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支配者の振る舞いに新参者達は不信感を募らせる 1

 新参者の魔物達は、初めてダンジョンに訪れた時と同じ大広間に集められていた。

 彼らはそこで種族ごとに集まり、何やら話し合っている。

 その内容はやはり、先ほどのカイの意味の分からない発言についてだった。


「なぁ、レクス。さっきの話、ありゃどういう意味だったんだ?」

「どうって・・・冒険者を歓迎するって話でしょ?そうとしか聞こえなかったけど・・・」


 その中でも一番大きな集団は、やはり数の多いゴブリン達のものだろうか。

 部族が違うのか、彼らは幾つかの塊で輪になって集団となっていた。

 その中でも一番大きな塊から、どこか聞き覚えのある声がする。

 そこではかつてカイと会話したレクスとニック、その二人のゴブリンが顔をつき合わせて先ほどの彼の発言について話し合っていた。


「ちっ、やっぱりそうなのかよ。聞き間違いじゃないかって思ってたんだがな!あいつ正気か?人間なんて敵だろうが!それをわざわざ呼び寄せるなんてよ!!やっぱり、あいつ人間のスパイなんじゃねぇか?」


 先ほどのカイの発言についてレクスに確認を取ったニックは、聞き間違いではなかったその内容に足を放り出して呆れ返ってしまう。

 彼らの住処を遠慮なく奪い取り、その姿を見かければ問答無用で襲い掛かってくる人間達など、敵という言葉以外に表現しようがない。

 そんな存在をわざわざ自分から招き寄せ、あまつさえ接待して帰すというカイの発言に、ニックは彼の姿も合わせてスパイではないかと疑っていた。


「しっ!不味いよ、ニック!そんな事、あの人達に聞かれでもしたら・・・」

「構いやしねぇよ!見てみろ、どいつもこいつも同じ事を言ってらぁ。この反応が当たり前なんだよ!」


 ニックの公然とカイを疑う発言に、レクスは慌てて彼の口を塞ぐと周りを窺い始める。

 その腕を煩わしそうに外したニックは、彼に周りを見るように示していた。

 ニックが示した先では、誰しもがひそひそと囁いている。

 その内容に耳をそばだててれば、ニックと同じような事を話しているのが聞き取れるだろう。


「だが、僕らはリンデンバウムに直接顔を見られてる。君なんて姿すら盗まれてるんだ、ニック」

「へっ、だから目をつけられてるかもってか?・・・なら、今の内に逃げ出しちまうか?」


 同じ言葉を話していても、彼らとニックでは意味が違ってくる。

 カイと直接言葉を交わし、その姿まで盗まれてしまったニックは、この中で唯一彼にその姿を記憶されている存在かもしれない。

 その危険性を語って諭そうとするレクスに、ニックはニヤリと笑うと声を潜め始める。

 レクスの耳へとその口を寄せたニックは、周りを窺いながら彼に逃げ出してしまおうと唆していた。


「ニック!?それはっ!」

「おっと、大声上げるなよ?それに、別に驚くような事じゃないだろう?俺達は所詮、あの化け物に無理やり連れてこられただけなんだ。やばくなったら逃げ出すさ」


 ニックの発言に驚き、大声を上げようとしていたレクスの口を、今度は逆にニックが押さえていた。

 彼は大声で自らの計画を周りに知らしめようとしていたレクスに覆い被さると、何も驚くことじゃないと笑いかける。

 カイに絶対の忠誠を誓っている側近達と違い、彼らは所詮力によって無理やり従えさせられているに過ぎない。

 逃げ出した所で文句を言われる筋合いはないと語る彼に、レクスは何か言いたげにモゴモゴと押さえられた口を動かしていた。


「ぷはっ!げほっ、けほ・・・逃げ出すだって!?そんな事、出来る訳がないだろう!万が一成功したって、どうする!?僕達の集落の場所は知られてる、結局見せしめに滅ぼされるだけじゃないか!!」


 ニックから口元を解放されたレクスは軽く咳き込むと、鋭く絞った声で彼を非難する。

 レクスはここを逃げ出せたとしても、進む先は地獄しかないとニックに主張するが、その言葉は彼に鼻で笑われてしまっていた。


「お前こそ正気かよ?こんなやばい奴らが近所に巣食っちまった時点で、あの場所はもう駄目なのさ。ましてやそのやばい奴らの頭は、人間に協力的ときてる。従っても駄目、従わなくても駄目とくれば、もう尻尾を巻いて逃げ出すしかないだろ?」 


 レクスが話した絶望的な予測は、まだ楽観的だとニックは笑う。

 彼は自分達の故郷の近くに、こんなやばい連中がやってきた時点で詰んでいたのだと話す。

 その馬鹿にしたような口調は、その事にこんな状況になるまで気づかなかった自らを嘲笑っているようだった。


「それは・・・確かに、そうかもしれない」


 ニックはもはや故郷に残った連中も連れて、一刻も早く逃げ出すべきだと語っている。

 その言葉は彼らの絶望的な状況を語っていたが、それを否定する言葉をレクスは持ち合わせていなかった。


「だろ?それに見てみろよ」

「何を・・・ん?彼らは一体・・・?」


 自らの意見に同意したレクスを助け起こしたニックは、彼にある方向を見るように促していた。

 その指示に従って視線をそちらへと向けたレクスは、何やらこそこそと動いているゴブリン達の姿を目にする。

 彼らは、レクス達とは別の部族のものだろう。

 頻りに周りを窺っている彼らの姿は、確かに不自然さの塊だ。

 しかし彼らのその動きに、わざわざ注目するほどの意味を見出せないレクスは、疑問の声だけを僅かに漏らしていた。


「あれは・・・まさかっ!?」


 しかしそれも、彼らがこの広間から外へと抜け出そうとするのを目にするまでであった。

 周りの目を頻りに窺っていた彼らは、ある時決意したように駆け出すと、そのままこの広間から出て行ってしまう。


「な、そう考えるのは俺だけじゃないって事だ・・・上の連中も、あの男の言葉に動揺している。それにあいつらのお陰で混乱も起きそうだ。いけそうだと思わないか?」

「た、確かに・・・」


 見れば彼ら以外にも続々と、この広間を出て行こうとする者達の姿があった。

 彼らの姿を眺めながら、それらには犠牲になってもらおうと話すニックは薄く笑みを作る。

 恐ろしい連中の動揺と、これから起きるであろう混乱を利用して逃げ出そうと誘うニックに、レクスは生唾を飲み込むと静かに同意の頷きを返していた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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