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三人は冒険者の来訪に備えて最終確認を行う 3

「あぁ、ダミアンは知らなかったか。実は前に作っておいたシーサーペントを配置してみようかと思ってね。あれはダンジョン産だからなのか分からないが、淡水でも問題ないらしい」

「シーサーペントをですか・・・しかし、今回やってくる冒険者はまだ駆け出しだと聞いております。過剰な戦力なのでは?」


 シーサーペントとは巨大な海蛇であり、その強大さからドラゴンの眷族ともいわれる魔物である。

 本来海に住んでいる筈のその魔物が、洞窟内の湖でも生きていけるのも驚きではあるが、それ以上にその強大すぎる力が危険ではないのかとダミアンは警告していた。


「何、戦わせる気はないよ。遠目にその強大な存在を感じるだけでいい。安全のためとはいえ単調な展開が続くからね、ちょっとしたサプライズさ」

「確かにあれは大人しい魔物じゃから、下手に刺激しなければ大丈夫かもしれませんが・・・」

「あぁ、一応湖の奥の方に配置しておくから大丈夫だろう。そうなってるよな?」

「えぇ、問題ない筈です」


 安全のためとはいえ、今のダンジョンの構造は少しばかり単調だ。

 そのためやってくる彼らを少しでも楽しませようと、カイはその魔物を用意していた。

 幸い、シーサーペントはドラゴンの眷属ともいわれるとおり荘厳な見た目をしており、遠目で泳ぐ姿を見るだけでも、その強大な存在を感じられるだろう。


(やっぱりゲームとかでも序盤で出てくる強大な敵や、手が届かないアイテムにはワクワクするもんな。これぐらいのサービスはあってもいいだろう。彼らもそれを目標に精進してくれるんじゃないかな、うんうん)


 どこかまだ悩ましげな表情を見せるダミアンを前に、カイは一人うんうんと頷いていた。

 彼がそこにシーサーペントを配置したのは彼らのためを思ってでもあるが、それ以上に以前生成してしまった強大な魔物の使い所を求めてのものであった。


「後はボスだけか・・・結局、何にしたんだったかな?」

「上位のゴブリン、ゴブリンファイターと通常のゴブリン二匹ですね・・・カイ様、よろしかったのでしょうか?」

「ん、何がだ?」


 ボスの配置について話すヴェロニカは、それを説明した後にカイへと窺うような視線を向ける。

 しかし彼にはそれが何を意味するのか見当がつかず、ただただぽかんとした表情を見せるばかりであった。


「ゴブリンならばセッキが連れてきた者達がいます、彼らを使っても良かったのでは?」


 ヴェロニカはセッキが連れてきた新参者達を、それに当てても良かったのではとカイに尋ねる。

 確かに、セッキが連れてきた魔物達はその多くがゴブリンだ。

 彼らの中から適当な者を選抜すれば、画一的な能力を持っているダンジョン産の魔物よりも、適当な実力な者を選ぶことが出来るだろう。


「あ~・・・それはだな、彼らはダンジョンの魔物と違って死んだらそれまでだ。それに外で仕事が出来るのは彼らだけだからな、そちらを優先させたかったんだよ」

「外での仕事ですか・・・それは、セッキとフィアナに任せている薬草収集の事ですか?」

「あぁ、その通りだ」


 セッキとフィアナがこの場に不在なのは、カイが彼らに外での仕事を与えていたからだ。

 セッキには彼が連れてきた魔物達の監督を、フィアナには彼らが外での仕事に乗じて逃げ出さないように監視をさせている。

 その仕事を彼らが任されている事は、当然ヴェロニカも知っていただろう。

 しかし彼女は、それに一体どんな意味があるのかと心底不思議そうな表情を作っていた。


「しかし・・・それは、それほど重要な事なのでしょうか?わざわざ二人を使ってやるほどの事とは到底・・・」

「ん?いやいや、そうでもないさ。先日近くの村に行って知ったのだが、どうやら治癒のポーションというのはかなりの価値があるものらしい。今回の事がうまくいけば、このダンジョンにも多数の冒険者が押し寄せることになるだろう。その時に、彼らの欲望を満たすアイテムが必要だろう?」


 ヴェロニカの疑問に、カイは実際に治癒のポーションを取り出して答えている。

 そのポーションの事をアトハース村では、ほとんどの人が高価なアイテムだと認識していた。

 その反応が間違っていなければ、それを量産する事でこのダンジョンの看板アイテムとして売り出すことが出来るだろう。

 今回の計画は、あくまで冒険者を呼び込むためのもの。

 それがうまくいってどんなに冒険者を呼び込めたとしても、そこに魅力がなければ彼らはいずれ去っていってしまうだろう。

 治癒のポーションはそれを防ぎ、場合によってはさらに人を呼び込む事が期待できる重要アイテムであった。


「それが、治癒のポーションですか?」

「あぁ、そのためにセッキ達には薬草を集めさせている。彼らも地元の魔物だ、この辺りの野草の知識ならば少しはあるだろう。今、このダンジョンにはあまり魔力の余裕がない。少しでも節約しなければな」


 ヴェロニカの視線はまだ半信半疑だ。

 それはまだ彼女がこのダンジョンに冒険者を呼び込むという事に、完全には納得してはいないからかもしれない。

 カイは彼女の疑問に、更なる理由を告げて説得を試みる。

 それは道理の通った理由ではあったが、その原因が実は自分にあることを深く知っているカイは、自然と彼女へと背を向けその視線から逃れるように顔を背けてしまっていた。


「そうですね、確かにそうなればあまり余裕は・・・お考えを理解できず余計な申し立てをしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いやなに、全ては今回がうまくいったらの話だ。後で意味がなかったいう事もある、気にする事はない」


 カイの考えに納得のいったヴェロニカは、その意図を読み解けず余計な詮索をした事を頭を下げて謝罪する。

 彼女のその行動に、カイは慌てて頭を上げるように声を掛けていた。

 それは彼に、後ろめたい事があったからかもしれない。


(何とか納得してくれたか?いや~、薬草採集なんてよく思いついたよ。適当にあいつらを外に連れ出せて、今後のダンジョン運営の助けにもなる、まさに一石二鳥の策だもんな!・・・ヴェロニカ達からすれば、あいつらはもう完全に屈服させたから大丈夫って話なんだろうが・・・流石にクリス達の相手を任せるのはなぁ・・・わざと負けてくれって言っても、納得してくれるとは到底思えないし。だからってそれを直接言っちゃうと、ヴェロニカ達の働きを信用してないって話になるし・・・はぁ、気を遣うなぁ・・・)


 カイは単純に新参者の魔物達が信用しきれずに、彼らをクリス達と遭遇しないように遠ざけたいだけであった。

 しかしそれを直接言えば、彼らを掌握しようとしている部下達を信用していないという事になってしまう。

 カイはその二つを同時に何とか出来る自らのアイデアを、心の中で思いっきり賞賛していた。


「ところで、カイ様。あの土産とか言うのは、どうなったんじゃろうか?そのために魔力を節約させたと聞きましたが」

「あぁ!聞いてくれ、ダミアン!今回用意したのはこのミスリルで出来た剣なんだが、実はこれはただの剣ではなくて、ある効果が付与されて―――」


 ダミアンが尋ねた今回の目玉のアイテムに、カイは喜びの声を上げてモニターの画面を拡大する。

 そこには、ボスとして配置された魔物の奥に安置されている宝箱が映っていた。

 カイはそれについて話したくて仕方がないという風に語り始めるが、それはダンジョンの様子が映されたモニターを注視していたヴェロニカの声によって遮られる事となる。


「カイ様!ダンジョンの前に人影が!!」

「来たか。時間は・・・少し早いが、こんなものだろうな」


 様々な場所を映しているモニターであったが、ダンジョンの入り口を映しているものはずっと固定でそこを映し続けていた。

 そこに人影の姿を見つけたヴェロニカは、慌ててそれをカイへと伝える。

 その声にそちらへと目を向けた彼は、モニターの端で時間を確認すると一人呟く。

 約束の昼過ぎにはまだ早い時間ではあったが、クリスの様子を思い出せばそれも不思議には思わない。


「さて、冒険者の撃退を始めようか。適度な刺激と、たくさんの報酬によって」


 ダンジョンコアの前へと進み出たカイに、ヴェロニカはダミアンの横へと自然に動いている。

 彼はそこで両手を広げると、侵入してきた冒険者の撃退を宣言していた。

 それは彼らを甘やかし、生きて返すことを望む言葉だ。

 カイの宣言に、ヴェロニカとダミアンがそれぞれに頷いている。

 二人の服従をチラリと確認したカイは、ダンジョンへと足を踏み入れてくる若者達へと、その目を向けていた。

 期待に輝く瞳を隠して、彼はゆっくりと自らの席につく。

 しかし隠せない興奮が、その身体をすぐに前のめりに傾かせていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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