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三人は冒険者の来訪に備えて最終確認を行う 2

「しかし・・・スケルトンが三体だけですか・・・無事に帰す事が目的と仰られていたが、流石に手応えがなさ過ぎるのではないじゃろうか?」

「まぁ、それは確かにダミアンの言う通りなのだが・・・今回は相手も相手だ、まずは様子を見たくてな」

「なるほど・・・それで武器も変更を?」

「あぁ。スケルトンの標準装備は片手剣だが、今回は棍棒に変更しておいた。これでいきなり致命傷をもらうという事態は避けられるだろう」


 最下級のスケルトンの標準装備は、錆びた片手剣といった所だ。

 しかしモニターに映る三体のスケルトンは、その手に短い木の棒を握るばかり。

 その姿にカイの意図を察したダミアンは、眉を傾けて彼へと問い掛ける。

 その言葉に我が意を得たりと両手を広げたカイは、スケルトンの装備を変更した理由を得意げな表情で語って見せていた。


「ん、んんっ!カイ様、次の説明に移らさせてもらってよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ・・・」


 ダミアンとカイの息のあったやり取りに僅かな嫉妬を覚えたのか、自分の存在をアピールするように咳払いをし、身体を傾かせたヴェロニカは次のエリアの説明へと移る許可をカイに求める。

 急に会話に割り込んできた彼女に戸惑うカイも、それを断る理由はない。

 軽く頷いて彼女を促したカイに、ヴェロニカはダミアンに向き直ると説明を再開する。


「では次のエリアの説明に移らせてもらいます。次のエリアは休憩を目的としたものですね。この広間は安心感を与えるために照明を強くして、前後のエリアとも十分な距離を取っております。また湧き水も用意しており、戦闘を終えた冒険者達が一息入れられるように設計しています」


 手応えのない相手にも、ダンジョンでの初めての戦闘ともなれば相応に消耗してしまうだろう。

 そのため次のエリアは、彼らが安心して休める空間を用意していた。

 その広間は適度な広さに十分な明るさが満たされており、先ほどまでの虫やコケも存在しない清潔な場所となっている。

 そこには綺麗な湧き水も用意されており、命のやり取りで渇いた彼らの喉を癒してくれるだろう。


「それに、そこにはこんな物も用意している」

「これは・・・なんじゃろうか、カイ様?」

「知らないのか?博識なダミアンにしては、珍しいな。これは宝箱と言ってな、中には回復用のポーションが数種類入っている」


 モニターを操作してその広間のある一点にカメラを寄せたカイは、説明不要とばかりにそれを示して見せている。

 しかしそれを見せられたダミアンは眉を顰めると、何なのか分からないと首を捻るばかり。

 その反応に意外そうな表情を見せたカイは、自慢げにそれについて説明を開始する。

 その手頃な大きさの木箱は縁を金属で補強されており、いかにも有用なアイテムが入っていると広間の片隅で主張していた。


「宝箱ですか・・・確かに見れば装飾もしっかりしている箱のようじゃが、逆に怪しくはないじゃろうか?あのような場所に、あんな箱がポツンと置いてあるなど・・・」

「何でだ?ダンジョンと言えば、宝箱じゃないか」

「はて、そうじゃったかな?しかしカイ様がそう仰られるなら、その通りなのじゃろうなぁ」


 カイの説明に顎髭なのか体毛なのか判別のつかない部分を撫でつけたダミアンは、そんな場所にあんな物があるのは不自然なのではないかと疑問を呈する。

 しかしカイからすれば、どうして彼がそんな事を言うのか心底理解できなかった。

 何故なら、ダンジョンに宝箱は付き物なのだから。

 それを力説しても気のない返事をするばかりのダミアンに、流石のカイも何かおかしいのではないかと思い始めていた。


(ん?もしかして、宝箱って概念がこちらの世界にはないのか?まぁ考えてみれば、何でダンジョンにあんなもんが置かれてるんだよって話なんだけど・・・あれ?じゃあ、このままじゃ不味いのかな?もっとこう自然な感じでアイテムを配置するとか・・・いやいや、今更そんな事考えてる時間なんてないって!今回はとりあえず、このまま押し切ろう!)


 基本的にダンジョンとは魔物達の拠点や、前線基地として使われる事が多い。

 各種のアイテムを生成する事ができ、防衛の魔物の配置も手軽、しかも魔物にとって必要不可欠な魔力が豊富なその環境は、まさにそれらに打って付けといえた。

 ダンジョンから冒険者が貴重な物資を持ち帰ることは多いが、それはそれらの魔物の素材か、もしくは備蓄していた物資を奪ったものであろう。

 カイが用意したような、どうぞお取りくださいというものではない筈だ。


「と、とにかくそういうものなんだ!彼らにはここで回復用のポーションを確保してもらう。それで次はどうなってる、ヴェロニカ?」


 想定外の事態に、カイは声のボリュームを上げてそれを誤魔化すと、ヴェロニカに次の説明を早くとせっつき始める。

 ダミアンと違い、カイと一緒に準備を進めていたためすでに宝箱の存在を知っていたヴェロニカは、困惑した態度を見せる彼にどこか優越感を感じさせる表情を向けていた。


「そうですね。これ以降は最後のエリアまで、ほとんどがこれまでと同じ流れの繰り返しとなっています。敵と戦い、その後に休憩してもらう。通路には簡単な罠も配置していますが、カイ様のご指示通り危険なものは排除し、嫌がらせ程度の被害になるように調整しております」


 今回のダンジョンの構成は、やってくる彼らの安全を第一に配慮している。

 そのため複雑な構造や、危険な罠や魔物を使用する事が出来ず、結果的な単調なものとなってしまっていた。

 それも仕方のないことだろう。

 今回の目的はあくまで彼らにダンジョンを楽しんでもらい、高価なアイテムを持ち帰ってここを宣伝してもらう事なのだから。

 無駄に迷って時間を無為にしたり、危険な目に遭わせる訳にはいかないのだ。

 彼らにはちゃんと用意された最終エリアまで到達してもらい、そこで今回の目玉の品を手に入れて貰わなければ困る。


「ふむ・・・罠の調整は問題ないんだな?ヒーラーがいるし回復アイテムを与えたから大丈夫だと思うが、強い毒やその後に影響が出るようなダメージを与えるものは避けているな?」


 ヴェロニカに説明は、このダンジョンの安全性を物語っている。

 しかしそれを聞いてもまだ安心しきれないカイは、しつこいぐらいにちゃんと安全に配慮しているのかと彼女に問い掛けていた。


「えぇ、大丈夫です。目潰しの胡椒爆弾、足止めのトラバサミ・・・は危険なので、スライムの体液で出来た鳥もちを配置しています。後はそうですね、落とし穴の中に無害な虫が溜まっているもの等でしょうか」

「落とし穴に虫か・・・女の子もいるし、それは止めておいた方がいいんじゃないか?」


 カイの心配に、ヴェロニカは配置された罠を一つ一つ述べることで対応していた。

 彼女が述べた罠は、基本的にほとんどダメージを与えないものであった。

 しかしやってくる冒険者の顔ぶれを思い浮かべるカイは、その中の一つが不味いのではないかと考える。

 やってくる冒険者の一人、アイリスは大人しそうな少女であった。

 その彼女がその虫の詰まった落とし穴にもし落ちてしまいでもしたら、肉体的ではなく精神的なダメージで再起不能になってしまうかもしれない。


「そう、でしょうか?それでしたら、それは―――」

「あぁ、こっちでやっておく」 


 アンデッドを扱うヴェロニカからすれば、虫などというものは怖くもなんともないのかもしれない。

 カイがその罠を嫌った理由に見当がつかないという反応を見せる彼女は、それでも彼の指示に従おうと指を伸ばす。

 しかしそれはコンソールへと届く前に、カイの手によって解除されてしまう。

 彼女はその指の行き先を迷わせたまま、どこか寂しそうな表情を見せていた。


「そう言えば、あれはどうなってる?」

「あれ?あぁ、あれの事ですね。あれは途中の地底湖に配置しております」

「・・・あれ?あれとは一体何の事じゃろうか?」


 危険な罠を解除したカイは、何かを思い出すとそれをヴェロニカへと尋ねる。

 その言葉に首を傾げた彼女も、それが何の事かをすぐに思い出すと、彼にそれを配置した場所を答える。

 その二人のやり取りに、一人蚊帳の外に置かれているダミアンだけが、きょろきょろと彼らの表情を見比べるように首を動かしていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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