カイ・リンデンバウムのプレゼンテーション術 1
「お~い、おっさん!連れてきたぞー・・・って、あれ?どこ行ったんだ、あのおっさん」
駆け足で戻ってきたクリスの後ろには、二人の人影が若干遅れてついて来ていた。
僅かに上がった息を整えながら、両膝に手をついている大人しそうな金髪の少女が、おそらく彼が言っていたアイリスだろう。
そして姿のないカイの事を探して首を振っているクリスに、怪訝な表情を向けている黒髪で眼鏡の少年がハロルドか。
「クリス君!こっちだ、こっち!」
「なんだ、そんなとこにいたのか」
物陰から彼らの事を一頻り観察したカイは、そこから身を乗り出して彼らを手招いている。
その声に彼の姿を見つけたクリスは、怪訝な表情を浮かべながらそちらへとトコトコと駆け寄ってきていた。
「一応、口止めされているからね。人目を避けた方がいいかと・・・それで、君達がアイリスとハロルドかい?」
「は、はい!初めまして、キルヒマンさん」
「・・・どうも」
何故そんな所に隠れていたかという理由を語ったカイは、クリスの後ろの二人へと視線を向けて、確認するようにその名前を口にする。
それにアイリスは丁寧に頭を下げて答え、ハロルドはぶっきらぼうに返していた。
(ふむふむ・・・アイリスは素直ないい子って感じだな。ハロルドの方はぶっきらぼうだが・・・これはこちらを警戒しているからだな?中々頭が良さそうじゃないか。それに二人とも、クリスよりもいいとこの子って感じだな。身形がいい)
二人の振る舞いを固定した表情の裏から観察しているカイは、それにうんうんと頷いている。
彼らのその振る舞いは、それぞれに好感を抱けるものであった。
「それで、クリスの話では君達もダンジョンに同行するということだったが・・・それは本当かい?」
「えぇ!?ク、クリス!?」
「はぁ、まったく君は・・・」
目の前にした二人に、カイは確認したかった事実を告げる。
その言葉に、二人は揃って否定の仕草を見せていた。
「え~?二人とも言ってただろ、いつかこの三人でダンジョンに挑戦したいって」
「そ、それは・・・もっと大人になってからの話だよぉ」
「アイリスの言うとおりだ。今の僕達じゃ、危険すぎる」
二人の言葉を勝手に拡大解釈して、自分の都合のいいように歪めていたにも関わらず、楽観的な態度を崩さないクリスに、二人ははっきりと拒絶の言葉を告げる。
彼らのやり取りは計画の頓挫を告げるものであったが、カイの態度は落ち着き払ったものであった。
(ふむ、やはりそうか。このクリスという少年はあまり物事を深く考えなさそうだものな、こうなると思っていた。しかし・・・それは想定内なのだよ)
彼らのやり取りを目にして、カイは含み笑いを漏らす。
その表情は、自信に溢れたものであった。
「危険すぎる?果たしてそうかな?」
「・・・どういう意味ですか?」
カイは静かに、二人の懸念を払拭する言葉を告げる。
このまま二人でクリスを説得してその行動を諌めたかったハロルドは、予想だにしない方向からの横槍に、明らかに機嫌を損ねた表情で彼の事を睨みつけていた。
「そのままの意味さ。あのダンジョンには危険などないと言っているのだよ」
「ダンジョンですよ?それも未調査の・・・危険に決まってる」
クリスの説得を邪魔されて苛立ちの表情を見せるハロルドに、カイはウインクをしながら思わせぶりな口調でダンジョンの安全性を語る。
その言葉にハロルドはメガネの位置を直しながら、疑いの表情を強めていた。
(ふふふ・・・疑う気持ちも分かるぞ。しかし、安心してくれ!!あのダンジョンならば、大丈夫なのだ!何故なら俺が徹底して、君達の安全に配慮するからな!!)
彼らの事を全力で接待する事に決めているカイは、自信を持ってあのダンジョンは安全だと断言する。
その態度に、アイリスは感心したような表情を見せていた。
「そ、そうなんだ。そんなダンジョンもあるんだ、私知らなかったよ」
「そんな訳ないだろ!貴方も、適当な事を言わないでください!」
カイの言葉を素直に信じて感心の言葉を漏らすアイリスに、ハロルドはすぐさま否定の言葉を叫ぶ。
ハロルドの矛先はそんな適当な事を無責任に喋るカイへと向かうが、彼は余裕の態度を崩すことはなかった。
「ふふふ・・・それがあるのだよ。まぁそれについては、実際に行ってみて確かめてくれとしか言えないな」
ハロルドの詰問にも、カイはアイリスの言葉を肯定する言葉を続ける。
その振る舞いにハロルドはさらに眉を逆立てて反論しようとするが、それはそれまで黙って状況を見守っていたクリスによって止められていた。
「なぁ、もういいだろハロルド。アイリスも乗り気になってるんだしさ」
「う、うん。私も安全なダンジョンがあるなら、行ってみたいかなって。えへへ・・・」
「アイリス、君まで・・・」
カイの言葉にやる気になったのか、小さく拳を握ってみせるアイリスの姿に、ハロルドは絶望したように頭を抱えている。
その姿にもう一息だと意気込むカイは、切り札とも言えるアイテムを取り出していた。
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