。


 兵舎の中央には広いテーブルが置かれ、そのうえにはこの辺りの地形の状況を記した、大きな地図が広げられている。

 そのテーブルの向こうの椅子に、口髭を貯えた初老の男、ダブリス隊長が腰かけていた。


 いくつかの天幕の兵舎を木の柵で囲っただけの、アルンのような未熟な兵士も多くいるフォルタン亜人警戒所。この警戒所が今現在までスケアム族を押し留めていられるのは、このダブリス隊長の人望と手腕によるものが大きい。

 本来であれば後進に道を譲るような年齢ではあるが、戦争により経験豊富な指揮官が多く失われたこともあり、未だこうして前線で指揮をとっているのであった。


 そのダブリス隊長が、テーブルのうえでゆっくりと指を組むと、話し始める。


「昨日、見回りを担当した兵から報告があってな。かなり人里に近いところでスケアムの足跡が見つかったと」


「数は多くないそうだが、やつらがテレ川進出のための斥候せっこう活動をしている可能性もある」


「そこで、見回りの兵を増やすことになった」


 そう言うと、ダブリス隊長は目の前の大きな地図を指でなぞってみせた。


「おまえたち三名はこの西側の区域を担当してもらう」



 早速、三人は見回りの準備を始める。

 ベルシュは自分の剣を念入りに磨いている。


「アルン、おまえスケアムを見たことはあるのか?」


 シモンが、腰のベルトをぐいぐいと締めながら尋ねた。


「いや……」


 アルンは首を横に振る。


「じゃあ戦ったこともないのか……大丈夫なのか?」


「大丈夫さ!」


 アルンは少し大きめのヘルムを勢いよくかぶると、そう言って強がってみせた。


「スケアムは亜人の中でも大したことのないやつらだ。やつらの骨や角でできた武器はおれたちの金属の鎧を貫けないからな。まあそれでも数が集まれば厄介だがな」


 ベルシュがよく磨かれた剣の刃を、兵舎の窓からこぼれる陽の光にかざしながら、そう言った。

 

 準備が整った三人は、警戒所をあとにし、見回りの任務へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ