宝箱と子供達 2
「ハロルド、お前・・・先に進むつもりだったのか?俺はてっきり・・・」
「帰るかもって?まさか、まだ始まったばかりだろ?帰るには早すぎるさ」
クリスとしてはまだまだ探索を続けたい所であったが、流石にこの状況ではもう無理だろうと考えていた。
その彼にとって、ハロルドの発言はまさに青天の霹靂といったものであった。
驚きを口にするクリスに、ハロルドは唇を歪めながら挑発的な言葉を告げる。
彼の表情を見れば、ここで引き返すつもりがないことは一目瞭然であった。
「はははっ!そっかそっか!じゃあ、この箱なんて別に開けなくてもいいや。この先でもっと良いもん見つければいいもんな!」
「・・・同じような箱なら、また開けさせないけどね」
ハロルドの態度にその背中を嬉しそうに叩いたクリスはやる気を漲らせると、もはやその箱などどうでもいいと背中を向けていた。
先へと続く通路へと目を向けて、気合の篭った言葉を吐いている彼は気づいているだろうか、ハロルドがぼそっと呟いた言葉の内容を。
ハロルドはこの先もし同じような箱を見かけても、彼に開けさせる気などは毛頭ないのであった。
「えっと、その・・・ハロルド、本当に先へ進むの?もう帰った方が・・・」
明らかに先に進みたがっていたクリスならばともかく、普段冷静なハロルドの意外な発言に、アイリスが慌てて駆け寄ってきていた。
彼女はハロルドが回復し次第帰るつもりでいたのだろう、不安そうな表情でハロルドが本気なのかと問い質している。
アイリスのその表情は、彼女に特別な感情を抱いていない者ですら保護欲を刺激され、思わず意見を覆してしまいそうな威力を秘めている。
しかしハロルドは殴られ続けたことで若干フレームが歪んでしまった眼鏡をかけ直すと、彼女の望みを否定する言葉を告げ始めていた。
「大丈夫だよ、アイリス。さっきの敵だって戦い方を間違えなければ、そう苦戦する相手じゃない」
「う~ん、そうかなぁ?」
ハロルドは先ほどの戦いは、やり方を間違えたから苦戦したのだと断言する。
確かにそれは事実であろう。
カイ達はアイリスを危険に晒す事でしか、楽に戦う手段はないと考えていたが、それはあの状況であったからである。
奇襲に近い状況で混戦になっていなければ、自分が早々にスケルトンの一体を倒して、戦況を有利に進める事が出来た。
そう確信しているハロルドは、今度は失敗しないと強く決心する。
その決意を向けられたアイリスはしかし、不安そうに首を傾げるばかり。
そんな彼女の姿に、ハロルドはどこか安心したように微笑んでいた。
「それに、ここまでの道程は一本道だっただろう?」
「うん、そうだよ」
「なら、帰り道で敵に遭遇する事はない筈だ。先に進んでも、君が考えているより危険は少ないと思うよ」
この部屋は、彼の記憶にはない場所だ。
意識を失っている間にここへと運ばれてきたハロルドは、それまでの道程をアイリスへと尋ねる。
それにどんな意味があるのかと頭を傾けているアイリスは、それでもそれに素直に答え、望む回答を得たハロルドは静かに頷く。
彼はそれならば帰り道は安全だと彼女に説き、先に進んでも大丈夫だと誘いを掛けていた。
「で、でも!さっきだって危なかったよ!ハロルドなんて、死んじゃったのかもって・・・」
「アイリス、僕は・・・」
ハロルドの説得も、アイリスの不安を解かせるほどではない。
解消されることのない不安に、先ほどの場面がぶり返してきたのか、その目に涙すら浮かべてアイリスはハロルドを引き止めようとする。
彼女の表情に躊躇いを覚えたハロルドは、更なる説得の言葉を言い淀むが、それはより強い言葉を放つ者によって上書きされていた。
「大丈夫大丈夫!!問題ない!ハロルドも大丈夫だって言ってるんだろ?こいつが言う事なら間違いないって!!な、それより早く行こうぜ?大丈夫なんだろ?」
「確かにそう言ったが。魔物も出た事だし、より慎重にだな・・・」
「よし!じゃあ俺は偵察行ってくるから!お前らも後からついて来いよー!」
「あ、おいっ!?まったく・・・」
ハロルドの後ろから彼へと飛び掛り、その肩を抱いて話し掛けてきたクリスは、アイリスの不安など消し飛ばすような大声で早く先に進もうと催促する。
彼はその言葉に苦言を呈そうとしたハロルドの言葉も待たず、そのまま先へと続く通路へと消えていく。
その素早い動きに彼を制止し切れなかったハロルドは、伸ばした腕を頭へと向かわせると、疲れたような仕草でそれを撫でていた。
「・・・アイリス。あいつはたぶん、一人でも行くと思うよ?」
「う~・・・!分かった、分かりました!!私もついていきます!」
「はははっ、そうしてもらえると助かるよ」
物凄い勢いで去っていったクリスに、ハロルドがしみじみと呟きを漏らす。
その言葉を否定する事が出来ないのは、アイリスが一番分かっているのだろう。
唸り声を上げて不満を示す彼女もやがて折れて、怒りを表しながらも通路へと足を向け始めていた。
その姿に笑みを漏らしたハロルドも、彼女の後へと続いていく。
彼はその最後に、部屋の中でポツンと佇む箱へと視線を向けていた。
「それにしても・・・何故、あれほどあからさまに怪しいものを?罠を仕掛けるにしても、もう少しやり方があっただろうに・・・」
あからさまに怪しい箱に目をやりながら、ハロルドは何故それがそこに設置されているのか、心底分からないという風に首を捻る。
あんな怪しい箱、クリスぐらい単純な者でなければ掛からないのにと、彼は思う。
まさかそれが、彼ら用意された贈り物だとは流石の彼でも気づきはしない。
「ハロルドー!置いてくよー!!先に進むんでしょー!!」
「あぁ、ごめんごめん!すぐ行くよ!!」
いつまで待ってもついて来ようとしないハロルドに、アイリスはそっちが誘ったのにと怒り込めて催促の声を上げる。
彼女の声に、ハロルドは駆け足でそちらへと向かっていく。
彼らが立ち去っていった後の部屋では、開けられる事のなかった箱だけがポツンと佇んでいた。
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