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二人の少女

キーンコーンカーンコーン、というチャイムと共に授業が終わる。どうやらこの授業が終わるとお昼休憩が始まるみたいだ、もう四時間目が終わった。途中からの参加だったので、黒板に書いてある内容をノートに急いで写すが、間に合いそうに無い。


それに初めて見る内容だったので物語がさっぱりわからない、ていうかちいちゃんって誰だ…?書き写す意味はあるのか?




「沢良木くん、もうお昼だよ!」




ふと、後ろを振り向くと弁当を持って目の前に立っていたのは、先ほど助け舟を出してくれた紅髪の女の子だった。




「弁当も出さずにじーっとしてるなんて、もしかして沢良木くんもダイエット中とか?」「いや、そういう訳じゃなくて…」


「ふふふ、男の子がダイエットなんてよくないぞ~」




この少女はさっき席を教えてくれた事と言い、凄い気さくで話しやすそうだ、そして何より笑顔が可愛い。中学の頃から思春期が始まり、その時は女子とうまく喋ることがあまり出来なかった訳だが、小学生ぶりに同級生の女の子とコミュニケーションをする事ができた。


今までは何か喋られてもあたふたしてコミュ害が発作していたが、この学校でそれはどうにか克服できそうである。俺としても高校デビューは憧れていたため頑張らなければならない。




「ははは、冗談だよ冗談。沢良木くん痩せてるもんね~」


「そ、そうか?ていうかさっきはありがとな…」


「え、ありがとう?そういえば今から結奈と一緒にご飯食べるんだけど良かったら沢良木君もどう?あ、結奈っていうのはあなたの前の席の…」


前の席…?彼女に言われるがままに前を見た。


そこに写ったのは肌が透き通るように白く、髪と目共に春を想起させるような桜色で、かなりの美人だと思っていたこの紅髪の女の子を遥かに圧倒する程の容姿端麗美少女である。それに胸もでか…。




「沢良木くん?どうかしたの?」


「あ、いや別に」


「そう、結奈もいいよね、お弁当一緒に食べて」


「もちろんです、よろしくお願いしますね沢井さん」




沢…沢良木だけど…。


それにしてもこんな美人な子が席の前にいるなんて全然気づかなかった。友人にも敬語を使うなんて、流石元お嬢様学校と言われただけの事はある。


まあ俺から言わせてもらえれば今現在でも十分お嬢様学校な訳だが、こんな上品な女の子中学にも一人としていなかったし、多分住んでいた世界が違うんだろうな。




「あ、悪いんだけど実は俺弁当持ってきてないんだわ、今日は食堂の方に行こうと思ってたしさ、ごめんだけど…」


「それなら丁度いいよ!私実はダイエット中でね、お父さんの分もご飯作ってるんだけどちょっとばかり量が多すぎるって言われちゃって、捨てるのも勿体ないしさ、いっぱいお弁当に入れちゃったんだよね。成長期の男の子にはちょっと少ないかもだけどもし良かったらどうかな?」




そう言うと紅髪の彼女は弁当を俺の席に置き、中身を見せる。


箱の大きさは机の三分の一が埋まるくらいで、とても小柄な女子高生が食べ切れそうにないくらいのでかい三段弁当だ。入っていたのは一段目がから揚げ十五個、二段目が巨大おにぎりが七つ、三段目にミートボール六つ、冷凍と思われるミートソーススパゲッティが大量に、ブロッコリーが四つである。


どれも巨大な弁当容器にぎっしりと埋まっていたため驚きが隠せなかった。あまりの大きさで三段全てを俺の机に広げることは無理である。


とてもダイエット中の女の子とは思えない程の量、ていうか成人男性ですらこの量は多すぎると思うんだが…ダイエット中ってなんなんだ…。




「ははは、なんか悪いな、まあいっぱいあるし少し頂こうかな」




とにかく必死に笑顔でごまかし通す。まあ元々これを一人で食べようとしていたはずなんだし、俺はそんなに食べなくていいはずだ。




「うんうん、少しと言わずどんどん食べて!男の子は成長期にいっぱい食べなくちゃ!結奈も私も細身の男の子よりいっぱい食べる男の子の方が好きだし」


「私そんな事言ってませんけど…」




結奈さんの表情から察するに明らかに困った顔をしている。


普段は男の友達としか飯を食べた事がなかったが、こんな何気ない会話なのに女の子二人がいるってだけでここまで絵になるなんて、もしかして最高なんじゃないのか、元女子高。


俺も片手じゃ掴めないほどの大きいおにぎりを両手で一個掴み取り、口を大きく開いて食べてみる。


中身はフレーク状の鮭が入っていた。巨大なおにぎりだけど沢山鮭が入ってちゃんと食べごたえがある。凄く美味しいし、鮭は俺の好物だったので尚更良い。




「そういえば私まだ沢良木くんに名前言ってなかったよね」


「ああ、そういえばそうだったな」




彼女の言う通り不覚にも名前を聞き忘れていた。我ながら何とも失礼だな、と思いながら残りのおにぎりを無理やり全て喉に流し込む。




「私の名前は赤井凛、凛って呼んでいいからね!それでこっちが…」


「桜田です、桜田結奈。よろしくお願いします」




赤井に桜田さんか…二人の髪の色と名前を照らし合わせると何とも覚えやすい名前だ。それにしてもこんなレベルの高い美少女二人が同じ学校、それに同じクラスにいるなんて、女子高恐るべしだな…。




「あ、さっきも言ったけど俺は沢良木雄輝、つい最近栃木から神奈川に引っ越してきて、あんまりこっちの事はよくわかんないけど色々と教えてくれると助かる。呼び方については何でもいいけど、これからもよろしくな」


「そっかー、よろしくね雄輝君」


「うわっ!早速下で呼ぶのかよ!」


「ははは、だって何でもって言ったもん」


「全然いいけど、こっちも凛って呼ぶからな~!」


「私の方は全然いいって!ねえ結奈も…結奈?」




凛は訝し気に桜田さんを見ていた、その桜田さんの目線は俺らの方ではなく、窓の方に向かれている。特に変わった光景が映っているわけでもないのだが、何故か窓をぼんやりと。




「おーい、生きてるか~結奈~」


「はっ!すみません、ぼーっとしちゃって」


「たく、寝不足か~?結奈の事下の名前で呼びたいって雄輝くんが言ってたぞ~」


「ばっ…俺そんなこと言って…」


「だめです」




赤井が唐突に訊いた要求は一瞬にして桜田さんにバッサリと切られる。


育ちの良い家庭だからこそ男との付き合いはしっかりするように教育されているのかもしれない。でもいくらなんでもここまではっきり言われると少し傷つくな…。




「もお~結奈ったら少し固いぞ?仲良く仲良く!」


「………」


「ははは、だめだったみたいだね雄輝君」


「だから俺は言ってねーっての!」




桜田さんとはまだ壁があるものの、凛とは思ってた以上に今日一日で打ち解けたような気がした。あまり女の子と仲良くなる機会がなかった俺にとっては大きな進歩といってい言いだろう。


それからこんな会話があって、苦く楽しい時間はあっという間にすぎ、五時間目の授業が始まった。前の学校ではテストを終え、返却が終わったと同時に転校をしたが、この学校では今でもテストの返却が行われているらしく、この時間は英語テスト返却の時間である。


はっきり言ってこの時間はほぼ自由時間に近い。なんせ俺はこの学校の生徒になったばかりなのだからこのテスト返却とは全くと言っていいほど関係がない。




「赤井さん」


「はい!」




凛が呼ばれ席を立つと、テストの点を隠しながら席に戻ってゆく。


こう見えても目には自信があり、ちらっと覗いただけで点数が見えてしまったのだが、彼女の点数は九十とかなりの高得点だった。


いつも欠点ギリギリの処を行き来してる俺にとっては何故隠してるかが疑問であるが…。


それから次々と生徒が呼ばれテストを持ち帰るも皆七十、六十、五十とぱっとしない点数がほとんどである。




「桜田さん」


「はい」




前の席に座っている美少女の桜田さんが席を立つと、ほんわりと柔らかな香りが身体全体から漂ってくる。


今までにこんな香りを匂った事はなく、数秒間の間、香りに満ちたお花畑へ飛ばされたような気がした。


桜田さんがテストを貰うと、生徒のほとんどが桜田さんの方へ注目し、点数を覗こうと全員が色々な角度からそのテスト用紙に視線をあてる。彼女は決して隠す動作もせず、堂々としてる訳でもなく、ただただテスト用紙を両手で握りながら持ち帰る。




一瞬見えたのだが彼女の点数は百点だった。無いなと思い一瞬見間違えたのかと思ったが、周りもそれに勘づきはじめたのか「百点だって!」「凄いな~」とざわつき始める。先生は特に誉めるわけでも、感想を言う事もなく、テストの解説へと移り変わる。俺の前の学校でもそんな点数を取った人間なんていなかったため正直驚きつつあり、思わず「百点なんて凄いね」と小声で後ろから話しかけてみた。しかししばらく待っても返事は中々返ってこない。




小声と言っても声はかなり通る方だったので、聞こえない筈はないと思ったが。いきなり馴れ馴れしすぎたかなと言ってから後悔し始める。


でも、このまま恥ずかしい状態で引き下がるのも何なので、今度も小声で「百点なんて凄いですね」と今度は敬語を使って再挑戦してみる。しかし案の定、返事は返ってこない。


またしても心がキシキシと痛みだす。まあ赤井と仲良くしてるとその内この子とも打ち解けるだろう、あまり焦らないほうが良いのかもしれない。


そう思いながら窓越しに外を眺めていると、返事の代わりに小さくまとめられた紙が机に置かれた。彼女は決して後ろを振り向くこともなく、腕だけを後ろに伸ばした。紙は恐らく開くと何か内容が書かれているのだろう、クラス内で回しながら授業中に交換する手紙みたいなもののはずだ。


ひょっとするとこの紙にはもう喋らないで、馴れ馴れしいのよ、と絶縁宣言が大きく書かれているかもしれない。


二回声をかけたは良いが、恥ずかしさは増すばかりで、こんな手紙を渡されるくらいなら渡すべきじゃなかったと、更なる後悔から手に尋常じゃない汗が溢れ出ていた。とりあえず周りを見回し、誰も見ていないかを確認した後、恐る恐るこの小さい紙を解いていく。器用に丸められていたため簡単に解く事が出来たが、しわしわになった紙を広げてみると小さい文字で「放課後五時誰にも言わず理科室に来て」と書かれていた。


その手紙を見てほっと胸を撫で下ろす。


これは絶縁宣言でも、文句でもないはずだ、もしそうだとしたらわざわざ俺を呼び出したりなんてしないだろう。ひょっとするとラブレターか、と一瞬思いもしたが、流石にそれは無いだろうと思った。そんな世の中は上手く出来てない、それは俺も重々わかっている。俺はラブレターなんて産まれて一度も貰った事がないのだ、現実を見るんだ俺…。




「沢良木くん!」


「えっあ、はい?」




どこからか声が聞こえ、慌てて手紙を隠し、辺りを見回すと周囲の生徒はこちらを見ている。




一体なんだ…?




辺りを見回してる内に声の出所分かった、教師からだ。先生が俺の名前を呼んだせいで皆が注目し始めているらしい。




「ぼーっとしてどうしたんですか、もうテスト解説の時間は終わりですよ、教科書開いてください」


「あっ、すみません。今教科書を」


「まあ初日なんで色々と複雑な事があるかもしれませんが、これからは気を付けて下さいね」


「しゅ、しゅみません」




周囲から笑い声が一斉に湧き上がる。あまりに咄嗟の指摘に思わずしゅみませんと言ってしまったが…くそ…恥ずかしい。


俺がここに来た時には皆ほとんど誰も教科書なんて開かず、不真面目な態度だったが、ほぼ全員が教科書を開いて姿勢も正しくしていた。どうやら教師によって態度を丸っきり変えているのだろう。確かに見た感じ女教師だが、整えられた短髪に声が低く威厳がある。彼女に催促され大人しく教科書を開くも、内容はほとんど頭に入らずまたも一限が過ぎてしまった。




授業が終わるとさっきの紙を確認しながら桜田さんに「ねえ、この紙に理科室に来てって書いてあるんだけど」と訊いてみた。しかし、返事は返ってこない、完全に無視である。


こうなると本当に理科室に行っていいかも危うくなってきた。


彼女は人見知り?男と話せないタイプ?よくSNSなんかではそういった女子の悩みを聞く事が多いが、さっき普通に名前を言ってたのを思い返すとそこまで極度の人見知りじゃないような気もする…。彼女にもう一度話しかけてみようかと試みた時だった。




「五時、理科室は開けておくので五時に来てください」


「は、はい」




正面を向きながらノートに何かを書きながら、返事が返ってくる。あまりにも遅い返事だったので、正直驚いたが、どうやらこの手紙の通り、五時には理科室で何か用があるのは確かみたいだ。


しかし何で理科室…?っと訊いてみたいのは山々だったけど、彼女は多分俺の問いかけに答えてくれないだろう、余計な事を聞いて嫌われるものなんだしな。




「何々~二人とも何話してるの~?」


「ああ、まあちょっとな」




後ろから声をかけてきたのは紅髪がとても似合った美少女の一人、赤井凛だ。立った姿から身長は百五十くらいと小柄な体だったが、幼い顔つきだったので背の大きさは丁度バランスが良い。




「私もその話に混ぜてよ」


「ははは、大した話じゃないよ」


「ふーん、本当なの結奈?」


「ええ」




彼女はノートにまだ何か書きながらそっけない返事を返す。




「ちょっと、今日の結奈冷たすぎじゃない?」


「申し訳ありません、少しやらなくちゃならない課題があるので」


「ふーん」




俺は初めて話すので彼女のいつもを知らないでいる。


確かに初対面とは言えここまで無愛想な態度だと変に感じるが、いつも話してる仲の凛にもこの態度で、それに凛自体もそれをおかしく思っている。この子は内心何かを隠しているんじゃないか。それか調子が悪いのか、それとも俺がこの会話に混じっている事に彼女が違和感を覚えているのか。訊きたいことは山ほどあったが、それはこの手紙に書いてある通りに理科室で全て訊くことにしよう。

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