初めて訪れたダンジョンに子供達は興奮を隠せない 1
洞窟の入り口へと手を掛けたクリスは、後ろを振り返り仲間へと合図を送る。
彼の合図に小走りで駆け寄ってきたアイリスは、その途中で何かに躓き転びそうになってしまっていた。
彼女の身体は、その横を駆けていたハロルドに支えられる事で事なきを得る。
ダンジョンの入り口にまで無事に辿り着いた彼女は、両手を膝について安堵の吐息を漏らしていた。
「おいおい、大丈夫かよアイリス?」
「う、うん!平気平気!ハロルドに助けてもらったし」
「そうか、なら早く行こうぜ!もっと早く来るつもりだったのに、余計な時間食っちまったからな」
まだダンジョン探索が始まっていない内から疲れた様子を見せるアイリスに、クリスは呆れたように問い掛ける。
彼の声に彼女は問題ないと両手を振るって見せるが、その僅かに上がった息はまだ整ってはいないだろう。
しかしそんな彼女の様子に気づこうともせずに、クリスは大丈夫ならとさっさと先に進もうとしていた。
「少し休んだ方がいいんじゃないか?ここを見つけるのにかなりの時間を使ってしまったのは確かだけど・・・ここが本当にダンジョンの入り口なら、万全な状態で挑んだ方がいい」
元気そうに振舞うアイリスの仕草に目をやったハロルドは、一度上空にも目をやって時間を確認すると、クリスに休憩を提案する。
それは彼自身の体力にも、理由はあるだろう。
体力が有り余っているという様子のクリスと違い、ハロルドもこれまでの行程によって僅かに息が上がっており、消耗を隠すことが出来ずにいるようだった。
「それはそうだけど。でも、そのさ・・・入り口ぐらいなら入っても大丈夫だろ?アダムスのおっさんと、あの・・・なんて言ったかの商人も無事に帰ってきたんだし」
「キルヒマンさんな。まぁ、入り口ぐらいなら大丈夫か・・・危なくなったらすぐに帰ってこいよ、僕達はここで休んでるから」
ハロルドの言葉に納得を示したクリスはしかし、待ちきれないという様子でそわそわと身体を動かしていた。
彼は無事に帰ってきた二人の商人を例に出して、入り口ぐらいならば大丈夫だろうとハロルドに催促する。
クリスが思い出せなかった商人の名前を軽く訂正したハロルドは、彼のその仕草に止めても無駄だと頭を押さえると、諦めたように許可を出して自分はさっさと水筒の水を飲み始めていた。
「だ、大丈夫かな?」
「心配しすぎだよ、アイリス。あいつなら大丈夫さ。ここならお互い声も聞こえるし、姿も見える。それより君も休んだ方がいい、ここからが本番なんだからね」
「う、うん。そうだね、そうするよ」
洞窟の入り口は、手前の地面よりも低くなっている。
そこに腰を下ろしているハロルドは、クリスの事を心配するアイリスにその必要はないと言い切っていた。
彼はそこからならば洞窟内に入っていたクリスの姿を見えると話していたが、外の日差しの眩しさと洞窟の薄暗さが見通せる距離を短くして、中に入っていた彼の姿はすでに見えなくなっている。
しかしそこに悪意はないだろう。
ハロルドの言葉にようやく地面へと腰を下ろしたアイリスは、自分の水筒に口をつけるとその内容物を一気に飲み干し始める。
その勢いは、彼女の疲労を何よりも如実に物語っていた。
「おい、ハロルド!!こっち来てみろよ!!」
「まったく、休憩するって言ったばかりなのに・・・アイリスはそのまま休んでて、僕が見てくる」
「んっ、んっ!?けほっけほっ・・・う、うん、分かった」
地面に腰を下ろして休む二人が過ごした、穏やかな時間は短い。
興奮した様子でハロルドに声を掛けてきたクリスは、彼にも洞窟に入ってくるように誘っている。
その姿は、洞窟の暗さに影が動いて見えるばかり。
それでも伝わってくる彼の興奮した様子に、これは言う事を聞くまで治まらないと溜め息を吐いたハロルドは、やれやれと首を振りながら腰を上げる。
その横では水筒を傾けて必死に水を飲み干していたアイリスが、突然の事態にむせ返ってしまっていた。
「ハロルド!早く来いって!!」
「今行く!っとと、結構急だな・・・それで、何を見つけたんだ、って・・・」
中々下りてこないハロルドに、クリスは焦れたように声を高くする。
彼の声に、そのまま放っておくと洞窟内に引きずり込まれてしまう考えたハロルドは、大声で返事を返しそこへと下りる足を急がせる。
まだ入り口に差し掛かったばかりでも、急激に変化した明るさに足元は覚束ない。
坂になっている入り口に軽く足を滑らせたハロルドは、その勢いで坂を下りきるとそこで待ち構えたクリスへと声を掛ける。
しかしその声は、その先の光景を目にした事によって徐々に途切れていってしまっていた。
「な、すごいだろ?こんなの見たことないぜ?絶対ここが、おっさん達が言ってたダンジョンだろ」
「あぁ・・・そうだな」
入り口から離れた洞窟の中は、外の日差しも碌に差し込まず薄暗い。
しかしそこには、浮かび上がるように光を放つ者達が幾つも存在していた。
見れば彼らは洞窟の奥に行くほどその数を増しており、それはまるでハロルド達を奥へ奥へと誘っているようだった。
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