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1-8

内政回でちょっと長めです。

子爵領ロンドマリー ディークニクト


 俺は、数十年ぶりに子爵領に来ていた。

 目的は、視察という名の内政干渉だ。


「ここは、相変わらずせまっ苦しいところだな。色々と変えないと守れるものも守れなくなってしまう」

「し、しかし、今建て直す予算は……」


 俺の視察に同行しているクローリーが、汗を拭きながら言い訳をしている。

 確かに規模としてはかなり大きく、建て直そうと思ったら相当な予算がかかるだろう。

 ただ、城の規模に対して建築物の量があふれているのだ。


「住民の立ち退きなどは難しいのか?」

「は、はい。ほとんどが商人ですので、立ち退きを迫れば街の経済に打撃を与えてしまいます」

「ふむ……」

「あと、純粋な子爵領の領民はそこまで居らず、ほとんどは田畑の近くに農村を作っているのが現状です」


 住民が入りきらない街か……。

 なんとかしないと今後を考えると拙い。


「ちなみに、商人たちは建て直しには何と言っているのだ?」

「部分的に賛成と言っております」

「部分的?」

「はい、建て直し自体には賛成しているのですが、間を縫うようにしてメインストリート近くに出店しておりましたので、立地の件で難航しておりまして……」


 なるほど、確かにそれは商人にとっての死活問題だろう。

 大通りに面したら、それだけ商売が上手くいく可能性が高まる。

 逆に大通りから離れてしまうと、この街だとすぐに潰れてしまうだろう。


「となると、街の設計構想をしっかりと見せて話した方が良いな……」

「そうなりますと、かなりの規模の予算が……」

「予算については、こっちに策があるから心配するな。まぁ説得できてからの話だがな」


 それから俺は、クローリーに地図作成の職人を紹介してもらい、商人たちに提案する資料の制作に入るのだった。




子爵領ロンドマリー 子爵邸 商人ギルド長


 この日子爵邸に集められたのは、皆派手な装いをした商人たちだった。

 この商人たちは、ロンドマリーで幅をきかせている大手の商人ギルドの職員でもある。

 商人ギルドとは、基本的に個人経営の商家が団結して自分たちの利益を守るための団体であり、各町にギルドが個別に設立されている。

 ここ、ロンドマリーは元商人の貴族であるフルフォード家の意向もあり、各町の商人ギルドが集まる一大商業都市なのだ。

 その都市に拠点を構えるギルドの一つの長として今回呼ばれたのだが、集まった全員が何のために呼ばれたのか把握してないという。

 私は、少しでも情報を収集するために、隣に座る顔なじみの男と話していた。


「今回の話、一体なんだと思われますか?」

「私の予想では戦費の補充を要求されると思いますな。過日の件もありますからな」

「確かに。それはさもありなんと言ったところですな。ただ、そうだとしたら我々意外に呼ばれますかな?」


 そう言って、私が周囲を見回すと大規模ギルドだけでなく、ここの個人商店の店主まで呼ばれているのだ。

 我々の様な大規模商人だけならまだしも、土着の商人まで呼ぶのは意外だ。

 

「確かに。そうなると、一体何の話だか……」


 二人でこそこそと話していると、領主が到着したことを衛兵が大声で告げ、全員が起立する。


「領主代行ディークニクト様、ご到来!」

「え?」


 名前を聞いた瞬間、起立した全員が一斉に疑問の声を挙げた。

 そして、次の瞬間には全員が息をのんだのだ。

 何せ、入ってきたのは黒髪のエルフなのだ。

 一瞬にして場の空気が凍り付いたのが分かる。


「ふむ、流石は商人。不測の事態でも息をのむだけとは大したものだな」


 男がそう言って領主の席に座ると、後ろからクローリー子爵が入ってきた。

 そして、領主の席に座っている黒髪の男を怒鳴りつけることもなく、すぐ隣に着席したのだった。

 そんな一連の流れを、私を含む商人全員が息をのんで見守るという、異様な空間ができあがる。


「何を呆けている? 全員指定の席に早く座ってくれ。話を始めることもできないじゃないか」


 黒髪の男がにこやかに席を勧めると、凍り付いていた商人たちが静かに着席した。

 そんな私たちの様子を彼はにこやかに見守ってから話し始める。


「さて、突然の事で混乱をしている者も、ある程度現状を理解した者も居るだろう。だが、とりあえず自己紹介をしよう。俺の名はディークニクト。エルフの里の長をしており、この街、ロンドマリーの領主代行となった。今日は、挨拶と諸君に提案をしようと思ってこの場に集まって頂いた」


 男がそこまで話すと、商人の中から何人かの者が手を挙げた。

 

「申し訳ないのですが、状況がよく呑み込めておりません。この子爵領は、エルフの支配下に入ったという事ですか?」


 一人の商人が単刀直入に聞くと、男は鷹揚に頷き笑顔で「そうだ」と手短に答える。

 その様子を見て、また別の商人が手を挙げて質問をしてきた。


「エルフの支配下に入ったという事は、税などが上がるという事ですか?」

「いや、それについては『ノー』とだけ答えよう。ただ、今回の話は諸君に負担を求める内容でもあるので、その辺りは覚悟をしてほしい」


 『負担』という言葉が出た瞬間、場に居た全員の顔が一瞬にして曇った。

 とかく商人は『無駄な(・・・)負担』というのが嫌いなのだ。

 そんな我らの顔を見て察したのか、黒髪の男が笑顔で訂正してきた。


「あ、いや言葉が悪かったな。負担というよりも『投資』と言うべきだったな」

「投資、ですか?」


 投資と言われると反応してしまうのは、商人の性というものだろう。

 かく言う私も、商魂が一瞬疼いた。


「うむ、では早速だが、本題に入ろうか。こちらの地図を見てほしいのだが……」


 そう言って男が机に広げたのは、この街の地図だ。

 ただ、地図の街は何か違う。

 私が疑問に思っていると、顔なじみの男がボソッと呟いた。


「城壁が広がっている?」


 周囲がしんとしていたのもあって、声が聞こえたのだろう。

 黒髪の男がニッコリと笑って見ていた。


「よく気が付かれた。そう、城壁の形がこの地図では違うのだ」

「なぜそんな地図を?」

「これでは役に立たない地図では?」


 男の説明に間髪入れずに質問が飛んだ。

 確かにこのままでは役に立たない。

 だが、これが提案と言っていた事を考えると……。


「……まさか、城壁拡張の投資を?」

「お、そこの方! その通りです!」


 今度は騒がしい中で、私の声を的確に聞いて返事をしてきた。

 その事に驚いたのもあるのだが、まさか正解しているとは思わず、少々呆けてしまう。

 そんな私を気にすることなく、黒髪の男は話を続けた。


「実は、ここ数日こちらの城内の様子を見ていたのですが、道路が狭すぎると思いませんか?」

「……確かにそれはいつも思うが」

「そうでしょ? 現状、この街は建物が密集していて正直動きにくいですよね?」


 確かに、この街は他の街に比べて建物が密集している。

 しかし、それと城壁の拡張修理工事と何が……。


「なので、このままでは拙いと私は考え、壁の拡張工事を提案したいのです」

「ん? 壁の拡張工事と投資と動きやすさ、何が関係あるんだ?」

「良い質問です!」


 そう言って彼が話し始めたのは、今回の投資の概要だった。


「まず、壁の拡張工事を行う理由ですが、現状の街の広さと建物の量が釣り合っておりません。なので、建物の密集を解決するためにもまずは拡張工事を行います。そして、門の近くから順に店を建て直していきます」

「建て直し!? そんな金私達個人商店にはとても……」


 建て直しという言葉に、個人商店の主人たちが難色を示すと、それも予想していたとばかりに、男はにこやかに答えた。


「そちらについては、救済策を用意しております。建て直しをする際に、現状の建物で使っている木材を買い取ります。この買取金額と差し引きした分を徴収する予定です。なお、解体費用はこちらで持ちますから、純粋に差し引き分のみです。そして、建て直しで現状の金銭が足りない場合、こちらは無利子でお貸ししますのでご安心を」

「無利子!?」


 今度は金貸しの男が声を上げた。

 それもそのはずだ。

 今回の建て直しの件で一番儲かる可能性があるのは、金貸しなのだから。

 ただ、金貸しに法律はなく貸した時の利子は1分からトイチまで様々である。


「金貸しの方々には申し訳ないが、今回の件で個人商店にはこちらから金銭を出させていただく。彼らの職をある程度保証しなければならないので、ご理解いただきたい」

「いや、しかし……」


 金貸しの男も渋っているが、『個人商店には』という言葉を聞いて、若干不満が下がっているのが見て取れる。


「とりあえず、続きを話そう。もちろん個人商店には申し訳ないが、城壁の近くに店を構えてもらう事になる。そして、場所については後ほど抽選という形でさせて頂く」


 エルフの男がそこまで話すと、個人商店は致し方ないと言った表情で頷いていた。

 城壁の近くというのは、有事の際に真っ先に壊れる、壊される可能性の高い店なのだ。

 商人であれば、一番嫌う場所と言っていいだろう。

 ただ、今回の場合は建て直しの資金を無利子でしかも場所としては一応メインストリートの近くになるので、文句が言いにくいのだ。


「ついで、商人ギルドの皆さんだが。先ほどまでの話で大方の予想は付いていると思うが、君たちには、資金を出していただきたい。もちろん資金を出して終わりではない。今回の建て直しで、出していただいた資金の多い商家から順に店舗の場所を候補地から好きに決めて頂いて構わないし、こちらから誓書も出そう」

「なに!?」


 その場に居た全員が色めき立った。

 立地を候補地からではあるが、好きな所に建てられるのだ。

 商売は商品、接客はもちろんだが、何よりも立地がものをいう。

 立地が悪ければ、どれだけ努力しても同じだけ努力した立地の良い商店には敵わない。

 しかも、その場所に対する誓書を出すというのだ。

 この国の誓書とは、貴族が平民と約束をする上で、絶対に破らない事を誓って出すいわば手形である。


「私は金100枚をつぎ込むぞ!」

「何を!? なら私は白金1枚だ!」


 男の条件を聞いた瞬間、場が競りの会場のようになったのは言うまでもない。

 この反応の良さに、提案した男も驚いていた。

 恐らく持ち帰るとでも思ったのだろう。

 だが、商人とはその場で即断即決できる人物でないとやっていけない。

 恐らくここにいる商人ギルドの長たちは、その判断ができる人物ばかりなのだ。

 

「素晴らしい反応をありがとう。ただ、この場で競りを始める訳にもいかないので、1週間後に競りを開きたいと思う。よく検討して来てくれ」


 男のその一言で、各商人ギルドの長は「うちはいくら出す」と見栄と駆け引きをしながらの解散となった。


「……なんだかあのエルフに上手く転がされている気がするな」

「まぁ、何にせよこのチャンスは大きい。私の所は大量の資金を投資する予定ですぞ」


 私の呟きに顔なじみの男は、ニヤリと笑ってそう宣言するのだった。


次回更新は5月22日予定です。


さて、そろそろストックが怪しい(;´・ω・)


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m


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