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ボス戦 3

「あいつらの狙いは多分ボクだと思うから・・・マーカス君だけならまだ、逃げられると思うよ?」

「私一人なら、逃げられるんですか?それなら・・・って、そんな事出来る訳ないじゃないですか!?」


 先ほどよりは戦う気になっているように見えるマーカスも、その腰は明らかに引けている。

 それも仕方のないことであろう、今目の前にいる敵は、これまで相手してきた魔者達とは比べ物にならないほどに強大な存在だ。

 そんなマーカスの様子にリタは、逃げてもいいのだと語り掛けていた。

 彼らのターゲットとして定められ、逃げる事の許されない自分とは違い、マーカスならば見逃される可能性もある。

 そう語る彼女に一歩後ろへと向かおうとしたマーカスはしかし、すぐにそんな事は出来る訳がないと叫び声を上げていた。


「何で?あ、ボクなら別に怒らないよ?」

「あなたが怒らなくても、他の人が怒るんですよ!それも、猛烈に!!あぁもう、最悪だ・・・こんなの残っても死ぬし、逃げても殺されるじゃないですか!」


 どう考えても逃げ出したいと全身で表しているマーカスが、それを拒絶する理由が分からずにリタは困惑したように顔を傾けている。

 彼女はその理由に自分が怒るかと心配しているのだと考えたようだったが、マーカスは最初からそんなことなど気にしてはいなかったようだ。

 勇者のお付の者として鳴り物入りで派遣された彼には、その若さからも敵が多かった。

 そんな彼が勇者の護衛を放り出して逃げ出したとあらば、教会内での彼の評判は地に落ちるだろう。

 期待のホープとしての地位を失った彼を、教会の上層部がわざわざ庇護する訳もない。

 そうなれば彼はきっと、彼の事を目の敵にしている連中の手によって、人知れず命を落とすこととなるだろう。

 そんな未来を想像してしまったマーカスは頭を抱えると、この最悪な状況に対して心からの嘆きを叫んでいた。


「そっか、じゃあもう戦うしかないよね!」

「それはそうですけど・・・はぁ、やりたくないなぁ。どうして、どうしてこうなったんでしょうか?」


 マーカスの苦しい事情をまるで理解していないリタも、彼がもはやここで戦うしかない立場であることは分かっていた。

 そんな彼の事をどこか嬉しそうに歓迎したリタは、早く戦おうとセッキ達を指差しては示している。

 リタの言葉に同意したマーカスはしかし、望んでその状況追い込まれた訳でもなく、あくまでも気乗りしないと溜め息をついていた。

 そんな態度が、果たしていつまで続くだろうか。

 少なくとも、彼の手は今、リタによって握られている。


「じゃあ、マーカス君はあっちのトロールの相手をお願いね!ボクはあのおっきな奴をやっつけるから!それじゃあ、いっくよー!!」

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってくださいリタ!!ま、まだ心の準備が・・・ひぃぃぃぃっ!!?」


 いつまで経ってもその場を動こうとしないマーカスに、痺れを切らしたリタはその手を引き始めている。

 彼女はその途中でそれぞれの役割分担を話していたが、果たしてそれはちゃんと彼に伝わっているだろうか。

 簡潔にそれぞれの相手だけを話した彼女は、それで話は終わりだとその足を加速し始めている。

 それは最初の一撃を重くするための助走かもしれないが、まだ心の準備が整っていないマーカスからすれば、地獄までのカウントダウンを早める行為に他ならなかった。


『何だ?相談はもう終わったのか?じゃあ、もう待つ必要はねぇなぁ!!』


 リタが飛び掛ってきたことで開かれたはずの戦端も、今まで再び刃を交えることがなかったのは、セッキがそれを待っていてくれたからであった。

 それは圧倒的な実力差からくる、余裕の表れだろうか。

 少なくとも今、向かってくるリタ達に対して戦意を剥き出しにし、得物である金棒を担いだセッキの姿は、先ほどまでよりも何倍も巨大なものに見えていた。


『ミギに、ダリ!てめぇらはあいつの相手だ、分かってんだろうなぁ!!』

『わ、分かってるよ、兄貴!!』

『お、おで、頑張る!!』


 両手を大きく広げ、まるで飛び込んでくるリタを抱きとめるかのような姿で立ち塞がるセッキは、その得物を持っていない方の手で舎弟のトロール達に改めて指示を下している。

 リタに引き摺られてしまっているマーカスは、彼女の背中に隠れて見え辛くなってしまっているが、流石の彼らもその指示を間違えることはない。

 その二人のトロールはセッキの指示に威勢よく答えると、自らで作ったのであろう不細工な、しかし余りに大きく凶暴な形をした棍棒をその手に担いでいた。


「ひぃぃぃぃぃっ!!?やっぱ無理ぃぃぃ!!あんなの、人間が勝てる訳ないじゃないですかぁ~!!」

「大丈夫、いけるいける!!じゃ、頑張ってねマーカス君!!」


 その手に得物を担いだトロール達の迫力は、セッキと会話していた時のそれとは比べ物にならない。

 猛スピードで近づいてくるその迫力に、改めてそんな相手とはとてもじゃないが戦えないと恐怖したマーカスは、さらにその悲鳴を高くする。

 しかしそんな事を気にするリタではなく、そしてそんな事を気に掛けられる状況でもない。

 もはや一息で詰め寄ることの出来そうな距離にまで近づいてきたセッキの姿に、リタはあっさりとマーカスの手を手放すと、その身体をトロール達の方へと押しやっていた。


「ちょ、冗談ですよね!?冗談だとっ・・・いーーーーやーーーーぁぁぁ!!!」


 覚悟すら決められないまま押し出された絶体絶命の状況に、マーカスの悲鳴は一層高く響いている。

 その高音も、やがて金属が擦りあう耳障りな音によって掻き消されていた。

 それは、戦いが始まった合図だろう。

 勇者と、その命を狙う魔物達の戦いはここに始まり、そしてここに終わる。

 その結末を告げる者はまだ、ここに訪れてはいなかった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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