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夜襲部隊 ネクロス
敵の増援が次々と来ているが、関係ない。
既に敵の大将であるワーカーらしき人物は、目の前に居る。
「と、止めろ! 奴の足を止めるんだ!」
「だ、ダメです! あの男、滅茶苦茶です!」
敵が及び腰になりながらも三方向、四方向と一斉にかかってくる。
だが、関係ない。
何度来ようが、先ほどと違い及び腰なのだ。
力のない槍や剣の攻撃は、蚊ほども気にならない。
「何だこの力のない攻撃は! 大将を出せ! 大将を!」
10人、20人と敵がこちらに向かってやってくる。
その全員が全員、及び腰ではこちらはつまらない。
「か、かかれ! かかれ! 敵は少数だ! 数で圧殺しろ!」
確かにこちらは少数だ。
だが、一騎当千の強者揃いでもある。
私が10人屠る間に、奴らは2人屠る。
一気に2千人消えれば、流石に敵も浮足立つだろう。
「な、なんだこいつらは!?」
「ワーカー様からの指示はまだか!?」
ほーら、浮足立ってきた。
あとは突くだ……。
一瞬油断しかけた瞬間。
敵の中から、鋭い一撃が私を襲う。
ガンッ! という金属音と共に一人の男が飛び出してきた。
「ネクロス! お前の首をもらい受けるぞ!」
そう言って男は、私の頭蓋を狙って打ち降ろしてきた。
「くっ! わ、ワーカーか!」
頭を狙ってきた一撃を何とかかわした私は、敵の顔を見て驚いた。
これまでの情報では、奴は包帯を巻いて顔を隠していると聞いていた。
だが、目の前のかがり火に映し出された顔は、どう見ても火傷跡を隠していない男だった。
「貴様の主人であるディークニクトを殺す為、私はここまで来たんだ!」
そう言うと、ワーカーは上段から下段、中段を狙って二連撃を繰り出してくる。
何とかその連撃を剣で受け止め、反撃を試みる。
だが、奴の戻りが速くこちらから撃ち込む隙が無い。
「相変わらず、嫌な攻め方を! 嫌なタイミングで!」
そう、これまでの兵たちの勢いは私が作っていた。
だが、ワーカーが出てきたおかげで私の勢いが落ちてしまったのだ。
そうなると、兵たち全員の勢いが落ち、あちこちで押し返され始めたのだ。
「クッ! このままでは!」
「畜生! 息を吹き返しやがった!」
次々と先ほどまで調子のよかった兵たちが、悪態を吐き始める。
「私がこいつを引き付ける! お前たちも、目の前の敵を一人でも多く屠るんだ!」
激励の言葉を投げるが、私自身ワーカーの相手に手一杯で、それ以上言えないでいた。
「敵は少数だぞ! ワーカー様が、敵大将を抑えている隙に全軍周囲の敵を虱潰しに潰せ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
くそ! 相手に指揮できる人材が居る事で、こちらの形勢不利な場所を次々と攻略してくる。
「ツーマンセルで戦え! 敵を複数で迎え撃て!」
こちらの兵の練度の方が遥かにうえだが、相手が先ほどまでよりも組織立って抵抗を始めてきた。
そんな潮目が変わりそうな矢先に、ついに待っていたものが到着した。
「「「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
喊声と同時に、敵の側背面に襲い掛かる影が出てきたのだ。
そう、最初分けていた別動隊である。
「ネクロス殿! 助太刀に参りましたぞ!」
その声を聞くや、ワーカーは一瞬にして状況を理解したのか、即座に退却命令を下した。
「このままではまずい! 全軍渡河せよ! これ以上は無意味だ!」
判断が早かった。
こちらが予想していたよりも早い段階で退却を決めたのだ。
そして、その退却スピードも速かった。
命令を放つと同時に、敵全軍が一塊となって一気に渡河を始めたのだ。
「て、敵軍、一斉に退却しました。……追いますか?」
「いや、これ以上は無意味だ。相手は完全に退却したと言っていいだろう」
傍に居たラッパ手にそう告げると、彼は集合ラッパを鳴らした。
なんとか勝て……、いや引き分けと言っておいた方が良いかもしれない。
私が、落ち着いてかがり火の明かりで周囲をよく見ると、周囲には敵兵と一緒に我が軍の兵が数百ほど見え、考えを改めた。
勝っていない、これは引き分けたのだと。
「集合した兵たちには、この基地内にある物資を全て持って帰るように告げてくれ。これで、相手は動けなくなる」
私はそう言い残すのと同時に、その場にドカッと座り込んだ。
全く、骨の折れる相手……、というよりも手すら出させてくれなかった。
その反省を胸に、私は深くため息を吐くのだった。
次回更新予定は10月26日です。
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