動き出した主とその部下達 1
カイが思わせぶりな台詞を残して立ち去った後の最奥の間には、セッキとフィアナが仲良くちょこんと座っている。
彼らはダンジョンコアが映し出すダンジョン内部の様子を眺めては、どこか呆けたような表情を見せていた。
「カイ様は、どこに行ってしまわれたの?」
「・・・姐さん。もう大丈夫なのか?」
「えぇ・・・心配かけたわね、セッキ」
そんな微笑ましい空間に、妖艶な声が響く。
開けっ放しだった最奥の間への隠し扉を通って現れたヴェロニカに、セッキは心配そうに声を掛ける。
そんな彼に軽く答えた彼女は、もう大丈夫だと薄く笑って見せていた。
「旦那なら、何か考えがあるって出て行ったが・・・」
「そう・・・二人は何を見ているの?」
ダンジョンコアが安置された最奥の間の中を見渡して、カイの姿を探していたヴェロニカは、すでに彼がここにはいない事実を聞かされて落胆した表情を見せる。
目を伏せたヴェロニカは、セッキと彼女の会話にも反応しようとせず、ぼーっとした表情で空中に映し出された映像を見つめ続けているフィアナに気がつくと、それが何かを尋ねていた。
「あぁ・・・いや、さっきまで旦那がこれに映ってたんだが―――」
「ねぇねぇ、すごいんだよ!!カイが向こうに行くとね、こう皆が・・・ざざーって、へ、平伏?したの!!」
ヴェロニカの質問に答えようとしたセッキの言葉は、嬉しげに声を張り上げるフィアナの声によって掻き消されていた。
彼女は身を乗り出すと身振り手振りを交えて、先ほど目にしたカイの振る舞いについて話している。
その勢いは凄まじく、彼女に詰め寄られたヴェロニカはたじろぎながら、目線だけでセッキへと助けを求めていた。
「わ、分かったから!落ち着きなさい、フィアナ!それとカイ様と呼ぶように、分かったわね?」
「は~い」
圧倒的な身体能力を誇るフィアナの力に、ヴェロニカが敵う訳もない。
部屋の隅へと押しやられた彼女はフィアナの肩を掴むと、必死に落ち着くように呼びかけていた。
その感触に叱られるかもしれないと思ったのか、途端に大人しくなったフィアナは、彼女の言いつけに気のない返事を返している。
その響きは、守る気のない者のそれだろう。
彼女のそんな態度に、ヴェロニカは困ったような微笑を浮かべていた。
「それで・・・何があったの、セッキ?」
「ん?つっても、大体はフィアナが言ったとおりだぜ?あぁ、皆ってのは俺が集めたゴブリンとか・・・まぁ、外の連中だな。そいつらと旦那が、なにやら話し込んでたんだよ」
元の位置へと戻って、足をぷらぷらと遊ばせ始めたフィアナの様子に安堵したヴェロニカは、改めてセッキに問い掛け直す。
彼女の質問にセッキは頭をボリボリと掻き毟ると、フィアナが話した内容が概ね正しいと話していた。
彼はその内容に僅かな補足を入れる、その言葉に頷いたヴェロニカは僅かに眉を顰めていた。
「それで・・・その者達が平伏したと?」
「平伏って言うか・・・俺には恐れ戦いていたように見えたがな。まぁ、意味としては同じかもしれねぇが」
セッキの詳しい説明を聞いても、いまいち状況が掴めないヴェロニカは、重ねて彼に事の詳細を求める。
彼は繰り広げられた光景にフィアナとは別の見解を述べるが、それは言葉の問題だけで同じ事を示していたのかもしれない。
「ふぅん・・・まぁ、何となくは分かったけど。何故、カイ様がそんな事を?」
「俺としちゃ、連中にここの指揮系統を教え込む必要があったから助かったがね?何を話していたかは分からなかったが、旦那がここのボスだって事は連中も骨身に染みて理解したろ」
フィアナとセッキの説明を聞いたことで、一通りの事態を把握したヴェロニカは、結局何故カイがそんな行動したのか分からずに首を捻っていた。
そんな彼女にセッキはニヤリと笑うと、カイの思惑をしたり顔で解説する。
彼が連れてきた魔物達はセッキの力に従っているだけで、このダンジョンそのものに屈服した訳ではない。
彼らはその頭を押さえつけてダンジョンに、ひいてはカイに忠誠を誓わせる必要があったが、その仕事は本来セッキが行うべきものであった。
自分の仕事を取られてしまったと笑う彼の表情は、しかしどこか誇らしげであった。
「そう。でも、そんな事にわざわざカイ様が出向くかしら?」
「確かにそうだが・・・通りがかったから、ついでだったんじゃないか?」
セッキの仕事は重要なものであったかもしれないが、わざわざカイが直接出向くほどのものとも思えない。
そこに疑問を感じ、自らの主人の更なる思惑を読み解こうとするヴェロニカは、唇に指を当てると思考を深めていく。
そんな彼女の様子に、セッキはもはやお手上げだと思考を放棄する素振りを見せていた。
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