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砦内部 オルビス
夜襲から数日後。
第一王子リオールが降伏した報せが入ってきた。
ただ降伏と言っても、部分的な降伏だった。
主な内容としては、リオールが降伏したのではなく兵が降伏したこと。
リオール自身は未だ抵抗中であること。
ワーカーにこれを強要するものでは無いことの3つだった。
そして、その期待を寄せられているワーカーは、こちらの領地から撤退して、自勢力内でこちらを窺っている。
「さて、これでリオールの方は方が付いたと言って過言ではないだろう。あとの問題はワーカーだ」
私がそう言ってネクロスとイアンを見ると、彼らは力強く頷いてきた。
「だが、その問題のワーカーが面倒だ。恐らく奴は、今後訓練された兵だけで奇襲攻撃を繰り返してくるだろう。という予想ができるんだな? ネクロス」
「はっ! 左様でございます。恐らくワーカーは、例の文章の一文をそう理解するかと」
「全くもってはた迷惑な話だ。いたずらに内戦が長引けば、他国の介入を招きかねないというのに」
自分の事を棚にあげて私は、兄であるリオールを非難する。
「しかし、問題はどうやってワーカーを抑えるかですな」
「イアン殿はどう思われる?」
私がイアンに話を振ると、彼は少し考えてから口を開いた。
「……そうですね。ここはディークニクト様に任せるというのはどうでしょう?」
「ディークニクトに任せる? どういうことだ?」
私が聞き返すと、イアンは地図を指差して話し始めた。
「まず、私たちがこの川の中州です。ついで相手は、この北側に居ます。この間には、森があって、どう考えても伏兵などの罠が待っているでしょう」
確かにここの森は隘路となっていて、伏兵を配置しやすい。
というか、私もこういう場所に伏兵を置かれて食料を奪われていた。
「そして、そこに突っ込むにはこちらの兵力も心もとない」
開戦当初2万近く居た兵は現在1万とちょっと。
負傷兵を入れても1万5千が良いところとなっている。
ただ、問題は食料だ。
糧秣担当がこの会議前に提出した資料によれば、1万人で約2週間。
1万5千で、1週間程度しか持たない量になってきているというのだ。
「糧秣の関係で、1万でも向こうに行って攻め滅ぼすのはしんどいな。で、そう言った事情を置いて、策とは?」
「持久戦です。ただし、こちらの兵力を約6~7千程度まで減らします」
「そんなに減らして大丈夫なのか?」
私が疑問を呈すると、ネクロスがすぐさま答えてきた。
「恐らく大丈夫だと思います。砦をもちろん強化し続ければという前提がありますが」
「なるほど、砦に寄りかかって何とかする方法か。良いだろう。士気の高い兵をえりすぐって残すようにしろ」
「はっ!」
こうして、私たちは持久戦という選択肢を取るのだった。
エルドール王国首都
ディークニクトたちが戦っている間、ここエルドール王国の首都でも戦いが繰り広げられていた。
それは血の流れていないことになっている闘争、政治闘争だった。
その渦中に居た人物こそが、第三王女セレスである。
彼女が第一に画策した事は、第一王子が手配した医者のすげ替えである。
それは、もちろん第一王子派の貴族が阻止すべく動きだした。
だが、その誰もが相次いで『病死』したのだ。
そして、この『病死』とは往々にして暗殺と同義であった。
「さて、私の噂はどうなっているかしら? キール」
まだ幼さの残る顔で歪な笑みを浮かべたセレスは、執事兼護衛の老紳士キールに問いかける。
「はっ! はばかりなく言わせていただきますと、『殺戮王女』と言われております」
キールが嘘偽りなく答えると、セレスはふぅとため息を吐いた。
それもそのはずである。
彼の貴族たちを『病死』させたのは、セレスではないのだから。
「全く、やってくれるわね。どこの誰の仕業か分かったのかしら?」
「それが相手のやり方が巧妙でして、まだ尻尾が掴めておりませぬ」
「目星はついたの?」
「はっ! 恐らくですが、第五王子か第七王女の近習という所までは絞れましたが……」
そう言って、キールは口を濁す。
「そう……、では第七王女は、こちらで保護するわよ。奴らが動けないようにしなければいけないわ」
「はっ! ではお茶会などの誘いでよろしいでしょうか?」
「えぇ、それで良いわ」
数日後、第七王女を招待したお茶会が開かれた。
ただ、相手もこれがただのお茶会だとは、思っていないのだろう。
武装した近習が数人付き添ってきた。
「あらあら、せっかくのお茶会に無粋な方たちね。こちらはほぼ丸腰だというのに」
「よく言われますね。そちらには戦闘狂のキール様が、帯剣していらっしゃるというのに」
「いえいえ、私などは既に老いた身。あなた方若者には勝てませぬぞ」
「謙遜を……」
その言葉とは裏腹に、近習たちの表情は張りつめる。
明らかにキールを警戒しているのだ。
そんな様子を察してか、セレスは第七王女に提案をした。
「さて、私たちは女同士姉妹同士で水入らず、と行きたいのだけどどうかしら?」
「はい、私もお姉さまと二人で、お茶がしたいと思っておりました」
「お、王女殿下……」
近習が、第七王女の決定に異を挟もうとした瞬間。
セレスが睨みつけて一喝をしてきた。
「痴れ者が! 主人であるこの子の意向に背く気か!?」
「う……、くっ……」
「大丈夫よ。お姉さまは優しい方だから」
「で、ですが……」
近習たちはそれ以上言えず、王女を見送るしかなかった。
この日第七王女派は解体され、第七王女は第三王女セレスに味方することとなった。
この出来事が、次なる火種になるとは知らずに。
第四部終了です。次回から第五部開始です。
次回更新予定は10月28日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




