輝かしい未来に向かって
「あっ!?明日出発って言っちゃったけど、流石に準備とかあるよな・・・不味かったかなぁ。まぁ最悪、メルクリオに頼めば全部用意してくれるよな?どうせ道中は、あいつのとこに運んでもらうつもりだし」
魔王の部屋へと向かう途中、先ほどの発言を思い出しその内容の不味さを悟ったカイは、それでも何とかなるかと軽く考えていた。
メルクリオが持つ商人のネットワークを利用すれば、大概の物はすぐに手に入る。
それに移動についても彼らに頼めば、普通に移動するよりもずっと早く向こうに着く筈だと、彼は気楽に考えていた。
「しかし、結構離脱者が出たなぁ・・・まぁ、それぞれ事情があるから仕方ないんだけど。ウーヴェなんて、流石に連れて行く訳にもいかないしな」
魔王の居室は、この城の最上階に存在する。
その距離は遠く、その道中カイは先ほどまでの部下達とのやり取りを振り返っていた。
「まぁ、考えようによってはプレッシャーが減ったとも言えるかな?アルバロ達とか族長の息子ってことで帝王学とか学んでて、なんか怖いんだよなぁ。結構強いし、あいつらなんで俺なんかに忠誠誓ってんだろ?ほんと」
単純な肉弾戦能力もセッキに次ぎ、学識も備えているアルバロ達の目は、カイにとってかなりのプレッシャーとなっていた。
そんな彼らが自らの下を去ったということで、少なくとも以前より気楽になったことは間違いない。
「メルクリオもなー、居てくれると凄く助かるんだけど・・・あいつ何考えてるのか分からなくて、滅茶苦茶怖いんだよなぁ・・・まぁ、ウーヴェは優しい奴なのは知ってるけど」
凄腕の商人であるメルクリオも、カイにとっては恐怖の対象である。
彼は何かと気を回してはカイの事を援助してくれていたが、時折見せる意味深な発言や表情が、カイの不信感を煽っていた。
彼とは反対にカイは、ウーヴェの事は信頼していた。
彼が巨大すぎる図体をしているだけで、優しい心を持っていることを知っているカイからすれば、彼をここに置いて行かなければならない事は、大変に心残りであった。
「残ったのはセッキにダミアン、それにヴェロニカとフィアナか。セッキの力は正直恐ろしいけど、あいつは分かりやすい奴だし、まぁ大丈夫だろ。それよりダミアンの方が得体の知れないというか、底が知れないんだよなぁ・・・」
クラディスにまでついて来てくれる四人の部下を思い浮かべるカイは、その一人一人の力量を勘案する。
彼からすれば分かりやすく強大な力を持つセッキは警戒すべき相手であるし、長く生きているぶん膨大な引き出し誇るダミアンは得体の知れない恐ろしさがあった。
「ま、後の二人はちょっと特殊な力を持ってるだけの可愛らしい女の子達だし、寧ろついて来てくれてよかったな!辺境のダンジョン暮らしが華やかになるし!」
彼からすればヴェロニカとフィアナの二人は、ちょっと特殊な技能を持っただけの可憐な女の子に過ぎない。
その二人が実は、彼の部下の中で一番恐ろしい力を持つ存在だと、誰が想像しただろうか。
圧倒的なネクロマンサーとしての能力を誇るヴェロニカだけでなく、フィアナもまた超人的な技能を持った暗殺者であった。
「しかしダンジョンかぁ・・・楽しみだなぁ!どうやって冒険者を鍛えようかな?やっぱり、いかにして経験を積ませるかだよなぁ。それにアイテムもだな!レアアイテムをガンガン提供して、一気にランクアップさせてやらないと」
自らの身を脅かす脅威がまったく去っていないことに気づきもしないカイは、輝かしい未来を想像して瞳を輝かせている。
「いや、待てよ?それをうまく利用すれば、周辺の村や町の発展に寄与することも出来るんじゃないか?」
ダンジョンに訪れる冒険者の強化策を思案していたカイは、その最中に別のアイデアも閃いてしまう。
ダンジョンをダンジョンたらしめるダンジョンコアには、魔物を召還したりアイテムを作り出す能力が備わっている。
彼はそれを利用して冒険者達を鍛えようと考えていたが、その能力をうまく使えばさらに大きなことが出来るのではないかと、彼は気がついていた。
「うはっ、これは思った以上にやりがいがありそうだな!!」
ダンジョンからの産物には、市場で高く取引される物も珍しくない筈だ。
特に魔力を帯びた品などは、高く取引されるのが定番である。
しかもドッペルゲンガーである彼であれば、人里に侵入して市場動向を調査することによって、彼らの需要を調べることすら可能であった。
それをうまく利用することが出来れば、近隣の村や町を発展させようという彼の言葉も、あながち嘘ではないように思えてくる。
それらは全て、彼がドッペルゲンガーであり、そして中身が人間であるからこそ出来る事であり発想であった。
そう考えれば、ダンジョンマスターというのは彼の天職なのかも知れない。
「よーし、やってやるぞー!!」
意気揚々とカイは、魔王の部屋へと続く廊下を進む。
その先には、輝かしい未来が待っていると信じて。
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