勇者、図書館で猫耳少女に出会う
案内されたのはカナリアが通っていた大学にある付属図書館だった。
一般人向け閲覧フロアのテーブル席で待つように言われるとカナリアが資料を別フロアから持ってきた。
「何これ!?本物そっくりの絵だ」
「ファリアは写真を見るのははじめてか」
ちなみに俺は勇者なので自分のブロマイドが発売される時に撮影されたこともある。
数枚の特殊な板をカメラに入れて1枚5分くらい待つと原版が出来上がる。
それを加工して印刷するのだ。
完成した原版は写真入りの本を作ったり、有名人のブロマイドや観光地の絵はがきを作ることに使われる。
複製しない場合は直接写真を撮影する事も可能だ。
モノクロのみではあるが写真は富裕層を中心に趣味として最近人気がある。
「カメラって光に反応する微生物を使ってるのは知ってる?」
「微生物って生きてるのか!?」
「写真になったら死んでるけどね」
光を嫌う微生物が5分くらいでちょうどいい感じに移動するので、それを熱すると死んで定着するのが写真となるらしい。
印刷する場合はそこからさらに特殊な酸で原版を溶かして版画の要領で増やす。
カラー写真の場合は赤や青など決まった色に反応するようにして、多色刷りで印刷する仕組みになっている。
版は1色分づつしか作れないので、俺のブロマイドは2色刷で10分ちょっと動けなかった。
ブロマイドによっては1時間くらい動けない事もあるらしい。
「酸で溶かすときに微生物は溶けちゃうから安心してネ☆」
「いや、最初の微生物の時点で生理的に気持ち悪い」
被写体になった時のちょっと照れつつ嬉しかった記憶に泥を塗られた気分だ。
「お貴族様には内緒だゾ☆」
「私にも内緒にしておいてほしかった」
ファリアは涙目になっていた。
「カメラだけなら私も作れるから今度作ってあげるよ」
「えっそんな残酷なものいらないよ」
ちなみにカメラだけなら箱に針で穴を開けるだけの単純な仕組みなのだそうだ。
「まあ、記録写真は撮るけど気にしないでね」
…って写真は結局取るんかい。
途中でずいぶん脱線したけれど俺たちは建物や風景の写真を見てさっさとどんな家を作るか決めることにした。
「確かに、こうして街の写真を見ると建物を揃えるってのは大切なんだな」
例えば商業都市は各地の商人が自分の故郷を元に建物を建てるので、建築様式や色も様々だ。
活気があって悪くは無いがごちゃごちゃして落ち着かない。
続いて砂漠地方の町、城下町、山間部の村などを見比べる。
決まった色の建物が並んでいるのは確かにいいと納得した。
「でしょ。とりあえずテーマカラーはあった方がいいわけよ」
「じゃあ外壁が青だから青で」
「魔王の城のまんま使い回しじゃん」
「普通に都市1つ分の壁なんだから広すぎて手直しは無理です」
「ルトの髪も青いしいいと思う」
「ただ、壁と同じ色だとちょっと暗いよな」
現在の外壁は紺色に近い青だ。
この色の建物を並べるのはちょっと地味だ。
「色んな色の煉瓦をミックスするとか?」
「そんな細かい加工はお金取るよ。金貨で」
建築魔法でレンガ造りの家は作れなくも無いが細工になるのでさすがに別料金と言われた。
「魔剣ブレイカー、レンガはあの土地で作れるか?」
「可能だ」
「じゃあ追々増改築の時考えるか」
普段住む家が出来たら当初の予定通り自分でゆっくりやっていこう。
「今のところ2世帯で増える予定もなかったけど、こうして町並みを見てると色々増やしたくなるな」
「ボク、職場と家を分けたい」
「それなら俺も久々に鍛冶仕事をやりたい」
ちょっとづつ方向が決まるような決まらないような感じで話が進む。
「ま…魔剣ブレイカー!?」
机に剣を置いた状態でしゃべっていたら、突然声をかけられた。
ちなみにこのフロアは今回のように複数人で調べものをする為、あまり騒がなければおしゃべりOKである。
「ほう。ワシがわかるとはお主ただ者ではないな」
線の細い猫耳少女が目の前にいた。
背は低いがちょっと胸が大きくて、眼鏡をかけているのでキャラは濃い。
何か起こると俺は本能でそう感じた。