クリス・ウィルビーとの出会い 2
「悪いが話せないな。君も聞いていたなら知っているだろう?口止めをされている、興味本位なら他を当たってくれ」
「違う!興味本位なんかじゃない!!俺は・・・俺は、冒険者になりたいんだ!!」
「ほほぅ・・・」
ぞんざいな態度で追い返そうとしていた少年も、それが冒険者志望となれば話も変わってくる。
ただのみすぼらしい少年から、未来のお客様候補へと華麗なる転身を遂げた少年に、立ち去ろうとしていたカイもしっかりと正面から向き直っていた。
(冒険者になりたいか。そうしてみると・・・ふむふむ、中々精悍な顔つきをしているじゃないか?これは将来は大物になるのでは?そうなれば将来彼が始めて挑んだダンジョンとして、うちが注目を浴びて若い冒険者が続々と、なんて事も・・・ふむ、悪くない。悪くない所か、すごくいいな)
冒険者を目指すと口走った途端、目の前のクリスの顔立ちが急に精悍なものへと見えてきたカイは、その未来を思い描いてホクホクとした心持ちに浸っている。
確かに彼の未来はとても明るいものかもしれない、しかしそれは今のカイにとって本当に必要なものだろうか。
(待て待て!今は将来の事よりも、目の前の問題だろ!!今ダンジョンに人を呼べないと色々と不味いんだよ!このまま収穫なしで帰ったら、絶対あいつら暴発しちゃうし。こんな子供に構ってる場合じゃないよな。はぁ、しかし・・・一体どうしたもんか)
何も起こらないダンジョン暮らしに不満を溜める部下達に、まだ信用の置けない新参者まで加わった今の状況は、正直あまりいいものではない。
カイには目下、すぐにでも結果を出すことが求められており、目の前の少年の将来にかまけている場合ではなかった。
「しかし君はまだ子供だ。そんな君を一人でダンジョンに向かわせる訳には・・・」
クリスが子供である事を理由に、カイは彼の行動を諌めて諦めさせようと試みる。
カイにはもはやこんな子供に付き合っている暇などなく、一刻も早くダンジョンの問題を解決する方法を探さなければならないのだ。
しかしその試みも、諦めきれないクリスが放った言葉によって粉々に粉砕される事となっていた。
「俺一人じゃない!!アイリスは母ちゃんから治療の魔法を習ってるし、ハロルドの奴も家庭教師から攻撃魔法を教えてもらってるって・・・お、俺だって、毎日剣の練習をしてるぞ!」
「んんっ!?そ、それは・・・中々いいな」
追い縋るクリスが放った言葉は、彼のパーティの編成についてだ。
冒険者とは、複数人のパーティを組んで活動するもの。
そして彼の語ったパーティは、回復役のヒーラーとアタッカーである魔法使いが存在する、中々にバランスのいいものであった。
(なんか良さそうな編成じゃないか?前衛の数がちょっと足らないのと、シーフとかのサポート役がいないのが気に掛かるが・・・いやいや、こんな田舎で組んだ面子と考えれば十分じゃないか?)
この世界の人間達の事情についてそこまで詳しくないが、魔王軍の中でも魔法を扱える人材というのは貴重であった。
とりわけ回復役のヒーラーの存在は貴重であり、それが最初から在籍しているクリスのパーティは、かなり有望と言ってもいいだろう。
「ふむ・・・君の気持ちは分かったが、先ほど話に出た彼らは本気なのかね?ここにはいないようだが・・・」
「大丈夫だって、キルヒマンさん!アイリスは俺が声を掛ければ絶対ついて来るし、ハロルドもちゃんと話せば分かってくれる。俺を信用してくれよ!」
「うむむ・・・しかしだな」
彼が話したパーティならばバランスも悪くはないし、ダンジョンに招いても問題ないように思える。
しかしそれは彼の言葉の上だけの存在であり、カイが実際にその目で確認した訳でもない。
それに目の前の少年のやる気が間違いないのは伝わってくるが、他の二人もそれと同じとは限らないだろう。
疑うカイに、クリスは信用してくれと訴える。
しかしその言葉を素直に信じられるほど、カイは純粋ではなかったし、クリスは逆に純真すぎた。
「分かったよ!じゃあ連れてくるから、ここで待っててくれよな!」
「あ、おい!」
言葉を濁して渋る仕草を見せたカイに、待ちきれないといった様子のクリスは、仲間を連れてくると話すと駆け出して行ってしまう。
そのスピードは、止める間もないほどに素早い。
後には彼を制止しようと伸ばされた、カイの腕だけが残されていた。
「ま、いいか。うちのダンジョンに訪れる、初めての冒険者の顔を拝んでおくのも悪くない」
立ち去っていくクリスの後姿を見送っているカイは、それも悪くないかと息を漏らす。
彼は自らのダンジョンに初めて訪れるかもしれない冒険者の存在に、興奮を隠せずにいた。
「あ・・・これ、買います?」
居なくなった話し相手に、よそ者であるカイへと村人達の視線が突き刺さる。
カイはその視線に、手にしていたままのポーションを差し出してそれの購入を勧めてみたが、やはりあの男が言ったようにそれを購入しようとする者が現れる事はなかった。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。




