第1話 『気がつくと森の中にいた』
どこにでもいる、普通のおっさんと捨てられた少女が異世界で暮らしていく・・・そんなお話。
おっさんの名前は『茂 大丸』41歳、どこにでもいる普通のおっさんだ。
一人称は『おっさん』、周りからのあだ名も『おっさん』、家族からも『おっさん』と呼ばれる、パーフェクトおっさんである。
そんなおっさんは仕事帰りに酒の肴用にコンビニで大量のサラミ、チーズを買い、ついでに飲料水も何本か買った。
コンビニから 30分ぐらい歩き、自宅である高層マンションに着いた。このマンションのエレベーターは今壊れているので、自力で階段を登り、ようやく自分の部屋がある12階までたどり着いた。
いまの状態を簡単に言うと、腰と足が死にそうだ。最近はあまり運動をしないので、体力の衰えを感じていたが、もはやここまでとは・・・。
肉体の疲労を感じながらおっさんは玄関の扉を開く。だが扉の先に見慣れた廊下は無く、気がつくとおっさんは森の中にいた。
『ここは・・・何処だ?』
木々に覆われ、殆ど日が差し込まない程深い森。おっさんは一体何が起きたのか理解出来なかった。
数分間考えているうちに、一つの単語が頭によぎる
『異世界』
まさか、な?
しかしそう言ってしまえばすべての説明がつく。おっさんが記憶喪失を起こして気がついたらここにいたように感じているとも考えたが、おっさんが持っているコンビニの袋がそれを否定する。
しかも植物の色がおかしい。緑と紫のシマシマ模様の果実に、スーパーキ●コのような色をした花。マジでここはどこなのだろうか?
とりあえず考えているだけではどうにもならない。まずはこの森を出なければ・・・。
おっさんは適当な方向に歩き出した・・・。
数十分ぐらい歩いただろうか。心なしか、木々の間隔が広がり、雑草が増えてきた。
『出口は・・・近いな』
そんな安堵の声を漏らしつつ、おっさんは森を進んでいく。その時・・・
ガサッ
思わず音に驚いてその方向を見ると、奥の草むらに隠れるように黒髪の少女がいた。年齢は10歳ぐらいで、髪は土で汚れてボサボサ、服はボロボロの布切れのような状態・・・そしてガリガリに痩せている。
なんだ、こいつ。と思って声をかけようと近付いたらたら、その少女は森の出口であろう方向に一目散に駆け出した。おっさんも反射的にそれを追う。
『おい、ちょっとそこのお前!なんで逃げるんだ!?』
おっさんは逃げる少女に叫んだが、よほど必死に逃げようとしているのか、返事はない。
しかし、少女は必死に逃げようとはしているが、足どりはフラフラで今にもこけそうだ。そう思った矢先、少女は草のツルにあしをひっかけて盛大に転んだ。
おっさんはその隙に距離を詰める。すると少女は怯えた目でこちらを見て、叫ぶ。
『嫌ああああぁぁぁ!!来ないでええぇぇ!!』
『落ち着け!おっさんはお前に危害は加えない!少しでいいから話をきいてくれ!』
とりあえずおっさんは攻撃の意思がないことを示すために、両手を上げて足を肩幅に開き、降参のポーズをした。
『・・・』ブルブルブル
携帯電話のバイブレーションのように震え続ける少女は黙ったまま動かない。やはり警戒されているようだ。そしてこの少女は痩せこけている。数日間は飯を食べていないだろう。
・・・そうだ!
『おいお前、その体じゃ、まともに飯を食ってないだろ』
そう言っておっさんはその場で動けなくなっている少女に、サラミの袋を開け、中身がこぼれないように少女の方に投げた。
『ヒィッ・・・』
少女は投げられた袋に驚き、小さな悲鳴をあげたが、中身が気になるのか、おっさんが何かしないかチラチラ見ながら袋のなかを確認する。
そして袋の中にあるものを取り出して、まじまじと見つめる。
『それは食べ物だ。安心しろ、毒じゃない。だが、白くて四角いのは食べるなよ』
少女はあまりに空腹だったのか、サラミを一つ口に入れたと思ったら、一つ、また一つと、次々に口に運び始めた。
『・・・おいしい』
『水もあるぞ、ほれ』
おっさんは、飲料水ペットボトルの蓋をゆるく開け、少女の方に投げた。
おっさんの行動を理解したのか、少女はゆるめた蓋をおっさんと同じように回して開き、中の水を少し飲んだ・・・と思ったら、すごい勢いで飲み干してしまった。
『これもおいしい・・・』
少女の目は輝いていた。どうやら空腹に相当沁みたらしい。
『美味いか?それは良かった。あと、もう一度言うが、おっさんはお前に危害を加えるつもりはない。だから話を聞いてくれ』
もうサラミの袋は空っぽになっていた。どんだけ腹が減ってたんだよ・・・
その言葉を信用してくれたのか、ようやく少女が口をきいてくれた。
『おじさん・・・誰なの?ここで何をしているの?』
『おっさんの名前は 茂 大丸、みてのとうりただのおっさんだ、おっさんは気付いたらこの森の中にいたんだが、お前はここがどこか知らないか?』
おっさんは、少女に問いかけた。
そして少女は虚ろな目で答えた。
『・・・わたしにも、わかりません』
少女は首を振る。
『わからない?お前はこの辺りに住んでいるんじゃないのか?』
『わたし・・・捨てられたから』
おっさんはその言葉に絶句した。そう、おっさんが異世界に来て初めて出会った人間は、捨て子だったのである。
次回「大草原」