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勇者、パーティーをクビになる

「これからは俺たちのリーダーはキャシーちゃんだ」


「すまねぇがでもこんなかわいい子を振るなんてありえねーしもう信用できん」


「そんなわけで、バイバイ勇者サマ☆」


魔王を倒した後も各地に残る魔王軍の残党は多い。

勇者の称号を手に入れ、その気になれば遊んで一生暮らせる財産を手に入れても尚、俺たちのパーティーは冒険をやめなかった。


それなのに、女ひとり振っただけでパーティーのリーダーであった俺がクビ宣告を受けるとはどういうことなんだ?


キャシーはまったく俺のタイプではなかった。

豪奢な金髪を高いツインテールで纏め、大きなリボンで頭を飾ってフリル満載の目に痛いピンクのワンピースを着た底意地の悪そうなぶりっこにしか俺には見えなかった。

歳はまだ若そうだが化粧が濃い。

きっとすっぴんは地味顔だ。

地味なら地味なままでいる方が俺は好きだ。


ただ立ち寄った村で俺に言い寄ってきたただの村娘で、その場で断って終わりかと思ったのに…


ヤツは俺以外のパーティーメンバーを全員タラシこんで俺をパーティーから追い出した。


なんて行動力なんだ…


「おーほほほほほ。さよなら」


意外にもC級冒険者ライセンスを持っていたキャシーは元俺のパーティーの新たなリーダーに君臨した。


俺の方がマイノリティだったらしくキャシーはあっという間にギルドの人気者、歌って踊れるアイドル冒険者となったのである。


俺はといえば、そんなキャシーをいじめた悪人として汚名が浸透してギルドでは針のむしろ状態。


どうせ一過性のブームだろうと事態を静観する事にした。


幸い魔王を倒したパーティーのリーダーだったので金はある。


そう思ってたのに退職金と称してパーティーのメンバーがむしりとっていきやかつた。

追い出されたのは俺だけど、リーダーが俺なので書類上は俺がみんなを解雇した事になるのだ。


既に平等に報酬を分けていたのに、俺の取り分をキレイに6等分され、更に残った財産の内半分をキャシーが一瞬俺のパーティーに加入した事にしてもぎ取られた。


ギルドの連中もキャシーにメロメロだったのでこのとんでもない理論が通り、ギルドに預けていた俺の財産はすっかり消えてしまっていたのである。


「全部取らなかったからキャシーは優しいよね?」


自分で自分の事を名前で呼ぶなよクソブス!

そう感じるのは俺だけらしく、周りのヤツはみんなキャシーに同意する。


「キャシーちゃん慈悲深い」


「やさしみを感じる」


「勇者は靴をなめて感謝すべき」


なんでそうなるんだ?ってくらいみんなキャシーの肩を持つ。


最終的に俺に残ったら財産は…

・勇者の紋章

・魔剣ブレイカー

・友情の証

・薬草

・毒消し草

・転移の靴

・幸運の種

・精霊の涙


…それから銀貨500枚。

金貨1枚分の財産が残らなかった。


魔剣は俺しか扱えないので奪われなかったが、鎧はぶん取られた。

布の服では心細いかこの先の事を考えると皮の鎧ぐらいしか買えない。


「さいなんだったな。この先どうするんだ?」


パーティーの中で唯一俺を裏切らなかった魔剣ブレイカーが俺に語りかける。


「とりあえずここにはいられないからどこか他の国に行きたいかな」


土下座して謝ればパーティーに入れてあげるとキャシーに言われているが、そんなのとんでもない。


勇者の紋章があれば大陸のどこへだって自由に行き来できる。


使い捨てだが1度行った場所ならどこでも行ける転移の靴が1足だけ残っていたので、俺はどこでもいいから安心して余生を過ごせる場所に飛ばしてくれと念じながら靴の踵を打った。


転移の靴が連れて行った先は四角い城壁に囲まれた草原だった。


この城壁には見覚えがある。

忘れもしない魔王の城だ。今残っている城壁以外は全部魔王の魔力が作り出したものだったので、魔王を倒すと同時に全部消えてしまったのだ。


魔王がいた頃は低い曇天と濃霧でいつも赤黒くて暗い世界だったが、今は普通に青空が広がっている。


そういえば魔王を倒した時にここは俺のモノになったんだった。

故郷も既に魔王軍に滅ぼされたので、俺には帰る家がない。


「なるほど、確かにここなら誰にも邪魔されない」


「おいっ待て!早まるな相棒」


何も無くなった事に絶望して俺は自らの命を絶とうと魔剣を首にあてがった。


「やめろ!やめろーーー!」


魔剣はガタガタ騒ぐけど、こんな人里離れた場所に飛ばされて、ロクな装備もない状態でこれからどうやって生きろというのか?


ここから人里までどれくらいかかると思う?


生きる希望もありゃしない。


もう人生に悔いはない。


みんなさよなら…


って別れの挨拶が必要な仲間もいないか。


今までの出来事が走馬灯の様に蘇る。


「やっぱ死ねねぇ…」


剣を地面に突き立てると俺は声をあげて泣いた。

誰にも見られないのでおんうおんそれはもう、身体中干からびるくらい泣いた。


水も持ってないのに…


そして俺は脱水症状を起こして倒れた。


やっぱり死ぬんじゃん俺。


意識が暗転して、俺は深い眠りについた。


―完―





















おわり?




これで終るの?


ちょっとそれなくない?



「我が主殿ー意識を、意識を保たれよー」


魔剣は主が死ぬと意識が消滅する。

次の持ち主が現れたとき生まれ変わるというが、それはまた別人格である。


「誰かー助けてくれーー!」


もう声が出ない俺の代わりに精一杯叫んでいる。


かわいそうに、ごめんな?


身体に残っている僅かな水分で俺は魔剣ブレイカーの為に涙を流し、そこで意識が途絶えた。

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