勇者、何故か結婚する
ブラックアウトしてそのままかと思った俺の意識はしぶとくもこの世に戻ってきた。
頭部が暖かくて柔らかい。
そして、髪がずっとくすぐったい。
「う…うん」
重い目蓋を持ち上げると、空色の髪をした少女と目があった。
太陽の光のような薄い金色の瞳をした目が驚きでまん丸くなっている。
くすぐったかったのは彼女がずっと俺の頭を撫でていたからだ。
頭が暖かいのは彼女が膝枕をしていたから、意識が戻ってきたのは彼女が水を分けてくれたからである。
「目が覚めたぞ」
「うむ。かたじけない」
魔剣ブレイカーも無事だったらしい。
「…なんで?」
「なんでって、助けを求める声が聞こえるから見に行ったら人が行き倒れてたんじゃない」
ぷにっと鼻を摘ままれた。
「なにをするんだ」
苦しくてもがく。
「ははは。ごめんごめん、つい」
もがこうとするがうまく身体が動かない。
でもまあ、美少女の膝枕は悪くない。
「ありがとう。助けてくれて」
今命があることについて、まずは感謝せねばと俺は彼女にお礼を言った。
「どういたしまして、旦那さま」
「だ…?」
「お水を飲んでくれなかったから口移ししたの。最初にキスをした相手と結婚する決まりだから」
「け…結婚だと!?」
かばっと起き上がるとそのまま貧血を起こして俺は再び倒れた。
「私もまさか勇者と結婚するとは思わなかったわ。親の仇なのに」
親の仇ってサラッと言われたけど、俺はこの子の親を殺したというのか?
「私ね、母は村娘だけど、父は魔王のワケあり娘なの。レイプされて生まれたから仇といってもよくぞ殺してくれたって感じだから安心して」
なんでも魔王が倒されたことで元々この先にあった村の住人が土地に戻ってきたというのだ。
魔王に滅ぼされた村や町はそこら中にあるのだから、魔王がいなくなった今、人が戻ってきてもおかしくはない。
「だから、何にも気にせず私をお嫁さんにしてね」
「気にするだろ。俺は勇者の称号はあるけどパーティーもクビになって財産も金貨1枚分も残っていないんだぞ?」
パーティーに所属していた頃も命懸けの職業だったので結婚を考えたことはない。
「ここの村民だって金貨1枚分も蓄えなんてないわよ」
「口移しで水を飲ませるなんて緊急事態だろ?ノーカンだ。忘れろ」
「私が忘れたら勇者様はどうするの?」
「こう見えても剣の腕には自信がある。なんとかするさっ…むぐっ」
水の口移しとか関係なくキスをされた。
とんだ押し掛け女房だ。
「絶対お嫁さんにしてもらうんだから!」
「…幸せにしてやる保証はないからな」
何も残ってないのに嫁だけできてしまった。
「私の名前はファリア。よろしくね」
そう言うと彼女は俺にビスケットを渡してくれた。
ゆっくり身体を起こしてそれを頬張る。
甘くてなんとなく気力が沸いてきた。
「ここに根をおろして暮らしていくのもいいかもな」
ここは俺の土地だ。農具を一式揃え畑でも作れば人が2人暮らしていくくらいの野菜は作れるだろう。
幸い外壁は小さな都市くらいの広さがあるし、銀貨500枚もかなり減ったとはいえ一般市民からすればなかなかの蓄えである。
まだ再スタートできず積んだ状態ではなかった。
「キミのおかげでやり直す決心がついた。ありがとう…それから、これからもよろしく」
「ワシも助かった。よろしくなファリア」
新しいテキストエディタを導入したので使い勝手を確認するのに書き始めました。
あんまり長くはならない予定です。
お楽しみいただければ幸いです。