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アンリ家は冒険者一家 2

「逃げなさい、レナエル!ここは私が!」


 身体を投げ出すように転がり逃げたレナエルに、彼女を狙ったゴブリンの攻撃は空振っていた。

 妹の無事にほっと一息を吐いたリディは、すぐさま次の矢を番えてはそのゴブリンへと狙いを澄ましている。

 リディは絞った瞳に妹へと逃げるように告げている、その言葉は果たして彼女に届いただろうか。

 澄ました狙いはもう、そのゴブリンの急所を捉える。


「わ、私だって!ううぅぅわぁぁぁぁぁっ!!!」


 先ほどまでの叱責が、彼女にその決断を選ばせたのか。

 逃げ出す際に手放したハンマーを手に取ったレナエルは、雄叫びを上げるとゴブリンへと突撃していってしまう。


「っ!?狙いが・・・何やってんのよ、あんた!?」


 定まりそうであった狙いは、妹の身体がそれに重なり用を足さなくなる。

 リディはその振る舞いに大声で文句を零しているが、ゴブリンと揉み合いになっているレナエルの耳にそれは届かないだろう。


「ぐぅっ!?こんのぉぉぉ!!」

『がぁっ!ぐぅぅぅ!!』


 揉み合いになっている距離では、お互いに決定的な一打を繰り出せない。

 細かい一撃でお互いにダメージを積み重ねている二人はその実、そのダメージに違いが出ていた。

 それは、お互いの得物の違いが原因であろう。

 太い木の棒を削って形を整えただけの棍棒を振るっているゴブリンと違い、レナエルが振るっているのは鉄で出来た作りの良いハンマーであった。

 その得物の違いが、ショートレンジの打ち合いにおいても、その積み重ねっていくダメージを異ならせている。

 それではその打ち合いはこのまま行けば、自然とレナエルの勝利と終わるだろうか。

 それは違う。


「あっ―――わ、私・・・ま、まだ!」


 有利な得物にも、それを振るう者の耐久力まで同じという訳ではない。

 棍棒で強かに殴られた頭に、一瞬意識を失ってしまったレナエルは、それでも得物を手放してはいない。

 しかし取り戻した意識にも、ハンマーを振るうその手は明らかに先ほどのそれよりも勢いのないものであった。


「レナエル、よく頑張ったわ!後は姉さんに任せなさい!!」


 レナエルの身体によって射線が塞がれるならば、回り込んでそれを通せばいい。

 それを実行したリディは、揉み合っているレナエルの横から弓を構えている。

 彼女はそれに巻き込んでしまわないように、妹にそこから離れるように通達していた。


「うわああぁぁぁぁぁっ!!!」

「ちょっと、あんた!もう・・・当たっても、文句言わないでよねっ!」


 しかし興奮からか、それとも脳を揺らされた意識の混濁故なのか、レナエルはその指示に従おうとはしない。

 再び雄叫びを上げてはゴブリンへと立ち向かっていく彼女に、リディが狙った射線は再び塞がれてしまう。

 しかしそのまま彼女を戦わせるのも危険だと判断したリディは、弓の狙いを誤射しても致命傷にはならないであろう足元へと変えて、それを放っていた。


『ぎゃぁぁぁっ!!?』

「よし、うまくいった!これで止めを―――」


 射抜いた足首に、ゴブリンは悲痛な叫び声を上げている。

 その痛みに得物すら放り投げて蹲ってしまったゴブリンに、リディは僅かに喜びの声を上げると、止めを刺そうと新たな矢を番えていた。

 しかしそれが放たれる事はない。

 何故なら―――。


「・・・やったよ、お姉・・・ちゃん」


 何かを叩き潰す鈍い音が響き、一つの命が今確かに消えていく。

 リディが放った矢によって揉み合いから解放されたレナエルは、その手にしたハンマーをゴブリンの頭へと振り下ろしていた。

 彼女はその確かな手応えを確認すると、ゆっくりと後ろに倒れてゆく。

 それは丁度、前のめり倒れ付して絶命したゴブリンと反対の方向であった。


「レナエル!もう・・・あんたは本当に、仕方のない子ね」


 倒れ付したレナエルに駆け寄ったリディは、彼女を地面から助け起こすと、その穏やかな吐息を確認しては安堵している。

 リディはそこら中に痣を作っているレナエルの身体を撫でてやると、彼女への文句を零しながら優しい笑顔をその顔に浮かべていた。


「父さんも、気付いてるならもう少し早く教えてくれないと」

「その・・・すまない」


 妹を危ない目に遭わしてしまったからか、リディは若干きつい口調で父親へと苦言を呈していた。

 その言葉に彼女の父親であるロドルフ・アンリは、気まずそうに後頭部を掻いている。

 そのしゅんとした態度に、リディも不満に鼻を鳴らしただけで、それ以上追及する気は起きないようだ。

 その時、どこかから物音がする。


「誰!?あれは・・・逃がすものか!!」


 それは彼女達がいる部屋から、奥へと向かう通路へ移動している人影であった。

 どこかの物陰に隠れいたのであろうその人影は、その小柄さや肌の色からゴブリンであろうと思われる。

 リディはそれにすぐに狙いを定めると、その手に絞った矢を放とうとしていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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