カイ・リンデンバウムは全てを見通し指示を出す 2
「ねぇ、ダミアン。フィアナにどうにか、カイ様を連れて帰ってもらえるように頼めないかしら?ここに姿がないということは、あの子はカイ様の護衛にいっているのでしょう?」
カイが黙ってここを去ってしまったかもしれないという不安を振り払う事の出来ないヴェロニカは、フィアナに彼を連れ戻してもらえないかと考えていた。
通常ならばこの最奥の間でヴェロニカのお手伝いをしている彼女の姿は、今日は見られない。
であるならば彼女は、カイの護衛へと向かっているのだろう。
幾多の魔法を使いこなすダミアンであれば、今どこにいるかも分からない彼女とも連絡する手段を有しているかもしれない。
そう考えたヴェロニカは、藁にも縋る思いでダミアンへとそれを頼んでいたのだった。
「それはそうじゃが・・・しかし、あの子がそれに従うかどうか」
その手段がなくはないと匂わせるダミアンはしかし、それでもフィアナを動かすのは難しいと難色を示している。
普段は周りの言う事をよく聞く彼女であったが、主人への忠誠心は人一倍強いのも確かであった。
そんな彼女がダミアンやヴェロニカからの頼みであったとしても、主人の意に沿わぬ行動をするとは思えない。
ダミアンの態度にそれを悟ったヴェロニカは、悔しそうに唇を噛み締めていた。
「おいおい、何か暗いなぁ!どうしちまったんだ、姐さん?」
打つ手のない状況に、ヴェロニカは黙りこくってしまう。
そんな暗い空気が漂うこの部屋に、無遠慮な足音と大声が響く。
その大柄な身体をのっそりとこの部屋へと割り込ませてきたセッキは、俯いては暗い表情を見せているヴェロニカに対して、気軽な面持ちで声を掛けていた。
「セッキ!貴方、持ち場は・・・いえ、もうそんな事もどうでもいいことね」
「?本当にどうしちまったんだ、姐さん?いつもはもっと怒って、こう・・・喚き散らすだろう?」
自らの持ち場を離れて、この最奥の間へと足を踏み入れたセッキに対して、ヴェロニカは咄嗟に叱りつけようとしていたが、すぐにそれももはやどうでもいいと再び俯いてしまう。
彼女の怒鳴りつけられるのを待ち受けて、部屋の入口に僅かに身を屈めていたセッキは、いつまでもやってこないそれに拍子抜けしたような表情を見せていた。
彼は何とも言えない表情で後頭部をボリボリと掻くと、俯いたままのヴェロニカの下へと歩み寄っていく。
セッキの巨体にその圧力が感じられるほどの距離に彼が近づいても、ヴェロニカの表情が変わることはなかった。
「なぁ、爺さん。こりゃ、一体どうしちまったんだ?」
「ほれ、今朝方カイ様が姿を消したじゃろう?それじゃよ」
「あぁん?そんなのいつもの事じゃねぇか?」
もはや何やら一人でぶつぶつと呟きだしたヴェロニカからは、碌な返事は貰えないと悟ったセッキは、彼女へと哀れんだ瞳を向けているダミアンへとこの状況の説明を求めていた。
ダミアンはセッキにヴェロニカが今の状態に至った経緯を簡単に説明するが、それを聞いても彼は呆れた表情をするばかりであった。
「今回は少し事情が違うのじゃよ。この前、カイ様に我らが考えた勇者抹殺計画について説明したじゃろう?それに対してカイ様が不満を抱いたのではと、ヴェロニカは考えおるのじゃよ」
「ふ~ん、そうなのか?別に悪い計画じゃなかったと思うがな?」
「わしもそうは思うが・・・ほれ、今回の計画はカイ様が以前から考えておられた肝いりの計画じゃろう?当然求めるレベルも高くなってくるのじゃが、ヴェロニカはその期待に応えられなかったと気に病んでおるのよ」
カイが突然姿を消す事は、もはやいつもの事であった。
そんな程度の事でここまで落ち込んでいるのかと呆れた表情を見せるセッキに、ダミアンは今回は少し事情が違うと、彼女を擁護している。
しかしダミアンの説明を聞いても、セッキはどこかぴんと来ていないような表情をその顔に浮かべていた。
「そういうもんかね?別に旦那も、そんな不満そうにゃしてなかったと思うが・・・ま、正直俺には全然分からねぇ話だったから、ほとんど聞いてなかったんだがな!がっはっはっは!!」
ダミアンの丁寧な説明にも、セッキが良く分かっていなさそうな表情を見せていたのは、彼がそもそもその計画について理解していなかったからだ。
今まで適当に分かっている振りをしていたと正直に白状した彼は、豪快に笑い飛ばしてはそれを気にもしていないという態度を見せている。
そんな彼の姿に、ダミアンは呆れ果てたように大きく口を開いていた。
「お主は・・・まったく!少しは頭も使わんか!!この筋肉馬鹿めがっ!!」
「はっはっは!そりゃ、俺にとっちゃ褒め言葉だぜ爺さん!それに勇者とは戦えるんだろ?俺にとっちゃ、それだけ知れりゃ十分だからよ、他の事なんてどうでも良くてな!がっはっはっは!!」
何も考えていなかったと堂々と宣言するセッキに、頭を抱え込んで俯いてしまったダミアンは、再び顔を上げる彼の事を怒鳴りつけていた。
ダミアンからそんな風に叱りつけられても、セッキは気にした様子すら見せない。
彼にとってみれば、ダミアン達の計画など始めからどうでも良く、ただただ勇者と戦える事が楽しみで仕方なかったのだ。
その事を言葉にする事で改めて戦意が漲ってきたのか、筋肉をミチミチと鳴らしては興奮した様子を見せているセッキに、もはや処置なしとダミアンは再び頭を抱えてしまっていた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。




