勇者は空気だった
ここで暮らす決心はついたけど、ただ広いだけでなにもない土地だ。
外壁はあるけど建物がない。
「とりあえず村に買い出しに行きたい」
「ほえ。村ですか?」
「まだ家も無いから、出来ればファリアの家にしばらく泊めて欲しいけどいけるか?」
「わ…私の家…」
村って時点で嫌そうな顔をしたファリアだったが、家に泊めてくれと言ったら更にすごく嫌そうな表情になった。
一応、魔王の娘だから迫害を受けているのかもしれない。
「まだ正式に届けを出したワケじゃないけど、これからは勇者の嫁になるんだろ?堂々と帰ればいいじゃないか」
「そうですよね」
若干表情が戻ったファリアと俺は村へ向かった。
村と言ってもまだ復興真っ最中なので、建物は修繕中だし物資も少ない。
それでも魔王の驚異が消えたことで村は活気に溢れていた。
俺たちに気付くまでは…
「忌み子のファリアじゃないか」
「なんで戻ってきたんだ?」
「あんたがいたらまた、魔物が来るかもしれないだろ。やっと俺たちの村に戻れたのに」
「悪いけどアリアの家はダニーの息子一家に譲るんだからな」
人だかりができたかと思えば口々にファリアを罵り始めた。
アリアはファリアの母親で、避難していた土地で魔王を討伐する前に亡くなったそうだ。
「とにかくここに戻られても迷惑なんだ。とっとと出てってくれ」
「うひっ…ご、ごめんなさい」
はじめて会ったときは元気な子だと思っていたけど、今はろくに喋れないくらいくらい怯えて萎縮してしまっている。
「あの、家に残ってる荷物を取りに行かせて下さい」
それだけ小さく呟くと走っていく。
ちなみに村人から俺は完全にスルーされていた。
冒険者が村娘を保護したくらいにしか思われていないのだろう。
とりあえず見失わないうちにファリアを追いかける。
まだ修繕されていないボロ家にたどり着く。
「ファリア!」
ドアを開けて彼女の名前を呼んだ。
「勇者様ぁ」
ファリアはボロボロ泣いていた。
俺は彼女を抱きしめ背中をポンポン叩いた。
村人の姿を見て思ったが、彼女の服はひどくボロボロで、髪も肌も状態が悪い。
今までは魔王がいたからみんなボロボロだったが、世界は復興してきているのだから、それでこのボロボロ具合はおかしい。
今までずっとひどい扱いを受けてきたのだろう。
「私がちゃんと人間じゃないから…人間じゃないから…」
「もう魔王はいないんだ、半分くらい血が混ざってても俺は気にしないよ」
「ありがとうございます…でもぉ」
「いいからさっさと荷物をまとめて出ていっちまおーぜ」
ガチャ
その時ドアが開いた。
「ファリアちゃん。すまないねぇ新しい村長がアイツでさえなければ」
「いいんです。それに魔物が私を魔王の後継者に仕立て上げようとしたのは事実なんですから」
魔物は追い払えたがその時、前村長がファリアを守り命を落としたのだという。
「これ、アリアから預かってた指輪と村のみんなが用意したお金だから、冒険者さん。どうかこのお金でこの子をどこか遠くへ連れて行って下さい」
「あのー俺はただの冒険者ではなく…って説明する前に帰っていたよ」
指輪はサイズが合わなかったので紐に通してペンダントにして身に付けることになった。
ファリアはまだ幼い少女なのでもう少し成長すればちょうどいいサイズになるだろう。
その後、荷車に必要な荷物を積んで俺たちは村を出た。
手を振るわけでもなくただ俺たちが見えなくなるまで俺たちの姿を村長は静かに見つめていた。
ここからギルドまでは歩いて数時間の距離だ。
魔王討伐を目指す冒険者たちので溢れる危険だけど活気のある冒険者ギルドの自治区だった。
魔王討伐後は転移魔法で王都に戻ったので現在の様子はわからないが、おそらくまだ残っているだろう。