変化を求める部下達にカイ・リンデンバウムは戸惑う 3
「やはり、そうでございましたか!私の考えていた通りでございます!では、いかがでしょう?殺害した冒険者を私がアンデッドとして復活させ、戦力に当てるというのは?」
カイと同じ考えを抱いていたという事実に、両手を合わせて喜びの声を上げるヴェロニカの笑顔は眩しい。
彼女の考えは、その根源的な部分でカイのそれとは異なっていたが、そんな事を彼女は気にもしないだろう。
それよりもカイには、彼女の発言に気になる部分があった。
(殺した冒険者をアンデッドにして戦力に当てる?戦力にするって言っても、ヴェロニカの力じゃゾンビかスケルトンになるのが関の山だろう?それぐらいじゃ大して足しにも・・・って、そんな事考えてる場合じゃない!)
カイの認識では、ヴェロニカが死亡した冒険者をアンデッドとして復活させても、それは大した戦力にはならない筈だ。
その彼の認識からすれば、ヴェロニカの提案は正直あまり意味のあるものではなく、彼女の意図を理解する事が出来ずにいた。
「あぁ?そんなまどろっこしい事しなくても、戦力が欲しいなら俺が適当にどっかから連れてくりゃいいだろ?」
彼女の提案に、セッキも似たような疑問を抱いたらしく、そんな事は意味がないと主張している。
最もセッキの場合は、自らが暴れる機会を確保したかっただけかもしれないが。
「馬鹿ねぇ、セッキ。私の力であれば、死んだ冒険者を生前と変わらぬ姿で復活させる事が出来るのよ?そうした姿なら、色々と使い道があるでしょう?」
「へぇ、そりゃ結構な事だが・・・結局、まどろっこしいやり方じゃねぇか。俺は好かねぇなぁ、そういうのはよぉ」
セッキの疑問に、ヴェロニカは自らの能力を誇りながら答えていた。
彼女のはその形のいい唇をなぞりながら、自らの思惑を話している。
その妖艶な仕草は、彼女の唇が少しばかり悪意に満ちた形に変わろうとも、その魅力を減じる事はない。
しかし種族の違いからか、セッキは彼女のそんな仕草にも関心を示さず、その話につまらなそうな表情を作るばかりであった。
「ふふふっ、あなたらしいわね。どうでしょうカイ様?セッキはこう言っておりますが、私の案は中々に有用だと思うのですが・・・?」
「ん?あぁ・・・そうだな」
考え事に没頭していたため、ヴェロニカ達の会話を上の空で聞き流していたカイは、彼女から振られた話題に適当に肯定を返してしまっていた。
しかし彼女とセッキとの会話を聞き逃してしまったカイにも、彼女が元々提案していた事の内容は思い出せる。
それは冒険者を殺して、アンデッドとして活用するというものだった筈だ。
そんな提案を到底受け入れる事の出来ないカイは、慌てて否定の言葉を口にしようとしていた。
「いや、ちょっと待て!それは―――」
「そうじゃぞ、ヴェロニカ。それでは少し詰めが・・・カイ様、申し訳ありません。お話の所、遮ってしまい・・・ささっ、どうぞお先にお話を」
「んんっ?いや、構わない。ダミアン、君が先に話したまえ」
カイが慌ててヴェロニカの提案を否定しようとすると、同じタイミングでダミアンが話し始めていた。
彼は被ってしまったタイミングに頭を下げると、カイに先に話すように促している。
しかしカイはそれを断ると、逆にダミアンの話を促していた。
ヴェロニカの提案を否定する材料など持ち合わせないカイは、自分なんかよりもダミアンの方にそれを説得する可能性を見出していたのだ。
しかし彼は忘れてしまったのだろうか、ダミアンもまた冒険者の味方をする気など毛頭ないという事を。
(ん?でもそういえば、ダミアンも冒険者を殺す事には反対していなかったような・・・?うーんそうなると、結局別の案が出てくるだけじゃないか?それだと困るんだよなぁ・・・ま、ダミアンの話はまわりくどいし、その間に何か考えるとするか)
ダミアンもそれをはっきりとは口にしてはいないが、冒険者を殺す事に反対ではないだろう。
それを考えれば彼はヴェロニカの案に反対するだけで、カイの望みを叶えてはくれはしない筈だ。
その事を察したカイは、彼がまわりくどい話で時間を稼いでくれている間に、自分で何とか起死回生の案を考え出そうと、必死に頭を捻り始めていた。
「そうですか?では・・・ヴェロニカ、お主は冒険者をアンデッドとして操ると申しておるが、それでどれほどの事が出来る?今このダンジョンに訪れている者の多くは、まだ駆け出しの冒険者に過ぎなかろう。それらを操っても大した事は出来なかろうて」
「それは・・・確かにそうかもしれないわね。それでダミアン、当然貴方には別の考えがあるのでしょう?それを聞かせてくれないかしら?」
ダミアンはヴェロニカの考えでは、大した事は出来ないと説いていた。
それも間違いではないだろう、彼の言ったとおりこのダンジョンに訪れる冒険者は駆け出しの者が大半であり、彼らが人間社会与える影響力は大きくはない。
それが上位の冒険者ともなってくれば、また違ってくるのだろうが、このダンジョンにそれらの冒険者が訪れる事はほとんどない。
それを考えると、確かにヴェロニカのやり方では大した事が出来ないというダミアンの話も、納得出来るものであった。
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