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第五部開始です。
王都 第五王子オリバー
つい先日、第七王女派が第三王女セレスに吸収された。
その事を、第三王子、第四王子は傍観。
かく言う私も、傍観していた。
「セレスは大きくなりすぎた。第三王女という立場からも野心を疑うしかない」
そう独り言ちって、手元の駒を弄ぶ。
第四から第六王女は、まだ動きが無いというよりも動かない。
恐らく近習も本人も平和を望んでいる、お気楽な子達だからだろう。
「問題は、この事態に第三王子と第四王子も動かなかったことだ」
そう、第三王子アルバスと第四王子エイデンの二人は動くと予想していたのだ。
あれで、表には出さないように着々と準備を進めていた二人だ。
今回のタイミングで出なければ、一生出ないままとなってしまいかねない。
「第一、第二王子が揃って消えてくれたおかげで、宙に浮いた貴族の取り込みは進んだ。それは第三、第四王子も一緒のはず。だが、今回動かないとなったら……」
残る方法は、武装蜂起? いや、流石にそこまでの愚行を犯すことはあるまい。
そう思いながらそれぞれの出自をもう一度考えていた。
王国王子と言っても、男兄弟は全員腹違いだ。
第一王子は王国貴族出身の母を、第二王子は帝国皇室出身の母を持っている。
第三王子はジーパン出身の母を、第四王子は獣王国出身の母を持っている。
かく言う私の母は、王国貴族からだ。
恐らく第一王子だけでは国内バランスが悪くなるという事で、入れられたのだろう。
「そうなるとジーパンか獣王国は、この国を乗っ取りたいと考えている可能性が高いか……」
だが、陸続きの獣王国はまだ分かるが、ジーパンはほぼ反対方向で、ここを取っても飛び地でしかない。
そう、得るものなどほぼないのだ。
ならば何が欲しいのか。
しばらく地図と睨み合いを続けた私が出した答えは、『海上権益』だった。
彼の国とは、海上でのいざこざが多い。
特に陸では繋がってないが、海上ルートの多くが重なってしまっているのだ。
それを得るために、と考えると武装蜂起の理由にもなる。
「失敗してもこちらの国力が下がって海が空く。成功すれば属国として植民地化すればいいという訳か」
なるほど、胸糞が悪くなってしまう様な手だ。
そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音が響いた。
「入れ」
私が手短に答えると、一人の男が入ってきた。
彼は黒いマントに身を包み、こちらに近づいてきた。
「第三王子が動きました。目標はセレス王女です」
「ふむ、少し遅かったように感じるが、内部で何があった?」
私が問いかけると、彼は一通の手紙を出してきた。
差出人は……、ジーパン政府。
それも、主要3商人の一人からだ。
「なるほど、作戦の許可を求めていたという訳か?」
「概ねはその通りです。後は、勢力内でも意見が分かれていたという話です」
なるほど、一枚岩ではないと。
「よし! その意見の分かれた相手を取り込みにかかるぞ! 名前はしっかりと把握しているだろうな?」
「はっ! 抜かりなく全て調べ上げております」
「では、行ってこい! 条件は王位以外なら大抵飲むと言っておけ!」
私がそう言うと、黒マントの男は駆け足で部屋を出て行った。
後は、結果を待つだけだ。
王都 セレス
第三王子が、こちらに攻勢を仕掛けてきた。
おそらく第七王女の派閥を、ほぼ丸ごと吸収したために危機感を抱かせてしまたのだろう。
ただ、やり方が良くない。
「武装蜂起ですか。この王都で?」
私は目の前に迫った騎士たちを見つめながらそう言うと、彼らは勝ち誇ったようにしゃべりだした。
「えぇ、悪女であるセレス王女殿下を排し、第七王女と我らの第三王子アルバス殿下が手を組むのです!」
「そうして、この国を牛耳ると」
「牛耳るなど、第七王女と共に治めるのですよ!」
「裏にジーパンの影が見えますが?」
私がそう言うと、騎士たちは先ほどまでと違ったゲスな笑いを浮かべてきた。
「それが見えているのは、貴女だけです。そして、さようならですよ。第三王女様!」
騎士は、言い終わるのとほぼ同時に距離を詰めてきた。
そんな彼の目の前に、一人の男が突然現れた。
否、天井から降ってきた。
「全くもって、ゲスな連中ですな」
その男は、白髪交じりの頭を揺らして騎士との距離を詰めると、一瞬で抜剣して一閃した。
一瞬遅れたあと、私に迫ろうとした騎士の頸椎から血が盛大に吹き出す。
「ちょっと、キール。私の部屋が汚れてしまいますわ」
「これは、申し訳ございません。ですが、後もう少し汚れることをご勘弁ください」
「全く、しかたないわね。構わないからさっさと終わらせてちょうだい」
「ははっ!」
周りに居た騎士たちは、この二人の何とも言えない会話にただ震えているしかなかった。
なぜなら、斬られたのは第三王子の派閥では剛の者で、斬った相手は王国屈指の剛の者なのだ。
そこからは、一方的な虐殺でしかなかった。
キールが追い、騎士たちが逃げ惑う。
そして、部屋の外に出た第三王子派の騎士たちを待っていたのは、第七王女派を吸収した時に手に入れた騎士たちだ。
「掃除は終わったかしら?」
私がそう告げると、キールと騎士たちが血だまりに跪いて報告してきた。
「はっ! この館に迫った者たちは全て排除いたしました。第三王子の元にも既に兵を送っております」
「よろしい。では、この館の中を綺麗にさせなさい。後で第三王子に掃除代金を請求しに行きます」
私がそう言うと、全員が立ち上がり外へと移動を始めた。
さぁ、この沈みかけの王国を得ましょう。
次回更新予定は10月30日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




