初めて訪れたダンジョンに子供達は興奮を隠せない 2
「わぁ~、綺麗!ねぇ、これってなんていう生き物なの?」
「アイリス!?君は、休んでないと駄目じゃないか!」
暗闇の中で浮かび上がる光は、幻想的ですらある。
その光景に歓声を上げたアイリスは、自分よりも物知りであるハロルドに、彼らがどんな生物なのかを訪ねていた。
「えへへ、ごめんね。私も気になっちゃって」
「クリスだけでも大変なんだ、君まで勝手に動かれると・・・頼むよ、アイリス」
彼女の突然の登場に驚いたハロルドに、アイリスは僅かに舌を出して謝っている。
彼は彼女のその仕草に疲れたような表情を見せると、しみじみと言葉を搾り出す。
その視線は、洞窟の内部をきょろきょろと見渡しているクリスへと向かっていた。
「それで、これはなんていう生き物なんだ?ダンジョンでしか見かけない奴だよな!?」
「そうだな・・・このコケはヒカリゴケの一種かな?種類までは分からないけど・・・ヒカリゴケのほとんどは、ダンジョンなんかの魔力の濃い場所に生息するんだ」
どこか落ち着かないように辺りをきょろきょろと見渡していたクリスは、ハロルドの肩に自らのそれをぶつけると、質問の答えを早くとせっついてくる。
彼のその振る舞いに僅かに眉を顰めたハロルドは、地面に座り込むとそこに張り付くようにして生息しているコケを観察し始める。
彼はそれを指で摘み軽く擦って光の程度を確かめると、それに対する自分の推測を語り始めていた。
「・・・?つまり、どういう事だ?ここはダンジョンって事でいいのか?」
「まず間違いなくね」
「ま、間違いないんだな?よっしゃーーー!!ダンジョンだ、ダンジョンに来たぞー!!!」
ハロルドの説明を聞いても頭にはてなマークを浮かべるばかりのクリスは、はっきりとした結論を求めて彼に問い掛ける。
それに答える、ハロルドの言葉は短い。
しかしそれは、クリスがまさに望んだ答えであった。
「うるさいな・・・」
「ねぇハロルド、じゃあこっちは何ていう生き物なの?」
耳元で大声を上げて騒ぎ出したクリスに、ハロルドは耳を押さえて文句を漏らす。
そんな彼に、アイリスはもう片方の生き物の名前も知りたいと語り掛けていた。
「えっと、そっちは雷光虫かな?これは森の奥深くなんかにも生息している虫だけど、こんな人里近くだとダンジョンぐらいでしかお目にかかれないだろうね。あぁ、触らない方がいいよ」
「え?どうして・・・きゃっ!?」
薄暗い洞窟の中を漂っている光る虫へと視線を定めたハロルドは、それについてつらつらと説明していく。
ハロルドの説明に耳を傾けながらも、美しい光を放つ虫に惹かれて指を伸ばしていたアイリスは、彼が最後に口走った注意に首を傾げている。
しかしその理由はすぐに分かるだろう、伸ばした指に止まった虫がその光を強めると、彼女はすぐに悲鳴を上げてそれを振るい落としていた。
「痺れるから」
「いてて・・・もうっ、先に言ってよ!」
「ははは、ごめんよアイリス。雷光虫の光は、その名の通り雷の性質を帯びているみたいなんだ。これを利用したアイテムなんかもあるんだけど・・・」
遅くなった忠告の理由に、アイリスは頬を膨らませて怒りを示している。
彼女のその可愛らしい仕草に笑みを漏らしたハロルドは、彼女の指が痺れた理由について解説し始める。
楽しそうに言葉を続けるハロルドの姿に、アイリスは自分を実験台にしたんではないかと疑い、唇を尖らせて不満を現していた。
「なぁそんな事より、さっさと奥に向かおうぜ?」
「そんな事って・・・こういう知識が身を助ける事も―――」
「はいはい、それは後で聞くから」
洞窟に入った所から動こうとせず、そこで何やらやっているハロルド達に、クリスは待ちきれないという様子で先に進もうと呼び掛けていた。
その提案はもっともな事であったが、その言い草に納得がいかないハロルドは彼に反感を示す。
しかしそれも、そんな反応に慣れた様子のクリスに背中を押されれば、為す術なくずるずると引き摺られていくだけ。
クリスに背中を押されながらも、ハロルドはぶつぶつと文句を零し続けていた。
「アイリスも、いいよな?もう十分休めただろ?」
「・・・指が痺れた」
「あぁ?なんだそりゃ?」
ハロルドの背中を押して洞窟の奥へと進むクリスは、ついて来ようとしないアイリスにも声を掛ける。
彼女はそれに痺れた指を突き出して不調を訴えていたが、そのやり取りを知らないクリスからすれば、訳が分からずに首を捻る事しか出来ない。
「ううん、なんでもない。私も行くから、ちょっと待って!」
「おー」
クリスの不思議そうな表情に笑みを漏らして、指を引っ込めたアイリスは小走りで彼の後を追いかけ始める。
アイリスの了承に気のない返事を返したクリスは、隣に並んだ彼女の姿に、いい加減自分で歩けとハロルドの事を突き飛ばす。
彼のそんな行動に不満を漏らすハロルドも、やがて二人と並んで歩き始めていた。
彼らが向かう先からは、うっすらとした光が立ち上っている。
それはまるで、彼らのこれからの旅路を象徴しているようだった。
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