ある冒険者達と商人の出会い 3
「ま、これは貰っといてやるよ。あんたはこれから、あの村に戻るんだろ?」
「そうですね、一度戻ろうかと考えておりますよ」
カイから受け取ったポーションを自らの荷物へと仕舞ったエルトンは、カイが現れた方向へと視線をやっている。
それは、アトハース村へと向かう方向であった。
「ダンジョンから戻ったら俺らも顔出すからさ、持ち帰ったもんを買い取ってくれよ。勿論、良い値段でな」
「えぇえぇ、それは勿論でございます」
ダンジョンで手に入ったものが、全て必要となる訳でもない。
彼ら冒険者にとって、そうした自らには不要なものを売り払う事は重要な収入源であった。
また商人にとってもそうした物品は貴重な商材となるため、そうしたものを頻繁に持ち帰る冒険者とは懇意になりたがる傾向があった。
エクトルはカイの行動はそうした下心があったからだと考え、それに同調する言葉を話している。
揉み手をしながらその言葉に嬉しそうな表情を作っているカイの姿を見れば、それは間違いではなかったのだろうと思われた。
「エルトン!キルヒマンさん、それ以上のことは追々という事で・・・私達は、ダンジョンに向かいますのでこの辺りで」
「あぁ、これはすいません!長い時間、お引止めしてしまって・・・」
エルトンとカイの和やかなやり取りは、何か焦ったような表情を浮かべるケネスによって割り込まれてしまう。
彼は二人の会話を無理矢理終わらせると、そのまま足早にダンジョンへと向かおうとしていた。
「あ、キルヒマンさん!気をつけた方がいいぜ!さっきオークの群れと遭遇したんだ、この辺りにまだいるかもしれないぜ!」
「これはこれは、ご親切にどうも。でも大丈夫ですよ。この辺りの亜人は、こちらから手を出さなければ襲ってきませんから」
二人の冒険者から離れ、一人アトハース村へと向かおうとしているカイに、エルトンが大声で呼びかけている。
それは彼らが先ほど遭遇し、ここまで逃げる羽目になったオークの集団について注意を促すものであった。
しかしそれを聞いたカイは驚くこともなく、動揺した様子も見せる事はない。
それは彼が自ら語っている内容が真実だと、疑ってもいないからだろう。
「へぇ・・・あの噂がまさか本当だったとはな。それならあんなに急いで逃げることもなかったな」
「それはそうかもしれないけど・・・それより!エルトン、どういうつもりなんだい!?」
嘘にしか思えなかった噂が、どうやら本当の事だったと知り、エルトンは驚きの声を漏らしていた。
あの商人が語った内容が本当であるならば、ここまで必死に逃げることはなかったのにと、彼は溜め息交じりに述懐している。
ケネスもその事に対しては同意を示していたが、彼にはそれよりも相棒に問い質さなければならないことがあった。
「あぁ?何の事だよ、一体?」
「あの商人との話しだよ!ポーションを受け取るのはまだいい・・・だけど、その後の話は何のつもりだ!?まさかあんな得体の知れない奴に、雇われるつもりじゃないだろうね!?」
ダンジョンをその収入源として、商いを行う商人には色々なタイプがいるが、その中でも代表的なのは自ら冒険者を雇いダンジョンへと潜らせるという商人だ。
ダンジョンから持ち帰ったアイテムを売買するだけの普通の商人と違い、よりダンジョンへと依存度が高い彼らの事を、人はダンジョン商人と呼ぶ。
そんな彼らと契約してダンジョンに潜るのはメリットもデメリットもあるが、一番大きいデメリットとして、あまり自由に活動できなくなってしまうということが上げられた。
それも勿論、契約する商人によって異なってくるが、少なくともさっき会ったばかりの得体の知れない商人などと簡単に交していい契約ではなかった。
「まさか、んなわけねぇだろ?別に、顔見知りの商人を作っておくのに損はねぇかなって思っただけだぜ?ダンジョン帰りに、ダクサスまで荷物持って帰りたくはねぇしな」
「それは、確かに・・・」
ケネスの詰問に、エルトンは軽い調子で否定してみせている。
彼はただ単に、ダンジョンで手に入れた品物を抱えて、彼らが拠点としている街まで帰りたくなかっただけだと話していた。
彼らが拠点としている街とダンジョンまでは半日とかからないが、それは身軽な今の格好であればの話しだ。
大荷物を抱えていればそれだけ足は鈍るだろうし、なにより山賊や盗賊、果ては同業者にまで狙われる可能性だってあるのだ。
それを考えればダンジョンで手に入れた物品は、最寄の村で現金化してしまうのが吉であり、エルトンの話にも一理あると、ケネスは釈然としないながらも納得を示していた。
「それより、さっさと行こうぜ!あのおっさんが言ってた事があってんなら、こっちの方向でいいんだろ?」
「あ、あぁ・・・その筈だが。そういえばダンジョンの入り口に、冒険者が集まっていて見つけやすいとか言っていたが・・・どういう事なんだ?」
散々迷ったためか、ようやく辿りつけそうなダンジョンに、もはや待ちきれないと様子をみせているエルトンは、さっさとそこに向かおうと相棒に呼びかけている。
彼が指し示している方向が間違ってはいないと頷いたケネスはしかし、先ほどのカイが話した内容に僅かな違和感を感じていた。
「さぁ?人気のダンジョンだから、人の出入りが激しいってことじゃないか?いいから行こうぜ!行ってみりゃ、それがどういう事かも分かんだろ!」
「お、おいっ!」
ケネスが口にした疑問に適当な言葉を返したエルトンは、彼の返事も聞かずに走り出してしまう。
あの商人との会話で十分休めたためか、彼の足取りは軽くあっという間に遠ざかっていき、ケネスの制止の言葉にも振り返ろうともしなかった。
「まったく・・・おい、少しは待てって!」
エルトンの振る舞いに後頭部を掻いては呆れの仕草をみせたケネスも、散々迷ったダンジョンに早く辿りつきたいのは同じであった。
先行する相棒に追いつこうと、駆け出したケネスの足は速い。
彼が先に進むエルトンに追いつくまでに、そう時間は掛からないだろう。
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