家具がない
「布の錬成についてはうっかりしてましたわ」
「ボクも木工魔法師範と家が建てられるってだけでうかれちゃって…」
カナリアとミューゼルはお互いに一緒にひと仕事出来るというだけでスゴくテンションが上がってしまい布についてはすっかり抜け落ちていたとのことだった。
結局錬成出来ない分の家具については王都の家具屋で揃えたいとの事だった。
しかし、そうなるとファリアがすぐには買い物に行けない。
この大陸にはいくつかの国があり、国内でも細かく地域が別れており、一般の住人はむやみに土地を離れることが出来ないのだ。
商人にせよ職人にせよ各ギルドの許可がいる。
比較的自由に移動できるのがC級以上の冒険者だったが、それも魔王の討伐で新規のライセンス発行が一時休止状態となっている。
カナリアがダンジョン管理人の資格を取得しているのもその事が遠因だ。
一時期は闇で冒険者ライセンスが買えたが、ダンジョン管理人は年2回の試験に合格しないとなれない。
しかも事前に関連職に就いている必要があるしっかりとした資格だった。
「自治区近くの町でも買えなくはないし、俺たちはこの辺りで手を打つか」
「やだ。可愛いのが欲しい。ルトが王都で買ってきて!」
結局、ファリアを宿に留守番させて俺たちは王都まで買い物に行くことになった。
まず、転移魔法で王都の転移門に移動する。
魔法で好き勝手どこにでも移動されては困るので都市間の転移は世界座標で定められたワープポイントに限定されている。
そこからさらに必要であれば検問を通るのだ。
制限のない居場所であればパーティーのメンバーを指定して転移も出来る。
冒険者のパーティーにはフラッグマンといって、転移座標を担当する役割もあるくらいだ。
とにかく俺たちは王都にたどり着き、各々欲しい家具を揃えたのだった。
因みにダブルベッドのマットレスは噂を聞き付けたバードが結婚祝い(笑)で買ってくれた。
後はカトラリーなど細々した物も揃える。
王都はこの国の中心地なので安くて良い品が多かった。
「自治区は基本的に冒険者に必要なものしか揃ってなかったもんな」
最前線だったので、武器や防具などは充実していたがそれも今は昔の話である。
「人が多いからいろいろ作っても売れるのよね」
「地方の工房だと注文してから作るから時間がかかるしちょっと注文をつけたらそれだけで倍の値段になったりねー」
大きな都市であればあらかじめ商品を作って置いても売れるが、地方では急に食器が必要になることは少ないのでシンプルな物か逆に趣味で作った人を選ぶセンスの物になるらしい。
流行などもまったく無視なので時代遅れのデザインだったりと王都との格差が大きいという。
女子2名は各々好きなものを買いそろえていく。後半は完全に俺とバードがただの荷物持ち状態であった。
「このスプーンの飾り石、ファリアの髪の色みたいじゃありませんこと?」
「ほんとだ。きれーだし、ルトの家の分はここで揃えよう」
「あっでもスプーンとかはルトに錬成させる?」
「いや、刃物以外はまだ難しいから今回は買う」
俺には可愛いの感覚がわからないからほとんど2人にまかせっぷりである。
一通り買い揃えるとカフェで休憩がてら買ったものを収納魔法に片付けていく。
なんでも無限に放り込める魔法では無いので、置き方は大事なのだそうだ。
本当に1日中ひたすら買ってばかりだったが、これで明日からは箱庭で寝ることが出来る。
俺は『元勇者の箱庭』を農地中心でちょっと工房のある牧歌的な村にしようと考えていた。
王都を見ていると都会も良いけれど箱庭としては作るなら田舎の方が落ち着くよなーと思ったのだ。