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宝箱と子供達 1

 目が覚めて、最初に感じたのはひんやりとした感触だ。

 おでこを濡らす冷たい感覚に頭を揺すったハロルドは、その後頭部を支える柔らかさに何か離れ難いものを感じていた。


「・・・目が覚めた?」

「・・・アイリス?ここは・・・」


 重たい目蓋を開いて見上げれば、そこにはこちらを心配そうに見詰めるアイリスの顔がある。

 状況を飲み込めないハロルドが周りへと目をやろうと顔を傾けると、その視界の端を水に濡らした布切れが落ちていった。


「そうだっ!敵は、あのスケルトン共はどうなったんだ!?」


 彼の記憶は、仲間へと襲い掛かっていくスケルトンの姿で終わっている。

 その記憶を思い出したハロルドは、慌てて身体を起こしてそれをアイリスへと問い掛けていた。


「ぐぅっ!?痛っつぅ・・・」

「だ、駄目だよハロルド。まだ休んでないと・・・」


 アイリスへと掴みかかって激しく問い掛けようとしていたハロルドの動きは、その頭に奔った痛みによって阻まれてしまう。

 頭を押さえて蹲ってしまったハロルドに、アイリスは彼の身体を優しく撫でると、その頭を再び彼女の膝枕へと誘導していた。


「それに―――」

「あいつらなら、あの後すぐに逃げていったぞ」


 地面へと落ちてしまい汚れてしまった布切れを拾ったアイリスは、それをひっくり返してハロルドのおでこへと置き直している。

 彼女はハロルドの頭を優しく撫でながら、彼の疑問に答えようとしていたが、それは横合いから声を掛けてきた少年によって遮られていた。


「逃げた?クリス・・・それは一体、どういう事なんだ?」

「どうって・・・そのままの意味だよ。お前が倒れたすぐ後に、あいつらは逃げていったんだよ。たぶん、仲間がやられたからじゃないか?」


 先へと続く通路だろうか、その脇に体重を預けているクリスへとハロルドは問い掛けていた。

 通路の向こうから敵がやってこないかとその先をチラリと確認したクリスは、ハロルドの問いに頭をボリボリと掻き毟ると、考えるのを諦めたように起こった事実をそのまま口にする。

 彼はスケルトンが逃げていったのは仲間がやられたからだと考えたようだが、ハロルドはどうにも腑に落ちない。

 身体を僅かに起こし、顎に手を添えて頭を悩ませ始めたハロルドに、アイリスは濡れた布切れが落ちてしまわないように、それにそっと手を添えていた。


「仲間が一体やられただけで撤退した?おかしいな・・・あの時はまだ向こうが優勢だった筈。それに何より、僕も意識を失ってしまったんだから戦力的には変わってない筈だろ?それなのに、何故逃げ出したんだ?」

「別にいいだろ、そんな事?結果的にそれで助かったんだから」


 クリスの言う通り、スケルトン達は仲間がやられたから撤退したのかもしれない。

 しかし、ハロルドはそこに疑問を感じていた。

 彼が意識を失う瞬間に見た光景は、スケルトン達に優勢な戦況であった。

 それにスケルトンを一体仕留めたといっても、それと同時に彼も意識を失ったのだから戦況に変化はない筈だ。

 そうなると彼らはわざわざ優勢な状態を手放して、撤退していった事になる。

 それを不思議に思うハロルドの疑問に、クリスは別に気にする事でもないだろうと肩を竦めて見せていた。


「なぁ、それよりこれを見ろよ!」

「そんな事って、相手の出方を窺うのは重要な・・・何だい、それは?」


 ハロルドの疑問なんかよりも気になるものがあるらしいクリスは、もう待ちきれないという雰囲気で声を上げると、この部屋の一角を指差していた。

 そこにはしっかりとした装飾のなされた、丈夫そうな箱がポツンと鎮座している。

 クリスの発言に不満を零していたハロルドも、それを目にすると態度を変えざるを得ない。

 その周りの景色から明らかに浮いており、ダンジョンにも似つかわしくない箱は不可解で、ハロルドに新たな悩みの種を与える事となっていた。


「何って、箱だろ?なんか見た目もしっかりしてるし、良いもん入ってそうじゃね?開けてみようぜ!」

「ま、待てクリス!!早まるな!そんなの、どう考えても怪しいだろう!?」


 ハロルドの疑問の声に客観的な事実だけを返したクリスは、駆け足でその箱へと近づくと今にもそれを開こうと腕を近づけていく。

 ワクワクが抑えられないという様子の彼は、すぐにでもそれを開けてしまうだろう。

 しかしどう考えても怪しいその箱に、ハロルドは必死に待ったを掛ける。

 留まる事を知らない期待感も、流石にパーティの頭脳担当の言葉を無視するまでにはいかないのか、クリスは渋々といった様子でその箱へと掛かっていた指を引っ込めていた。


「えぇ~、そうかぁ?」

「当たり前だろ!!大体、僕らのパーティには罠があるかを調べたり解除できる人間がいないんだ。慎重になるのが当然だろう?」


 ハロルドの制止にも、はっきりとした未練を覗かせてその箱へと指を伸ばしているクリスは、ねだるような瞳を彼へと向けている。

 クリスの様子に放っておいたら無理矢理にでもそれを開けてしまうと察したハロルドは、足早に彼へと詰め寄っていく。

 彼の後ろではまたも落とされてしまった布切れを、寂しそうに絞っているアイリスの姿があった。


「どうしても駄目か?こう・・・ちょっと開けてみるとかさ。そうだ!この棒を使って遠くから開けようぜ!それなら大丈夫だろう?」

「はぁ・・・鍵が掛かってるかもしれないだろう?それにちょっと離れたぐらいじゃ、毒ガスや爆発の罠だったら避けられない。その上ここはダンジョンなんだ、それと連動して動く仕掛けがあるかもしれないだろ?僕は反対だな」


 どうしてもその箱を諦めきれないクリスは、何とかハロルドに許可を貰おうと手に持っていた木の棒を掲げている。

 キラキラと輝く瞳を向けながら、こちらにその棒の存在をアピールしてくるクリスの姿に、ハロルドは深々と溜め息を吐くと、その箱を開けてはいけない理由を訥々と語っていく。

 彼の言葉に、激しく揺すられていた木の棒はやがてその勢いをなくしていき、いつしか頭を垂れるように下を向いてしまっていた。


「どうしても、駄目?」

「・・・そんなに中身が気になるなら、帰りにでも開ければいいだろ。そうすれば多少被害が出ても、そのまま帰ればいいからね」


 流石に説得は無理だと感じ始めたのか、未練がましくその箱の縁を撫でていたクリスは、最後に一言ハロルドへと願いの言葉を投げかける。

 そんな彼の寂しげな姿に同情した訳ではないだろうが、ハロルドは溜め息混じりに妥協案を口にしていた。

 その内容は、クリスにとって意外なものであった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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