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彼女は躊躇わず飛び込んでゆく 2

「えー!でもさー、さっきボク達が戦ってるのに通っていった人達がたくさんいたよ?」


 そんなマーカスの指摘にも、リタは不満そうな声を上げている。

 それは、彼女のこれまでの旅路での経験からくる言葉であった。

 リタ達がここに至るまでに魔物と戦った回数は片手で余るほどだか、その間にも彼らが戦っている部屋を横断していった冒険者達を数多く目にしている。

 彼女はその存在を主張すると、マーカスに不満そうな表情を見せていた。


「それは・・・あの人達は引き上げている所でしたから、仕方ないといいますか・・・暗黙の了解で許されているのですよ」

「ふーん、そうなんだ」


 他の冒険者が魔物と戦っている途中に、乱入するのはご法度だ。

 しかしそのマナーを律儀に遵守していると、ダンジョンの奥へと潜っていったパーティは、いつまで経ってもそのダンジョンから出られなくなってしまう。

 その問題はこのダンジョンのように、一本道となっている構造のダンジョンではより顕著となるだろう。

 そのためダンジョンから引き返す場合に限り、例え戦闘中でも部屋へと立ち入る事が暗黙の了解として許されているのだった。


「じゃあ、ボク達はここで待ってるしかないってこと?」

「そうなりますね。ここまで走りっぱなしでしたし、ここらで一度じっくり休憩するのもいいのではないですか?」

「う~ん、ボクはまだまだ元気一杯なんだけどなー」

「あなたは、そうでしょうね・・・」


 マーカスの説明に素直に納得の態度を示しリタはしかし、まだどうにか先に進めないかとそちらへと目を向けている。

 彼女は次の部屋で戦っている冒険者達が、一刻も早くその戦いを終結させてくれる事を願っているようだったが、ここまでの道中走りっぱなしであったマーカスはここで一息入れたそうにしていた。


「ふぅ、どうやらまだまだ時間が掛かりそうですね。どうですリタ、貴方も少しは休んでみては?」

「えー、どうしよっかなぁ・・・あっ!?」


 この部屋から窺える次の部屋での戦闘状況は、どうやら中々苦戦しているようで、決着までにまだまだ時間が掛かりそうであった。

 その様子を目にして安心したように、その場にあった手ごろな石へと腰を下ろしたマーカスは、リタにも少しは休むように声を掛けている。

 そんなマーカスの声にも、リタはその辺をふらふらと彷徨いながら次の部屋へと視線を向けていた。

 そうして彼女は、そこに何かを発見したように声を上げる。


「あれ、あの時のお兄さん達じゃん!ねぇねぇ、マーカス君!知り合いなら、別に一緒の部屋にいてもいいんだよね!?」


 彼女が発見したのは、次の部屋で戦っている知り合いの姿であった。

 魔物に押されるように部屋の中を横切った黒髪の冒険者、エルトンの姿にリタはその場で飛び跳ねては喜びを顕にしている。

 他の冒険者が戦っている部屋に踏み入ってはならないというマナーは、お互いに知り合いであれば許される部分もあるだろう。

 そう考えるリタはエルトンの姿を指差しては、これで先に進んでいいだよねと、マーカスにキラキラと輝く瞳で主張していた。


「知り合いといっても、お互いに名前も知らない間柄では流石に・・・って、リタ!?待ちなさい!!」


 エルトン達とリタは知り合いといっても、お互いに顔を見たことがあるといった程度の間柄だ。

 リタの名前だけを彼らが一方的に知っており、こちらは相手の名前すら知らないという希薄な関係性では、流石にそこまで馴れ馴れしい行いをする事は出来ないと、マーカスは諭す。

 しかしそんな言葉には聞く耳すら持たずに、リタは既に走り出してしまっていた。


「ふっふふ~ん、結局一緒に冒険することになるんだよなー。これなら、最初からって・・・あれ?何か苦戦してる感じ?待ってて、ボクが今助けに行くよー!!」


 村で再会した時から一緒に冒険に行こうと誘っていたエルトン達と、ようやく一緒に冒険が出来る事にウキウキとした気分で弾んでいたリタは、彼らの様子を目にするとその場で足を止めていた。

 そちらへと近づいた事でよく見えるようになった彼らの戦闘の様子は、どうやら苦戦しているようで、あまり状況が良くないように見える。

 そんな状況の知り合いの姿に、勇者であるリタは一体どうするか。

 そんなのは決まっている、助けるのだ。

 彼女のその意思に呼応するように、聖剣アストライアは光を放ち、その力に慄くようにドクンと一度ダンジョンも鼓動したように感じられた。


「あぁ、もう!またこれだ!!えぇ、えぇ!分かっておりますとも!私もお供いたしますよ、勇者様!!」


 光り輝く聖剣をその肩に担ぐリタは、もはや振り返ることもなく次の部屋へと向かって駆けていく。

 彼女の姿はもはや、その光の軌跡に名残を残すばかり。

 この部屋からは見えなくなってしまった彼女の姿に、マーカスはその場で地団太を踏むと、自らの得物である杖を握り直している。

 どんなに嘆いてみても、彼は勇者のお付として任命された神官である。

 そんな彼が勇者であるリタを放っておいて、この場に居座る事など出来る訳もない。

 一頻り不満を叫んだ彼は覚悟を決めたように唇を結ぶと、そのままリタを追って全力で駆け出していく。

 その速度は、リタに勝るとも劣らないものであった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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