第5話『冤罪』
おっさんとユキは荷車に乗って、小さな村に立ち寄ったのだが、おっさんは街の人々にユキを奴隷にしていると勘違いされて衛兵に捕まってしまう。おっさんは濡れ衣を着せられ、尋問室で衛兵にムチで自白を強要されていた。しかしその時、ある男がおっさんのことを善人と呼んで、尋問を止めろと言い出した。
『そいつは犯罪者じゃなくて善人だからだよ』
おっさんの耳がおかしくなければ男はそう言っていた。
『はあ!?なんで奴隷を・・・れて・・人』
あれ、おかしいな。なんか声が遠くなってきたような?
そんな感じがしてきて、おっさんは意識を手放した。
おっさんは目を開ける、知らない天井だ。そしておっさんはベッドのようなものの上に寝転がっている。
あの時は確か、衛兵みたいなやつに濡れ衣で捕まってムチで打たれて気を失って・・・。
ぼんやりした頭が次第にクリアになってくる。
そしてそこで、俺のことを善人だとか言ってたやつもいたような・・・。
すると視界の外から
ガチャリ
という扉が開くような音がした。
『・・・おじさん?』
聞き覚えのある声だ。おじさんはその方向を見る。
『なんだ・・・ユキか』
何故かユキは今にも泣きそうな顔をしている。そして走り寄ってきておっさんにしがみつく。
『おじさんっ・・・!!おじさんっ・・・!!』
まったく、おっさんがそんなに心配だったのか?
その時、ユキが入ってきた扉の後ろから、また一人の男性が入ってくる。
その顔には見覚えがあった。おっさんがガイルと呼ばれる男に尋問を受けていた時に、おっさんのことを善人と呼んだやつだ。
そしてその男が口を開く。
『目覚めて早々に悪いが、謝罪させてほしい。おっと、自己紹介がまだだったね。俺の名前はレイン。この村の衛兵を務めている』
男は自分のことをレインと名乗り、おっさんに謝罪させてほしいと言ってきた。恐らく、ユキがあの騒動は濡れ衣だと証明してくれたのだろう。
『そうか、謝罪はいいが、それより俺をムチで尋問してきたガイルとかいうやつはどこだ?』
おっさんはガイルがしてきたことに少し怒っている。
『すまないね、あいつは正義感だけは強くて、あの騒動が誤解だと知った瞬間に部屋に閉じこもってしまったよ』
レインは苦笑いしながら答えて、おっさんの隣にある小さな机に何か金属のような音がする大きな袋を置いた。
『・・・これは?』
レインは答えた。
『慰謝料だよ、ガイルがお前に渡しといてくれってさ』
一応ガイルって奴も、悪いことをしたと思っているらしいし、まあ、仕方ないか。
『それで、君の名前は?』
レインが聞いてくる。そういえば名乗ってなかったな。
『おっさんの名前は茂 大丸、みてのとうりただのおっさんだ。少し前に、荷車に乗ってこの街に来た』
その言葉にレインは納得したような顔をして、おっさんに話しかけた。
『てことは、村の入り口にあった荷車は、君たちのものだったのか。でも、あんな変な形の荷車、どうやって運んできたんだい?』
どうやら、レインはあの荷車を見たらしい。しかし、村の衛兵でさえもあの荷車の形に疑問を持っているとなると、やはりあの荷車が特殊なようだ。
てことは、あの荷車は結構希少価値が高いものかもしれないし、本質を話すのはあまり良くないだろう。
『あれは、ちょっと特殊な構造でおっさんにしか動かせないんだ、起動したら、普通の馬車ぐらいのスピードが出る』
ということにしておこう。
『起動?』
レインは首をかしげる。
『あ〜いや、それよりこの袋にはどれぐらいの額が入ってるんだ?』
レインは答える。
『さて、大体20000Dくらいかな?』
『20000Dですか!?』
何故かユキが反応する。
『それ・・・馬と馬車両方を買える額じゃないですか・・・』
ユキは驚いた顔で、そう呟いた。
この世界の物価はよくわからないが、2000Dはそれほどのものらしい。しかし、いくらなんでもそんな大金、兵士が出してタダで済む額じゃない。ガイルという兵士とやらは、この先の生活は大丈夫なんだろうか?
『ガイルっていう兵士は、そんな大金吐き出して、この先大丈夫なのか?』
レインは笑ってこう答えた。
『大丈夫だよ、この金はアイツがカジノで適当に勝って手に入れた金だからな、生活費は別さ』
は、はぁ・・・ならいいんだが。
『それよりも、シゲはこの街にくるのは初めてなのかい?案内くらいはするぞ、間違えて捕まえてしまったお詫びに』
なんかさりげなくファーストネームを呼び捨てで呼ばれた気がするが、気にしないことにしよう。
『じゃあ、頼もうかな』
それに続いてユキも返す。
『よろしくおねがいします!』