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お前の乳のサイズを教えろ

「ははははははははははははっ!」




血に染まった包丁を持ち歩き、逃げる女子生徒を追うように教室の扉にへと向かう。立ちながら俺を見ていた女子は悲鳴を上げ、俺から逃げるように教室の外へと飛び出す。別クラスからわざわざ様子を見にくるものもいた、口をぽかんと開けている。


そんな彼女達も死体となった桜田の姿を見ると、起きたことに察したのか、俺の顔を一瞥すると、声を掛け合って一斉にその場を離れる。今俺がどんな顔をしているのかはわからないが、口角が何故か上がっていた。俺の笑顔がよっぽど彼女達にとって不気味だったのかもしれない。包丁を持った俺は教室からでる事が出来た。三階、四階のベランダからは多くの生徒が野次馬のように俺を見ている。


彼女を殺したら目的は終了だったが、良いことを思いついた。




「今から、今からそっちに向かうぞ!一人残らずぶっ殺す!」




声は彼女達に届いたのか、数人がその場を走って離れ、それに続き、ぞろぞろとベランダから女子生徒が離れていく。


もはや復讐の事などどうでも良かった、桜田はこいつらのように悲鳴を上げなかったのだ。


何でもいい、殺す前にとびっきりの悲鳴を聞いてからぶっ殺したい。


―――俺に恐怖しろ…。


廊下に倒れこんでいる眼鏡の女子はこちらを見て、ぶるぶると震えていた。


その距離わずか十メートル。良い反応をしている、彼女を殺す事にしよう、なんだったらその後に俺は死んでもいい。


え…死ぬ…?


歩く足が止まりだす、自分が死ぬという言葉にどこか違和感を感じ始める。


その違和感の正体は俺が死ねば、また何事も無かったかのように金曜日から始まることだった。当然桜田は生きているし、また俺は桜田に殺されるのだ。




「い…嫌だ…そんなの嫌だ…」




掴んでいた包丁が手元から滑り落ちた。


このまま誰かの恨みを買い、もし死ぬような事があれば、桜田を殺した意味が無くなる。


俺が例え警察に捕まり、牢獄で数年を過ごすとしてもとにかく時を動かしたいのだ、もうあんな思いはしたくないのだ。


―――自首をしよう…。


気づき始めた途端に脳裏に浮かんでいたのはこの言葉だった。


俺は両手をあげる、例え誰かが近寄ってきても俺は抵抗をしない、大人しく捕まろう。


その時だ。




「よくもお姉ちゃんをおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」




両手を上げ、俯いた視線を真っ直ぐに戻す。距離は五十メートル、四十メートル、と段々近づいてくる少女がいた、こちらに向かい走ってくる、お姉ちゃんだと…?


唐突な言葉に頭は追いつかないでいたが、俺は急いで足元に落ちている包丁を拾い上げる。


向かってくる相手が警察じゃないとするならば危険だと察知したからだ。


だがしかし、彼女はもう俺の目の前に近づいていた、包丁を拾う頃にはもう遅い。


彼女の蹴りが左頬に直撃したのは直ぐの事であった。


痛みより気になったのは首の曲がり方だ、今まで俺の首がこんなにも曲がった事は人生の一度きりだってない。吹き飛ばされた俺は目がかすれ始め、宙に飛ばされている最中に見えた、彼女のパンツは、ぼやけていて何色かも曖昧で捉える事ができない。


二撃目がきたのはまもなくの事だった、俺は倒れた体を女とは思えないほどの馬鹿力で無理やり起こされ、目前にいる女の曲がった肘がまたしても左頬に直撃する、奥歯はどこかにへと飛んでいった。首は完全に曲がっては駄目な所まで曲がり、それと同時に口からは大量の血が溢れていた。まるでボコボコにやられているボクサーの気分だ。


三撃目は少しタメがあった、逃げたかったがバランスが崩れているため、この場を離れる事ができない。彼女のためで放たれた回し蹴りがまたしても左頬にへと直撃する。


ボキッっという音が鳴ったような気がしたが、いつの間にか意識は完全に消えていた。




「はあっ!…はぁはぁ…」




顔からは大量に汗が流れていた、辺りを見回すといつも見る光景、ベッドの上で横になっている。ベッドから起き上がり、首を触り回して、右と左交互に首を曲げてみる。


異常はない、ちゃんと曲げる事が出来た。




「ははは…はっはっはははは」




思わず笑い声が出てしまった。また全て振り出しに戻ったのだ。


殺された相手は見る限り桜田の妹といったところだろう、今思いだすと彼女の蹴りは素人の蹴りではない、あの柔軟な足といい、恐らく相当の凄腕な格闘術を持っているといっていい。


彼女は直感に身を任せたのだろうか、完全に俺を殺しにかかってきた。


それでも俺は自分が行った行為に不思議と後悔は無かったというか、今まで溜まっていたモヤを全て解消できた気がする。次殺す時は妹にも警戒すれば済むだけの話だ、また殺そうと思えばいつでも殺せる。だけど、俺はもうあの女を殺したくはない。もう誰も殺す気はない。俺はあの時分かった、狂気に満ちた人間はもう誰も人間として扱ってくれなくなる。だがやり直しが利いたおかげで、皆の記憶には俺が起こした過ちを覚えているものなんて誰もいない、だとすれば尚更あんな人外的行為はもうしないほうがいい。




「釣りにいくか」




ふと頭に浮かんだのは釣りだった、とりあえず釣りに行くことにしよう。


あんな事があった後にまた学校に行くのは精神的に持つ訳がない。俺が精神安定剤の代わりとして行っている場所が釣りと山登りだ。とりあえず引き出しを開け、私服に着替える。




「にいに!」




階段を上る音と一緒に聞こえたのは妹の声だ。妹が来ることをすっかり忘れていた、部屋には鍵なんかついていない。


「お母さんが呼んでって…ええ」


着替えてる途中の俺の上半身裸の姿を見て、明日香は驚いた顔で口を開けていた。


いやー、そんな驚いてるけどノックも無しに入ってきたお前が圧倒的に悪いんだからな。




「ノ、ノックしろ!」


「ご、ごめん」




明日香に怒鳴りつけると、ドンッと勢い良くドアが閉められる。


もしこの地獄の金曜日を乗り切る事があればこいつにお説教しないとな。


不思議と俺はまだ諦めていなかった、逃げられないのであれば立ち向かうしかない。




「ていうか!なんで私服に着替えてるのよ!」




一番嫌なツッコミを明日香はドア越しから飛ばしててくる、まあこのツッコミは俺が体験してきた一年で何度もされているので無視しても良い。


扉を開け、ドア付近に立っていた明日香を無視して階段を下りる。




「いってきまーす!」


「ちょ、っと!またんかい!」




母さんに気づかれることもなく無事家を脱出できた、財布はちゃんと忘れないようポケットにいれてある。




海風が吹く中、釣りをする事四時間、餌をつけた釣り針には何度か魚は食いついたが、その魚を無視し、もう一度何も無い釣り針にまた餌をつけて海水に投げこむ。


朝早くに来た事もあり老人に声をかけられたりしたが、オンラインゲームにいるコンピューターと思い込んで無視をする。今は今後の事を考えるのにいっぱいいっぱいだ。


もはや魚を釣ることなんてどうでもよかった、ただ魚が食いつくまでの時間が凄く落ち着くのだ。この餌に食いついている魚達も一度は釣った事があると思うと、なんだか親近感が沸いてくる。俺が餌を与え、魚がそれに食いつく、そして逃がす。ある意味でこれは魚と俺の協力プレイなのかもしれない。もし痛覚があるのだとすれば申し訳ないが、一般的に魚は無いと言われているため、同情なんかはせず海に針ごと投げることが出来た。


痛覚が無いなんてのは人間のエゴなのかもしれないが、俺は昨日初めて生き物にその痛覚を与えてしまったのだ。喧嘩なんて今までに一度もしたことがない、だが彼女には包丁を腹に勢いよく刺した、それも三回もだ。彼女は恐らく一回刺した後生きていただろう、小指がぷるぷると震えていた。しかし彼女は一切それを声にしてださなかった、何故かは分からない。よっぽどの痛みに耐えられる程のメンタルを持っているのか、なんにせよ彼女は俺が刺した包丁に悲鳴を上げる事なく我慢していたのだ。




「おおおおおい!聞いてるのかよ!」




さっきからあまりにもうるさい奴がそばにいるので、百均で買った耳栓をつけて無視していたが、どうやらそいつに耳栓を取られたらしい、まさか外されるとは思わなかった。


その正体は昼間っから酒に酔ったおっさんである。何人か話しかけてくる老人には無視で通用したが、このおっさんに無視は効かないようだ。




「てめえ、何耳栓つけて無視しとんじゃ、ああ?」




何故か胸倉を掴まれる、こっちを何もしていないので勘弁してほしい、こっちは一人で空想にふけているところなんだ。いつもはこんな時間から釣りにはこないのでここまで厄介に絡まられるのは初めてである、次からは時間をずらそう。




「だーかーら!!!聞いてんのかって!!!!」


「こらあなた!何やってるんですか!」




無視を貫こうと決めていた矢先、目の前には一人の少女が両手を腰に添えて立っていた。


その少女は餌を投げていた海と同じ、藍色の髪と同色の眼をしている。




「おん?琥珀ちゃんじゃねえかよ!」


「もう、やですよーおじさん、釣りをしている人に迷惑かけちゃだめですって!」


「へへへ」




琥珀?俺は彼女の顔に見覚えがあった、ていうか一時期いつものように話していたはずだ。


彼女は海岸近くに建っているしらす料理が有名なお店で働いている店員である。


だが俺の知っている子とは名前が違った。確か名前は白星青生、釣りに来た時はいつものように来ていたはずだが、今は十二時半、この時間帯には彼女は店にいるはずである。


それに琥珀、名前は違うが顔は瓜二つだ、ていうことはもしかして…双子なのか?




「おー?おやおや、もしかしてお二人さん、これを気に仲良くなれるんじゃないの~?あちゃーキッカケ作っちゃったなー、またおいら良いことしちゃったみたいね~」




茶化すように言った酔ったおっさんに少しムッとする。


だが一方で琥珀さんの方はフフフと笑みを浮かべていた。


おっさんは「青春だね~」と言いながら何も無い方向に向かい、砂の上を歩きどこかに行く。そのまま海に向かって沈んでもらってもいいが、まあ何はともあれ助かった。




「ありがとうございます、助かりました」


「フフフ、いいのよ、あなたさっきからずっとここにいるけどよっぽど釣りが好きなのね」


「まあ始めてまだ一日も経ってないですけど」




実質の話である、一匹も釣れていないのに納得したのか、また彼女は頷きながら笑みを浮かべていた。




「あなた青生さんと双子なんですか?俺は彼女と同じ学校で友達なんですけど、顔がそっくりだなーっと思って」


「ええ!?あお…いと…仲良いの?あなた。一応私が妹だけど…」




似ているというか本人そのものっていうくらいそっくりだ、そして何故か彼女は少し困惑したような顔をしていた。別に会話に詰まるような内容じゃなかったと思うが、俺にも妹がいるので分からないでもない、恐らく色々と姉妹の関係に複雑な事情でもあるんだろう。




「ええ、まあ、仲良いですね」


「へえ、ほお、青生の魅力に惹かれたんだあなた…」


「べ、別にそういうわけじゃ…」




喋り方や声まで本当に瓜二つだ、名前を聞かなければ恐らくどっちがどっちか見分ける事はできないだろう。




「よかったら何かお礼をさせてもらえませんか?すぐ近くに自販機があったと思うんで何か買ってきます、それでもし良かったらなんですがここで少し話していきませんか?」


「あら、デートのお誘い?私でよければ構わないわよ」


「いや、別にそういうのじゃないんですけど、ここで色々と話したい事があって」


「ふふ、そういうのってデートじゃないの?」


「だからそういうのじゃ…」




琥珀さんはからかうように笑みを浮かべる。彼女はやたらと落ち着いた雰囲気だったので、緊張する事なく話すことができた。双子だからか雰囲気も何もかもが姉である青生さんとそっくりだった。姉が持つ話しやすさという独特な雰囲気も琥珀さんには備わっているようだ。




「飲み物なら私はいいわよ、喉潤ってるから、それで話って?」


「あ、え、えっとそうですね、女の子の事です、俺は男なんで分からない事があって、参考になればいいかなーと…」


「フフフ、男の子がよくする相談ね」


「男の子にですか?一回そういう相談をされた事があるんですか?」


「まあね、皆から言われるけど私は相談しやすいタイプらしくて」


「へえ」




海風が吹き、俺と琥珀さんの髪が勢いよく逆立つ。


微かだが彼女の髪からは落ち着いたミントの匂いを感じた。




「具体的な事は話せないんですけど、何回挑んでも何回挑んでも失敗が続くんです、俺はこれからどうしていけばいいのやら…その先が自分でもわからなくて」


「ふーん、何回挑んでもねえ、フフッなるほど、でもあなた何回挑んでも駄目だったのに私に相談するって事は、まだ諦めてないってことでいいのかな?」


琥珀さんは少し微笑んだ後、納得したような顔で訊いてくる。


「ま、まあそれも含めての質問です」




恐らく彼女が思っている内容は恋愛の事だろう、女の子の相談といえば普通ならそれくらいしか当てはまらない。彼女が考えだそうとしている答えとは全く違うのだが、俺はそのまま話を続ける事にした。




「そうね、しつこすぎる男って嫌われるってよく聞かない?でもね、女の子は相手がしつこすぎるとそれだけ私を愛してくれるんだって思っちゃう時もあるのよ、厄介でしょ?私の友達にも何度も断り続けたのに、何回も告白しにくるから付き合っちゃったって子もいるみたいだし」




やっぱり、勘違いしている、俺は生態としての女の子の事を知りたかったんだが、初めて会った女の子にそんな話をするのは変だなと思いやめた。ていうかこの世界が変なんだから、彼女には何でも質問にだけ応じてくれるロボットになって欲しかったが、そうもいかないのだ。




「だから望みがあるのなら挑み続ける事が大事かな、そうすればきっと何か見えてくるものがあるんじゃないかしら」




彼女の言い分は相手側がこちらの努力に共感し、それだけ思ってくれているのだ、と認識する事にこそ価値があるのではないかという考えだろう。


だがしかし、生憎桜田にその手段で通用する事は無い。何せこちらが覚えていたとしても向こうは何一つ記憶に残ってないのだから、そもそもを言えば俺の行動は俺以外の人間は覚えていないのだ。ただ同じ金曜日をループし続けてるなんて誰も気づいてないだろう。




「それか押して駄目なら引いてみるとかね」




押して駄目なら引いてみる?


何故だかその言葉に引っかかるものがあった、きっとこの言葉には隠された何かがある。探り探り当てはめていけばきっと何か見えてくるものがあるんじゃないだろうか。


琥珀さんが言う押すという行為が挑むという行為なら、引くのは挑まない?いや、そうじゃない、もっと何かこう、別のもののはずだ。


横にいる琥珀さんに構わず、思考をフルに回転させた。発想を逆転させれば何か答えが見つかるかもしれない。桜田には記憶が無い、そして俺には記憶がある。だったら…俺が彼女に合わせていけばいいんじゃないだろうか、俺は今まで彼女の考えに合わせる事なく、ただ闇雲に殺すか逃げることばかりを考えていた。自分の事しか考えず、向き合ってすらいなかったのだ、彼女に。あいつにもきっと訳が合って俺を殺したはずだ、だったら話し合える手が何かあるんじゃないだろうか。だが彼女は極度の男嫌いである、最初の金曜日に俺は現に彼女と話そうとした、だがその結果があれである、普通のやり方では一筋縄ではいかないだろう。


だったら普通じゃない別の何か…何かだ…きっと後一つ、何かがあればいけるはず。




「他に質問はあるかな?」


「質問か…」




桜田が俺を殺した時の事を思い出す、彼女は俺を殺す前に、必ず聞いてくる言葉がある。『殺す前に一つだけ。あなたが死ぬ前に質問なら何でも一つだけ答えてあげます。』


何で今まで気づかなかったんだ…いや、とても話し合いと言える訳じゃないが、やり方によっては彼女の事を知れる良い場面じゃないか。


彼女は俺を殺す前に必ず聞いてくる言葉がある、それが質問になら何でも答えるという事だ。そして彼女が言う事が本当なのだとすると、彼女の情報を少しでも引き出せる事ができる。決して確実性がある手段ではないが、今はなんでもいい、小さな望みでもそれにかけるしかない。




「琥珀さん!」


「え、ええ?どうしたの?」


「ありがとう!凄く凄く参考になった、絶対忘れたくないから今すぐにでもメモしたい気分だよ!」


「よ、よく分からないけど参考になったのなら良かったわ」




いつの間にか彼女の両手を包み込むように、両手で持ち上げていた。


急いで手を放して、自分のしている事に気づいて焦ったが、琥珀さんは優しく微笑んでいる。正に今の俺に彼女は天使以外の何者にも見えなかった。




「本当にありがとう!俺行かなきゃ、青生さんにもよろしく言っておいてくれ!」


「ええ、お姉ちゃんに伝えておくわ、頑張れ!少年!」




お姉ちゃんと彼女は言った、最初に会った時は確か青生と言っていたが…ともかくそれは今はいい。俺は走る、目的場所は自宅だった。


学校に行かない日の記憶はいつもお昼に近づくたびに少しずつ思い出してくる、つまり遅い。しかし、起きて直ぐに記憶の中から鮮明に思い出せる方法があった。


それは学校に行くことである、メモなんかとってもはっきり言って無駄だ、俺が琥珀さんから今言われた言葉を直ぐに思い出せるようにするにはなんとしてでも今日中に学校に行かなければならないのである。


俺はいつも学校に来るときのように自己紹介をさせられていた、もう五時間目だからか、先生の反応やら生徒の反応は以前と違ったものになっている。


担任じゃないっていうのもあるのだろう、それに自己紹介も慣れたせいではきはきと喋れるようになっていた、そのせいで赤井も何の反応をしめさない。




「ええ、ありがとう下がっていいわよ」


「はい」




お堅い先生なのだろうか、自己紹介が終わってからも全員が無表情で無反応である。


だが帰って都合がいいな、もし次死んだとしたらこの時間に行くことにする事にしよう。


自己紹介をして即行僕は眠る事にした。


時間になるまでは特にする事がない、更に先生が注意をする事もなかったので余計に眠りにつくことができた。




時間はあっとういう間に過ぎた。


快晴の中、自分以外誰もいない路地を歩く。案の定後ろには女が立っていた、奇形ナイフがいつの間にか俺の首元目掛けて向けられていた。




「動かないでください」




声主は言うまでも無く桜田だ、以前と同じで近くにいるため豊満な胸が背中に密着している。痛みもあるので、死に慣れることなんて流石に無かったが、ちょっぴり嬉しくもあった。




「もし叫びでもしたらあなたの喉元を切り裂きますので、大人しくした方がいいですよ」


叫ばねえよ、と心の中で呟いたが彼女は返答を待たずに次の言葉が飛び出る。


「では最後です、殺す前に一つだけ。あなたが死ぬ前に質問なら何でも一つだけ答えてあげます。それとも何か言い残したい言葉でもあれば言ってもらっても構いません」




来た…正直何の質問をするかはずっと考えていた事がある、だがしかし彼女が俺を殺したことによってそれを自然的に遠ざけていたのかもしれない。


ていうかこれは俺と彼女が会ったときにずっと気になっていたことでもあった。




「あ…ある…」


「何でしょうか」


「何カップ…なんだ?」


「Hカップです」




ナイフが心臓部に振り下ろされる。


質問に答えてくれた事の驚きによって、その痛みは少しばかし遅れたのかもしれない。


そしてその遅れた分の時差は死ぬ間際に感じる一瞬の痛みから逃げるには十分すぎる程の時間であった。 

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